大きい考え方の差

GDP,経済成長
(画像=PIXTA)

日本では大幅な財政赤字が続いている上に今後も高齢化が進んで財政支出の拡大が見込まれており、財政赤字をどうやって抑制するのかは大きな課題だ。内閣府の経済社会総合研究所は、経済学者や官民のエコノミストといった専門家と、一般の市民との間で、経済問題の見方についてどのような違いがあるかという調査を行っている。これによれば、日本の財政について、専門家の中では国民負担の増加は不可避だと考える人の割合が5割を超えるが、一般市民の中では無駄を削減した後で負担増を行うべきだと考える人が5割を超えていて、考え方の違いが大きい。

GDP,経済成長
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一般市民の中では、負担増は避けられないという人も、負担増を避けるために公共サービスを削減するはやむを得ないという人も、割合は低い。サービスの水準を維持したまま無駄を削って、少しでも負担の増加を抑えて欲しいと思っていると言えるだろう。

一方、経済学者やエコノミストが、無駄があっても良いと考えているはずは無い。公共サービスの削減という答えの割合が一般市民より低いことを見ると、公共サービスを削減したり無駄を削ったりすることではとても財源が足りないし、費用削減の努力に時間をかけている間にも政府債務が累積してしまい、コントロール不能になる恐れが大きいと考えているのだろう。当面は大丈夫でも、いつまでも続けられず、持続性が無いことを懸念していると言えよう。

GDPという指標の限界

経済が成長すれば人々はより豊かになるはずだが、経済成長を測る指標としてGDP(国内総生産)を使うことには批判も多い。生産の過程で有害物質を生み出したり、自然を破壊したりするというマイナスや、原油などの有限な天然資源を消費しているという点を考慮していないといった批判は絶えない。財政赤字を出し続けたり、環境を悪化させ続けたりして、しばらくの間はGDPを拡大させることは可能だが、それは持続ではなく、結局どこかで破綻してしまい、経済成長の成果の多くが吹き飛ぶほどの大きな損失が生まれてしまう。

公害や自然環境の破壊などのマイナスをGDPに反映させようという試みは昔から行われており、日本でも環境・経済統合勘定の推計が行われている。この他にも、家事やボランティアなどの無償労働を反映させようという動きや、現在のGDP統計では十分把握できていない様々な経済活動があるという批判は絶えない。しかし、多くの要素をGDPに適切に反映させて、「GDPが増えれば全体として経済社会が良い方向に進んでいる」というような完璧な指標にすることは不可能だろう。我々は考慮できていない要素が多数あることを踏まえた上で、GDPを経済成長の指標として使うべきだ。財政赤字の問題や環境への負荷などの持続性の問題は、GDPの成長とは別に、このまま現在の経済活動を続けて行っても大丈夫なのかを検討する必要がある。

大きくなる人類の力

自然環境との関係で持続性の問題が大きくなってきたのは、人類が持つ力が急速に拡大していることが大きな原因だ。18世紀に蒸気機関が発明されて、人類はそれまでにない大きな力を手にしたが、最初のうちはその影響を心配する必要はなかった。しかし、その後も人類が次々と新しい力を手に入れて、より大きなエネルギーを使うようになると、自分たちの経済活動が自然環境に与える影響も考えなくてはならなくなった。

地震や津波、台風や洪水など大きな自然災害の前に人間は無力だと感じることも多いが、人間の使う力は自然の持っている力に対して無視できるレベルでは無くなってきている。人類が1年間に使うエネルギーは、風や波などが持っているエネルギーの規模の数%という水準にまで達しており、影響を心配すべきレベルにまで拡大しているそうだ。人間活動の規模が、地球が持つ浄化作用・復元力に比べて無視できないレベルとなっているものは、エネルギー問題だけに限らないだろう。

将来の世代は我々よりもはるかに科学技術の水準も高く、大きな問題解決能力を持っているはずだが、それでも元に戻すことのできない変化もあるだろう。何でも問題を先送りして将来世代に押し付けて良いというものではあるまい。

今我々が行っている経済活動による影響が、どれほど世の中が進歩しても元には戻せないものかも知れないということを考えれば、何とかなるだろうと放置するのは危険で、少し慎重過ぎるくらいの対応を行う方が正しいということになるだろう。

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櫨浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

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