結果の概要:雇用増加数は前月、市場予想を大幅に下回る

米国,雇用統計
(画像=PIXTA)

4月6日、米国労働省(BLS)は3月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+10.3万人の増加(1)(前月改定値:+32.6万人)となり、+31.3万人から上方修正された前月改定値から大幅に伸びが鈍化、市場予想の+18.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.1%(前月:4.1%、市場予想:4.0%)と市場予想を上回り、6ヵ月連続で横這いとなった(後掲図表6参照)。一方、労働参加率(2)は62.9%(前月:63.0%)とこちらは前月から低下した(後掲図表5参照)。

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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

結果の評価:雇用者数の伸びは鈍化も、堅調な雇用増加は持続と判断

3月の非農業部門雇用者数は前月、市場予想を大幅に下回ったものの、良好な天候もあって大幅な雇用増加がみられた2月の反動に加え、3月は逆に天候不良の影響もあったようだ。一方、1-3月期の月間平均増加ペースは20.2万人増と20万人超の好調なペースを維持しているほか、後述するADP統計は、12月以降安定的に20万人超のペースを維持していることから、基調としては堅調な雇用増加が続いていると考えて良いだろう。

家計調査は、失業率が横這いとなっているほか、労働参加率が小幅ながら前月から低下しているため、労働需給の回復が足踏みしていることを示した。

一方、3月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.3%(前月値:+0.1%、市場予想:+0.3%)となったほか、前年同月比も+2.7%(前月:+2.6%、市場予想:+2.7%)と、いずれも前月から伸びが加速し、市場予想並みの伸びとなった(図表1)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

このようにみると、3月の雇用統計は雇用増加ペースの鈍化や家計調査の回復足踏みはみられるものの、労働市場は緩やかな回復が続いており、緩やかな賃金上昇が持続していることを確認する結果であったと言える。

事業所調査の詳細:サービス、財生産ともに雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+8.7万人(前月:+21.4万人)に留まり、前月から大幅に伸びが鈍化した(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

サービス部門の中では、小売業が前月比▲0.4万人(前月:+4.7万人)と前月から減少に転じた。また、人材派遣業が▲0.0万人(前月:+2.1万人)と前月から小幅ながら減少に転じたこともあって、専門・ビジネスサービスが+3.3万人(前月:+5.5万人)と前月から伸びが鈍化した。また、金融サービス業+0.2万人(前月:+3.0万人)、娯楽宿泊業+0.5万人(前月:+2.3万人)なども前月から伸びが鈍化した。

財生産部門は、前月比+1.5万人(前月:+10.6万人)と、98年8月以来の増加となった前月から大幅に伸びが鈍化した。製造業が+2.2万人(前月:+3.2万人)と前月から小幅な鈍化に留まった一方、建設業が▲1.5万人(前月:+6.5万人)と前月から減少に転じた。

政府部門は、前月比+0.1万人(前月:+0.6万人)とこちらも前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が▲0.1万人(前月:▲0.7万人)と前月からマイナス幅が縮小した一方、州・地方政府が+0.2万人(前月:1.3万人)と前月から伸びが大幅に鈍化したことが大きい。 前月(2月)と前々月(1月)の雇用増(改定値)は、前月が+32.6万人(改定前:+31.3万人)と+1.3万人上方修正された一方、前々月が+17.6万人(改定前:+23.9万人)とこちらは▲6.3万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲5.0万人の下方修正となった(図表3)。

なお、BLSの公表に先立って4月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が前月比+24.1万人(前月改定値:+24.6万人、市場予想:+21.0万人)と、+23.5万人から上方修正された前月改定値は小幅に下回ったものの、市場予想は上回った。これで、4ヵ月連続で+24万人台の増加となった。このため、雇用統計は2月から変動が大きくなっているものの、ADPと併せて考えると堅調なペースで雇用増加が持続していると判断できる。

3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.82ドル(前月:26.74ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は925.29ドル(前月:922.53ドル)と前月から増加した(図表4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

家計調査の詳細:労働力人口は5ヵ月ぶりに減少

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で▲15.8万人(前月:+80.6万人)と、17年10月以来、5ヵ月ぶりに減少した。内訳を見ると、就業者数が▲3.7万人(前月:+78.5万人)と前月の大幅な増加から減少に転じたほか、失業者数が▲12.1万人(前月:+2.2万人)とこちらも前月から大幅な減少に転じた。一方、非労働力人口は+32.3万人(前月:▲65.3万人)とこちらは3ヵぶりに増加に転じた(図表5)。これらの結果、労働参加率は前月から小幅ながら低下した。もっとも、労働参加率の水準としては、依然として18年1月の62.7%は上回っている。

一方、失業率は6ヵ月連続横這いとなったものの、小数第2位までとると3月は4.07%(前月:4.14%)と、小幅ながら前月から低下した(図表6)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

次に、3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、132.2万人(前月:139.7万人)と前月から▲7.5万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも20.3%(前月:20.7%)と、前月から▲0.4%ポイント低下した。一方、平均失業期間は24.1週(前月:22.9週)と、こちらは逆に+1.2週長期化した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(145.万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(501.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、3月は8.0%(前月:8.2%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.9%ポイント(前月:4.1%ポイント)と、こちらも前月から▲0.2%ポイント低下した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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