AI化に不安定な株式市場と、運用業界には厳しい状況が続く昨今。そこに身を置く業界のプレイヤーや投資家は、どのように動くべきなのだろうか。ファイナンシャル・プランナーとして資産運用のアドバイスを行うGAIA代表の中桐啓貴氏と、投資信託の運用を手がけるスパークス・アセット・マネジメントの清水裕氏に聞いてみた。
アクティブ vs パッシブ、コーポレートガバナンス視点での結論
――運用の世界では長年「アクティブ vs パッシブ論争」があります。コーポレートガバナンスの視点から企業を見ることは、アクティブファンドマネージャーだからこそできるのでしょうか。
清水裕氏(以下、清水)/私はそう考えていますね。アクティブとは何かと考えたときに、「個性」がひとつのキーワードになると思うんです。会社には1社1社違った個性があります。営業利益率やROEといった数値だけでなく、どんな価値を世の中に提供しようとしているのかという思いを含めた、キャラクターがありますよね。
それをまるごと受け入れて、いいと思ったら投資をする。企業を指数で見るのではなく、キャラクターで見る。それはアクティブファンドマネージャーにしかできないことなのではないでしょうか。
中桐啓貴氏(以下、中桐)/資産運用は長期で取り組むべきものですので、マーケットのアップダウンを乗り越えていくことが大切です。しかし、それは想像以上に難しい。マーケットが崩れれば資産が1割や2割になってしまうということもありますし、報道もネガティブなものが多くなります。平常心を保つこと自体が難しくなるでしょう。
そこを乗り越えられるかどうかは、投資している会社やファンドが好きかどうか、というところが大きいのではないでしょうか。パッシブファンドのように単なる指数で見ていると大した思い入れもありませんので、少しの崩れでも「いったん現金にしておこうか」などと非合理的な判断をしてしまいがちです。
そういう意味では、思い入れのあるアクティブファンドに投資することでより長期の投資ができて、それによってリターンもよくなるという好循環に入れるのではないかと思います。
――たしかにそうですね。相場の崩れを乗り切るには、専門家のサポートも重要だと思います。
中桐/ありがとうございます。弊社は「お客様のニーズをヒアリングして、その解決策として商品をご提案する」という姿勢を大切にしております。企業のコーポレートガバナンスに注目して、長期運用をしていただけるお客様が増えればうれしいですね。
迫り来るAI化、金融・運用業界への影響はあるのか
――ファイナンシャル・プランナー業界でも、運用業界でも、AIやロボアドが話題になっているかと思います。この点については、お2人はどうお考えでしょうか。
中桐/機械を活用する部分もあってもいいとは思うのですが、ヒューマンでしかできない部分もやはりあると思います。そのひとつが、長期的にマーケットに居続けるためのサポートだと思っています。マーケットが崩れたときに、ロボットに「大丈夫ですよ」と言われても、お客様は安心できませんよね(笑)。
会計ソフトが出てきた時期にも「会計士はいらなくなるんじゃないか」という論争がありましたが、現実化しませんでした。実際には会計ソフトを使って、人が効率的に問題を解決していくようになったわけです。ファイナンシャル・プランナー業界のAI化についても、同様なのではないでしょうか。
清水/人間でないとできないことと言えば、やはり「対話」ですよね。中桐さんがおっしゃるような、お客様への丁寧なヒアリングというところだと思います。 われわれはお客様だけでなく、企業との対話も大事にしていかなくてはなりません。両者から「スパークスがいてよかった」と思ってもらえるような瞬間を少しでも増やすことが、大切になってくるのだと感じています。
――今回の対談で「企業にドキュメンタリーあり」ということを痛感しました。投資信託という商品として販売されているので、そのドキュメンタリー性を伝えにくい面もあるのではないでしょうか。
中桐/たしかにそういうところはあります。ファンドは目に見えないものですので、よりハードルが高くなりますよね。
個人投資家の方々にとっては、投資をしているファンドにどういう人がかかわっていて、その後ろにはどういう企業があって、それがどういうふうに動いていっているかということは、イメージしにくいと思います。リアルのイベントは、それを体感していただけるいい機会だと考えています。
――消費が最近「モノ消費」から「コト消費」に変化してきていると言われていますが、投資もやはり「コト化」していくのでしょうか。
中桐/そういう流れはあると思います。今はワンクリックでなんでも買える時代なので、対面型のイベントの価値は高まっていると思います。また、そのような場に参加することで、お客様のリターンもよくなると思っています。
揺れ動く株式市場に備えるために、投資家がすべきこと
――最近は株式市場の動向が激しく、投資家の方々は不安な日々をお過ごしかと思います。そういった方々に向けて、メッセージをお願いいたします。
清水/相場が荒れたのは、たしか2月前半頃からでしたよね。為替が円高になって日本の株が下がるというような、よく見る構造だったと記憶しております。
私はその頃アメリカに出張に行ったのですが、現地の投資家の方々とディスカッションをしておりました。こういうときには為替の質問をしてくる投資家の方々が多いのですが、そこでは為替に対する質問は、10件のうち1件だけでした。残りはすべて、コーポレートガバナンスの話題だったのです。
これまでの日本企業におけるコーポレートガバナンスは、グローバルスタンダードからはズレているところがありました。今まではうまくいっていませんでしたが、逆に言えばこれを改善することによって、よくなっていけるということだとも思うんです。
実際に、そこに対しての海外投資家の関心も非常に高い。もちろん短期的なアップダウンはあると思いますが、長期的な日本の株式市場の上昇にはかなりの確信をもっていますし、私もそれに少しでも貢献したいと思っています。日本企業がマーケットに左右されない体質に変わっていくことを、投資家の方々も期待していただければと思います。
中桐/今は「人生100年時代」と言われています。資産運用は一生の問題で、数年間だけするとかしないとかいう話ではなくなってきています。今までのように貯金一辺倒ではなく、投資への意識があったほうがいいと思います。
資産運用はギャンブルとは違い、長期的に運用することでふえていくものですので、短期の上げ下げを乗り越えていく必要があります。その中では投資家のみなさん自身が勉強していくということが大切ですし、信頼できる専門家を見つけるというのもひとつの手段だと思います。(取材構成:大住奈保子)