救急車利用の現状

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(画像=PIXTA)

まず、救急車利用について、簡単に見ていきます。

◆救急車の利用は増加しています

現在、日本では、事故でケガをしたり、急病になったりした場合、救急車を呼んで、傷病者を病院に搬送することが一般的です。救急車の出動は、近年、増加しています。2017年には、全国で6,271台の救急車が配備されており、634万件の出動で、574万人を搬送しています。

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◆急病、一般負傷、転院搬送での救急車利用が増加しています

救急出動の内容を見てみましょう。急病が、全体の6割以上を占めています。次いで、一般負傷が15%、転院搬送(1)と交通事故がいずれも8%となっています。近年、交通事故は、減少しています。その一方、急病、一般負傷、転院搬送は、増加傾向にあります。

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次に、搬送された傷病者を、年齢区分別に見てみましょう。搬送された人のうち、高齢者(65歳以上)の占率が高まっています。2017年には、搬送された高齢者は337万人に上り、全体の6割近くを占めています。搬送される傷病者の高齢化が進んでいると言えます。

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(1)より高度な治療等をするために、医療機関の入院患者等を、他の病院に搬送することをいいます。通常、患者の搬送には、病院の救急車やドクター・カー、民間の介護・福祉タクシーが使われます。緊急度や重症度が高い場合は、医療機関からの要請を受けて、消防の救急車が出動し、搬送にあたります。

◆救急車には、頻回利用と軽症利用の問題があります

救急車の出動については、同じ人が何回も救急車を呼ぶ頻回利用や、軽症の人が救急車を呼ぶ軽症利用の問題が指摘されています。

(1) 頻回利用の問題

2014年に、10回以上救急車を要請した人の実績は、次の図表のとおりとなります。全国でわずか2,796人の頻回利用者が、年間52,799回もの出動要請をしている実態があります。

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(2) 軽症利用の問題

次に、2016年に、救急車で搬送された人を、傷病の程度別に見てみましょう。約半数の49%が軽症となっています。軽症の割合を事故種別ごとにみると、急病で49%、交通事故で77%、一般負傷で59%となっています。近年、軽症での救急車利用が、多発していることがうかがえます。

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救急車利用の問題に関する検討と対策

救急車利用の問題についての検討状況と対策について、見ていきます。

◆軽症の傷病者でも、救急搬送が必要な場合があります

約半数を占めている軽症での搬送者について、そもそも救急搬送の必要はなかったのではないか、と指摘されることがあります。しかし、軽症の中には、骨折等のため緊急に搬送を行い、直ちに治療を行う必要があり、搬送先の医療機関において適切な治療を行うことで、入院せずに通院で治療することになった事例も含まれています。つまり、軽症の傷病者でも、救急搬送が必要な場合があります。図表5には、救急搬送の必要性を判断する上での緊急度の概念が含まれていない点に留意が必要です。

また、傷病の程度は、医師の診断により明らかになることにも、留意すべきでしょう。素人の目からは軽症に見えたとしても、医師による精密検査の結果、中等症以上と診断される場合もあります。仮に、このような場合に、救急搬送をしなければ、症状が悪化する恐れも出てきかねません。

◆頻回利用者に対しては、個別の対応が行われています

図表4のとおり、救急車には、一部の頻回利用者が繰り返して出動要請をしている実態があります。これに対して、各消防本部は個別対策を行っています。例えば、あらかじめ頻回利用者の家族や親族等に説明をしておき、本人からの要請があったときには、家族等と協議の上、救急対応するケース。事前に保健福祉部局等と連携しておき、要請があったときには、福祉担当者が自宅を訪問して対応するケース等です。これらは、一定の効果を上げています。

救急車利用の有料化の議論

救急車利用については、有料化の議論があります。頻回利用や、軽症利用が多数を占めている現状は、救急車を無料で呼べることに原因があるとの見方が、議論の背景にあるものと思われます。

◆財政制度等審議会での議論では、救急出動の一部有料化を検討すべきとされています

行政コスト削減の動きが強まる中で、救急車利用の有料化の賛否が渦巻いています。2015年6月に、財政制度等審議会は、「財政健全化計画等に関する建議」を財務大臣宛に提言しました。そこでは、救急出動の一部有料化を検討すべきとしています。

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◆軽症の線引き、生活困窮者の要請躊躇など、諸問題の検討が必要です

軽症利用者について一部有料化する場合には、軽症であるとの判断を医師以外の人ができるのかという問題があります。即ち、軽症について、誰がどのように線引きをするかという問題です。この線引きが曖昧なままでは、救急隊と傷病者(およびその家族)との間のトラブルが頻発しかねません。

また、有料化によって、生活困窮者が救急車の出動要請を躊躇(ちゅうちょ)することも懸念されます。その結果、生活困窮者の救急救命に支障が生じる事態となれば、裕福な者と生活困窮者との間で、医療格差を生むことにつながるかもしれません。

その他、実務面では、料金徴収の事務負担の増大などの問題についても検討が必要となるでしょう。

◆海外の有料化の事例を参考にすべきと考えられます

海外では、救急搬送を有料としている事例が見られます。

ニューヨークでは、救命士(パラメディック)が同乗しない患者搬送で700ドルが必要となります。

ミュンヘンでは、医師の指示による緊急の場合を除いて搬送費用が生じます。医師処方があれば、5~10ユーロの範囲内で搬送費用の10%を負担します。医師処方がないと、概ね100~600ユーロの負担となります。負担額の徴収は、直接患者からではなく、個人保険会社や公的保険会社からとなります。

パリでは、SMURと呼ばれる救急機動組織の料金が、30分の利用で335ユーロとなっています(2012年時点)。そのうち65%は社会保険から支払われるため、患者は残り35%の負担が必要となります。ただし、患者が任意保険に加入していれば、患者負担分は、その任意保険から支払わます(2)。

救急車の有料化の議論を進める際は、これらの事例で、どの程度の効果があり、どのような問題が生じているかといった点を、参考にすべきと考えられます。

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(2)「平成27年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」(消防庁, 平成28年3月)の、図表2-29「救急車の適正利用の推進に係る海外事例」をもとに、筆者がまとめたものです。

篠原拓也(しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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