金融政策の概要:政策金利を据え置き、インフレ見通しを上方修正

米国,FOMC
(画像=PIXTA)

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が5月1-2日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利の据え置きを決定した。バランスシート政策に変更はない。

今回発表された声明文では、景気の現状認識部分で民間設備投資が幾分上方修正されたほか、インフレ率が政策目標に近づいていることが示された。また、見通し部分でもインフレに関して「2%で対称的な物価目標近辺で推移」と、物価目標の前に「対称的な」(symmetric)との表現が新たに追加され、一時的に2%を上回る可能性が示唆されるなど、見通しが上方修正された。一方、ガイダンス部分の変更はなかった。

なお、今回の金融政策は、全会一致での決定となった。

金融政策の評価:インフレ見通しの上方修正を受け、6月利上げの可能性が高いと判断

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。また、直近3月のPCE価格指数(前年同月比)が+2.0%と、FRBの目標水準まで上昇していたこともあり、インフレに関する現状判断や見通しが上方修正されたことも、当研究所の予想通りだった。

FRBは、これまで実際のインフレ動向が想定を下回る状況が続いていたが、ここにきて自分達のインフレ見通しに自信を深めていることが伺える。

当研究所は今回の声明文を踏まえて、FRBが6月に追加利上げを実施した後、18年は四半期毎に年4回のペースで利上げを継続するとの予想を維持する。

一方、今回の声明文で物価目標に関する表現が変更されたことや、これまでの記者会見でも一時的であれば物価目標を上回るインフレ率を許容する姿勢が示されているため、今後、多少インフレ率が物価目標を上振れても、年4回から利上げペースを更に加速する可能性は低いと予想する。

また、足元でトランプ政権が保護主義的な通商政策に傾斜する兆候を示しているため、関税賦課などに伴う経済や物価への影響が懸念されるものの、現状では制裁対象となる輸入額が全体の貿易量からみれば限定的に留まっているため、制裁対象が大幅に拡大しない限り、金融政策への影響は限定的となろう。

なお、3月のFOMC会合後の記者会見では、現在年4回となっている記者会見の回数を増加させることを検討するとしていたが、今回の声明文では記者会見の運営方法に関する言及はみられなかった。

声明の概要

●フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し

  • 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを1.50-1.75%に据え置いた(前回の政策金利引き上げから維持に変更)
  • 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、強い労働市場の状況や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
  • 委員会は、対称的な物価目標に関連させて、物価の実績と将来見通しを注意深くモニターする(変更なし)
  • 委員会は、FF金利の更なる漸進的な引き上げを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
  • しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)

●景気判断

  • 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大した(変更なし)
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は強く、失業率は低位に留まっている(「均せば」”on average”を追加)
  • 最近のデータは、家計消費の伸びが堅調であった第4四半期のペースから幾分鈍化した一方、民間設備投資は力強い伸びが続いた(民間設備投資の伸びについて、前回の「幾分鈍化」”moderated”から「力強い伸びが続いた」“continued to grow strongly”に上方修正)
  • 前年比でみた総合および食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は、2%に近づいた(前回の「2%を下回って推移している」“continued to run below 2%”から、「2%に近づいた」”moved close to 2%“に上方修正)
  • 市場が織り込むインフレ率は、依然として低位に留まっている(前回あった「ここ数ヵ月上昇したが」”have increased in recent months but”を削除)
  • 調査に基づく長期物価見通しは、全般的には変化に乏しい(変更なし)

●景気見通し

  • 経済見通しはここ数ヵ月で強まった(今回削除)
  • 委員会は、金融政策スタンスの更なる漸進的な調整により、経済活動は中期的に緩やかに拡大し、労働市場は強い状況が続くと予測している(変更なし)
  • 前年比でみたインフレ率は、中期的に委員会の2%で対称的な目標近辺で推移すると予想する(前回の「今後数ヵ月のうちに上昇し、2%近辺で安定」“move up in coming months and to stabilize around”を削除し、「委員会の2%で対称的な目標近辺で推移」”run near the Committee’s symmetric 2% objective”に上方修正)
  • 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
  • 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(今回削除)

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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