2015年の相続税の改正により相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられたことで、2014年に4.4%だった相続税の課税対象者が2015年には8.0%に急拡大した。これにより、それまでは基礎控除額の範囲内で相続税の対象外だった人でも相続税の納税対象となり、相続について考える機会が増えている。

生前贈与は相続に限らず資産を次世代に移し消費を促すものであるが、相続税を節税する手段としても有効だ。そのため、計画的に生前贈与を行う事は検討する価値がある。

しかし相続税の節税のため計画的に生前贈与を行っていても、相続は突然発生するものであり、それをコントロールすることはできない。特に生前贈与で相続時の課税価格を減らすはずが、「生前相続加算」により贈与したはずの財産が相続対象となってしまうと目的を果たせない。

そこで生前贈与加算とはどういうものか、どんな場合に加算対象になりどうすればならないかについて紹介したい。

生前贈与加算の対象となる場合

相続,生前贈与
(画像=PIXTA)

生前贈与には、大きく暦年課税と相続時精算課税の2通りの方法がある。生前贈与加算とは生前贈与した財産を相続の対象とするものだ。生前贈与加算は相続税削減の駆け込み贈与を防ぐ目的で設けられた制度で、例えば被相続人が余命いくばくもない事が判明した場合に、相続税を減らす目的で財産を相続人に贈与して課税を逃れる事を防止するものだ。

それでは生前贈与加算されるのは、どのような場合だろうか。財産を相続した「相続人」が被相続人の死亡した日から3年前以内に「暦年贈与」で被相続人より贈与を受けた場合、相続税の課税価格にその期間に受けた贈与の価額を加算して計算する。その際、その贈与で贈与税を支払っていたかどうかは関係ない。つまり、暦年課税の贈与の基礎控除額110万円以下の贈与であっても生前加算贈与の対象となるのだ。

なお、生前贈与加算の対象となった贈与で贈与税を支払っていた場合、既に支払った贈与税は相続税の計算の際に控除されるので、贈与税と相続税の2重払いとなることは無い。

つまり、相続発生は事前に予期できないため、相続税を軽減するために生前贈与しても相続税の課税対象になってしまう可能性があるということだ。

生前贈与加算の対象外となる6つの場合

相続税を減らそうと考えて行った生前贈与も、生前贈与加算の対象となってしまうと節税メリットが減る。しかし、相続開始日前3年以内に行った贈与でも、生前贈与加算の対象外となる場合が6つある。それは生前贈与加算の適用条件によるものが2つと、贈与税の4つの非課税の特例を利用した場合であり、次にそれぞれについて説明する。

まず、贈与の方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2通りの制度がある。生前贈与加算は暦年課税に関するもので、相続時精算課税は文字通り相続時に精算する制度であるため、制度的に対象外となる。

続いて生前贈与加算の対象は「相続人」への贈与であるので、相続人以外に行った場合は生前贈与加算の対象外だ。相続の対象者は通常配偶者や子供となるので、例えば相続人でない子供の配偶者や孫などへの贈与は生前贈与加算の対象外となる。

次に居住用不動産贈与の配偶者控除を利用した場合も対象外だ。この場合は、贈与税の基礎控除110万円にほかに、最大2,000万円が控除される。配偶者控除は、結婚して20年以上の夫婦の間で、居住している不動産や不動産取得資金を配偶者に贈与し、引き続きその不動産に居住する場合に、贈与税の課税価格から最大2,000万円が控除されるものである。

また父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、最大1,500万円まで贈与税が非課税となるが、これも生前贈与加算の対象外となる。この控除を受けるためには受贈者に関する条件があり、贈与者の直系卑属、20歳以上、所得金額が2000万円以下、平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていない、住宅は配偶者や親族からの購入ではない、贈与された住宅に居住することなどが必要である。

更に教育資金の一括贈与時の非課税特例も生前贈与加算の対象外だ。平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に直系尊属から教育の一括贈与を受けた場合、最大1,500万円まで贈与税の課税が免除されるというものだ。この教育資金の非課税特例は受贈者が30歳になるまでに教育資金として使用しなかった分は、贈与税の課税対象となるので注意が必要だ。

最後に結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税も生前贈与加算の対象外である。平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に直系尊属から結婚や子育て資金に充てるため贈与を受けた場合、最大1,000万円が贈与税の課税対象から控除される。但し結婚関連の支出は300万円を限度としている。なお、この結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税特例は、受贈者が50歳になるまでに結婚・子育て資金として使用しなかった分は贈与税の課税対象となるので注意が必要だ。

生前贈与加算の対象になる注意すべき3つの場合

生前贈与加算は相続人への相続発生日から遡って3年以内の贈与が対象となるが、注意すべき場合が3つある。被贈与者が相続人になる「代襲相続」と、贈与が相続と同等に扱われる遺贈となる「遺言」と「保険金」だ。

まず、代襲相続により相続人になる場合だ。生前贈与加算は「相続人」への贈与が対象となると説明したが、孫でも相続人になる可能性があるのだ。例えば被相続人の息子夫婦に孫がおり、その孫に贈与した場合、息子が死亡すると「代襲相続」により孫も相続人になる。従って相続が発生した日までに被相続人の息子が死亡していれば、孫が代襲相続により相続人になってしまうので、相続日から遡って3年間の孫への贈与は生前贈与加算の対象となる。

このように代襲相続などで意図せずに被贈人が相続人になってしまう場合もあり、生前贈与加算の対象に成り得る。したがって、被相続者の息子が亡くなって被贈者の孫が相続人の一人となった場合、生前贈与加算の対象となる可能性があり、例えば贈与を孫から息子の配偶者に替えるなど贈与先を見直して、生前贈与加算を避ける方法も考えることが必要だろう。

次に遺言により財産を相続人以外に「遺贈」した場合、遺贈された被遺者へ相続日から遡って3年以内に贈与があれば生前贈与加算の対象となる。例えば相続人でない孫に毎年100万円を暦年贈与で贈与し、遺言書で「孫に財産を渡す」と記載し孫が遺贈をうければ、孫への毎年の贈与が生前贈与加算の対象となる。相続人でない孫への贈与を贈与税の基礎控除110万円以内で行っても、遺言で遺贈すると生前贈与加算の対象となるので、注意が必要だ。

最後に保険金について注意すべきことがある。被相続者が亡くなった場合、生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」として相続の対象となるが、被相続人が保険料を支払っていて保険金の受取人を相続人でない孫とすることもできる。この場合の孫が保険金を受け取ると遺贈とみなされ、3年以内に被相続人から孫への贈与は生前加算対象となってしまう。保険金の受取人は課税上の損得を考えて慎重に決定すべきである。

このように、被相続人が孫のような相続人以外へ生前贈与をすることで相続税対策を行っても、「代襲相続」や遺言や保険金などの「遺贈」により生前贈与加算の対象となってしまう場合がある。但しこれらは事前に回避できるものであるので、相続人に変化があった場合や遺言状作成及び保険金の受取人決定の際に気を付けるべきだ。

相続放棄すると生前贈与加算は対象外となる

生前贈与加算対象の贈与がある場合に遺産相続せず相続放棄すると、贈与分を加算する以前に相続そのものを行わないので生前贈与加算分の課税は行われない。

また生前贈与加算とは関係ないが、相続時精算課税制度を利用した生前贈与を受けている場合、相続放棄の手続きを行っても課税を免れることはできない。相続時精算課税の趣旨にしたがい相続されたものとみなして課税されるので注意が必要だ。

例えば相続人が被相続人より、相続日の2年前に暦年贈与で贈与を受けさらに1年前に相続時精算課税で贈与を受けた場合、2年前の暦年贈与で受けた贈与が生前贈与加算の対象となる。ここで相続人が相続放棄をすると、2年前の暦年贈与で受けた贈与の生前贈与加算はなくなるが、相続時精算課税は相続したものとして課税されるのである。

但し被相続人の財産に見合わない生前贈与を行い相続時に被贈人が相続放棄を行うと、債権者の権利を侵害する詐害行為とみなされて詐害行為取消権により贈与自体を無効とされる恐れがあるので、注意されたい。

生前贈与加算を理解して突然の相続に対応を

相続は突然発生するものなのでコントロールできないが、生前贈与は計画的に行う事ができる。生前贈与は相続税対策として有効であるが、生前贈与加算を理解すればより賢い対応ができる。

簡単にまとめると、暦年贈与の生前贈与加算の対象とならないためには、「相続人以外」へ贈与し、や生前贈与加算の対象外となる「配偶者控除」「住宅取得等資金の贈与税の非課税」「教育資金の一括贈与時の非課税」「結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税」の4つの制度の利用を検討し、贈与のもう一つの方法である相続時精算課税も含めて生前贈与を考えることである。

これらに加えて、「代襲相続」により相続人となる場合や、遺言や生命保険により相続人以外でも「遺贈」により生前贈与加算の対象となることを知っていれば、事前に対策して回避が可能だ。

生前贈与加算を理解すれば、突然の相続に対しても賢く対応する事ができる。しっかり検討してうまく活用したい。 (ZUU online編集部)