結果の概要:雇用者数、失業率ともに市場予想を上回る結果

米雇用統計
(画像=PIXTA)

6月1日、米国労働省(BLS)は5月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+22.3万人の増加(1)(前月改定値:+15.9万人)となり、+16.4万人から下方修正された前月改定値を大幅に上回ったほか、市場予想の+19.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.8%(前月:3.9%、市場予想:3.9%)と、こちらも前月比横這い予想に反して2ヵ月連続で低下し、00年4月以来、18年ぶりの水準となった(後掲図表6参照)。

一方、労働参加率(2)は62.7%(前月:62.8%)と3ヵ月連続で低下した(後掲図表5参照)。

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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

結果の評価:全般的な改善を示しており、FRBによる6月利上げを後押しする内容

5月の非農業部門雇用者数は、3ヵ月ぶりに+20.0万人超の増加ペースに加速したほか、年初来の月間平均増加数が+20.7万人増と20万人超のペースに回復した。雇用者数は10年10月から統計開始以来最長となる91ヵ月連続で増加しているが、足元で雇用増加ペースに鈍化はみられない。

家計調査は、失業率が2ヵ月連続で低下し改善を示したものの、前月同様労働参加率の低下を伴っており、労働市場からの退出者が増加したことも影響しているとみられるため、失業率の改善については一部割り引いて考える必要があるだろう。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.3%(前月:+0.1%、市場予想:+0.2%)と、前月および市場予想を上回る伸びとなったほか、前年同月比でも+2.7%(前月:+2.6%、市場予想:+2.6%)と、こちらも前月、市場予想を上回っており、5月は賃金上昇率の加速を示す結果となった(図表1)。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このようにみると、5月の雇用統計は、労働参加率こそ低下したものの、堅調な雇用増加に加え、失業率の低下、賃金上昇率の加速、と主要な指標で、労働市場の回復が持続していることを示した。このため、緩やかな物価上昇を示した先日のPCE価格指数の結果と併せて、FRBによる6月の政策金利の引き上げを後押しする結果であったと言える。

事業所調査の詳細:広範な業種で雇用が増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+17.1万人(前月:+10.9万人)と前月から大幅に伸びが加速した(図表2)。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

民間サービス部門の中では、人材派遣業が前月比▲0.8万人(前月:+0.9万人)と前月から減少に転じたため、専門・ビジネスサービスは+3.1万人(前月:+4.3万人)と前月から伸びが鈍化したものの、医療サービスが+2.9万人(前月:+2.3万人)と小幅ながら伸びが加速したほか、小売業が+3.1万人(前月:+0.9万人)と、大幅に伸びが加速した。

一方、財生産部門は前月比+4.7万人(前月:+5.3万人)と、前月から小幅に鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。製造業が+1.8万人(前月:+2.5万人)となったほか、建設業が+2.5万人(前月:+2.1万人)と堅調な伸びを維持した。

政府部門は、前月比+0.5万人(前月:▲0.3万人)と前月から増加に転じた。内訳をみると、連邦政府が▲0.3万人(前月:▲0.2万人)と前月から減少幅が拡大した一方、州・地方政府が+0.8万人(前月:▲0.1万人)と前月から増加に転じたことが大きい。 前月(4月)と前々月(3月)の雇用増(改定値)は、前月が+15.9万人(改定前:+16.4万人)と▲0.5万人下方修正された一方、前々月が+15.5万人(改定前:+13.5万人)とこちらは+2.0万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.5万人の上方修正となった(図表3)。

なお、BLSの公表に先立って5月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が前月比+17.8万人(前月改定値:+16.3万人、市場予想:+19.0万人)と、+20.4万人から下方修正された前月改定値は上回ったものの、市場予想は下回った。この結果、ADP統計は3ヵ月連続で20万人を下回るペースとなったものの、年初来での平均増加数は+20.4万人増となっており、雇用統計と併せて米国の雇用増加が20万人超の好調なペースとなっていることを示した。

5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.92ドル(前月:26.84ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は928.74ドル(前月:925.98ドル)と前月から増加した(図表4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

家計調査の詳細:労働力人口は3ヵ月ぶりに増加も、労働参加率の低下は持続

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で+1.2万人(前月:▲23.6万人)と、3ヵ月ぶりに僅かながら増加に転じた。内訳を見ると、失業者数が▲28.1万人(前月:▲23.9万人)と前月から減少幅が拡大した一方、就業者数が+29.3万人(前月:+0.3万人)と大幅な増加に転じており、労働力人口を増加させたことが分かる。非労働力人口は+17.0万人(前月:+41.0万人)と3ヵ月連続で増加した。

これらの結果、労働力人口は増加に転じたものの小幅に留まったため、労働参加率は3ヵ月連続の低下となった(図表5)。なお、労働参加率は高齢化が進む米国では構造的に低下する傾向があるが、プライムエイジと言われる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率でみても、18年2月の82.2%から5月の81.8%まで3ヵ月連続で低下しているため、足元の労働参加率の低下は人口動態による影響とは言えない。

このため、失業率は18年ぶりの低水準となっているものの、労働参加率の低下にみられるように、労働市場からの退出者が増加していることが一定程度影響していることから、失業率が労働需給を過大に評価している可能性には注意したい(図表6)。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

次に、5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、118.9万人(前月:129.3万人)と前月から▲10.4万人の大幅な減少となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも19.4%(前月:20.0%)と、前月から▲0.6%ポイント低下した。一方、平均失業期間は23.1週(前月:21.3週)と、こちらも前月から低下した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(145.5万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(494.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、5月は7.6%(前月:7.8%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、01年5月(7.5%)以来の水準となった(図表8)。

一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.8%ポイント(前月:3.9%ポイント)と、こちらも前月から▲0.1%ポイント縮小した。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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