シンカー:FRB、ECBは引き続き政策正常化・引き締めスタンスを示している。資産バブルが形成さえる前に、政策正常化に向けた動きを進めたいようだ。1-3月期の景気減速は一時的であり、4-6月期からは堅調な経済・物価動向は政策目標に向かっていくという自信を維持しているようだ。ただ、長期間続いたグローバルな景気拡大がいずれ終わるリスクも高まり始めている。過度な金融政策の引き締めは景気減速を早めてしまうリスクがあるだろう。各国中央銀行は次の景気減速を早めることないように、限られた時間で政策を正常化していくことになるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

FOMCは9月に今年後一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。しかし、2019年にはその後はインフレが軟調となり、FRBの動きを抑制するとみている。弊社は、(早ければ)2019年後半のリセッション入りを見込んでおり、その結果FRBによる利上げ回数の見込みも制限される。

トランプ大統領が今後更に比較的タカ派的なFRB理事を指名しても、政策スタンスへの具体化は時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高いため、FRBの政策が過度にタカ派的になる可能性は低いだろう。

ECBは6月14日の政策会合で、2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBは、初回利上げ時期のガイダンスを「2019年中頃の後」(「2019年夏の間は」金利を変更しない)に変えることに、満場一致で合意した。ただ、初回利上げ時期を15カ月間も示しても情報としての価値はほとんど無く、過度に意欲的な策だとみている。SGの予想は引き続き2019年6月と9月の2回にわたり、第1次の利上げが実施されると見込んでいる。だがその後は米国景気の減速で追加利上げは遅れるだろう。

日銀は引き続き、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。持続的な物価上昇が可能な環境が整ったことを確認後、早くても2019年中頃ににかけて長期金利の誘導目標が引き上げられるだろう。2019年中に長期金利の誘導目標を引き上げることができる確率はまだメインシナリオだが、50%程度へ低下したと考える。ただ、政府の財政政策の緩和のコミットメントがかなり強ければ、2019年度と2020年度の日銀の物価予想がかなり強くならない限り、日銀も共同歩調をとるため、長期金利の誘導目標の引き上げを消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りする可能性が出てきている

PBoCは金融システミック・リスクの回避のために複数のツールを使い、流動性管理を通じた安定したコリダー内で維持。BOEは8月の利上げがメインシナリオだが経済・物価統計次第では11月に利上げの可能性もあるだろう。

●米国(Fed)

FFレート(予想:2018年はあと1回の利上げ、2019年には2回の利上げを予想):

FOMCは9月に今年後一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。

6月のFOMC声明では、前回から多くの点が変更されていた。その中にフォワードガイダンスも含まれており、見たところ、今後の経済や利上げに対して従来よりも強い自信を示していた。今後の金利パスは3月に比べてややタカ派的になったようだ。FFレートのFOMC参加者予測の中間値は、2018年(の年末時点)が2.1%から2.4%に上昇して、年内にあと2回の追加利上げがあると示している。これにより、2018年中の合計利上げ回数の予測が、3月時点の3回から4回に増えたことになる。また2019年末時点の予測の中間値も2.9%から3.1%に上昇したが、これが示す2019年中の利上げ回数は従来と同じ3回だ。だが2020年末時点の予測中間値は3.4%で変わっておらず、2020年中の利上げ回数が(従来の2回ではなく)わずか1回だと示している。

ただ、2018年と2019年のドット(FOMC参加者の予測)が、1個下方に動くだけで、3月時点のドットチャートが示していた金利パスと全く同じになる。現段階で今後の金利パスを強く確信することはできず、ドットチャートはFOMC内で見方が非常に分かれていることを示している。SGの予想は(早ければ)2019年遅くに米国がリセッション入りすると見込んでおり、これによりFRB利上げ回数の見込みは限定される。ただ、インフレ加速懸念により、2018年遅くと2019年早くに追加利上げ実施の余地があるだろう。

FOMCメンバー(予想:過度にタカ派になることは無いだろう):

4月中旬にはトランプ大統領が、リチャード・クラリダ氏をFRB副議長に、ミシェル・バウマン氏をFRBのコミュニティバンク担当理事に各々任命しており、上院の承認待ちとなっている。2017年11月にFRB理事に任命されたマービン・グッドフレンド氏はまだ承認されておらず、承認される可能性小さくなった可能性があり。

ウイリアム・ダドリーニューヨーク連銀総裁の後任にはサンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ総裁が任命された。同氏の今までの発言から推測すると、FOMCでは中立的または若干タカ派的なスタンスを取る可能性が高いだろう。Fedのエコノミスト出身である同氏はFOMCの常任委員になることで、今後の利上げ局面で大きな役割を果たす可能性がある。注目は今後のFOMCの政策金利が見通し通り引き上げられると、同氏が提唱してきた実質均衡金利モデルが示す水準を大幅に上回り金融政策の大幅な引き締めを意味することをどう説明するかだろう。サンフランシスコ連銀総裁の後任は発表されていない。

FOMCのメンバー構成は、2018年にはタカ派色が強まった。非常にハト派だった地区連銀総裁(シカゴ連銀エバンス総裁、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁)が、よりタカ派的な地区連銀総裁(クリーブランド連銀メスター総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁)に交代した。トランプ大統領が今後更に比較的タカ派的なFRB理事を指名しても、政策スタンスへの具体化は時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高いため、FRBの政策が過度にタカ派的になる可能性は低いだろう。

●ユーロ圏(ECB)

金融緩和政策(予想:2018年末に量的緩和終了):

ECBは6月14日の政策会合で、2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBのバランスシートの拡大は非常に急速で、2017年末には、バランスシート規模がGDP比40%に達している。初回利上げ時期を15カ月間も示しても情報としての価値はほとんど無く、過度に意欲的な策だとみている。それよりも期待できるのは、QE終了で、マイナスの中銀預金金利の「調整」を考慮する機会が得られることだ。政治的な不確実性の高まりや、ユーロ圏の景気軟調が2018年Q2まで長引くことに対処する必要があるだろう。

政策金利利上げ(予想:2019年中に2回の利上げを実施):

ECBは、初回利上げ時期のガイダンスを「2019年中頃の後」(「2019年夏の間は」金利を変更しない)に変えることに、満場一致で合意した。一部の政策担当者はすでに、この時期には満足と表明している。将来の金利パスに関する見方を示すという、リスクの多いコミュニケーションツールを使わずに、景気刺激策の縮小という問題を目立たなくできたことが、ECBには喜ばしいようだ。

2019年6月と9月の2回にわたり、第1次の利上げが実施されると見込んでいる。だが米国景気の減速で追加利上げは遅れるとみられる。これは、今年、来年とユーロ圏のGDP成長率が潜在成長率を上回る中で実現、GDPギャップがプラス(インフレギャップ)となる結果になるだろう。2020年後半に利上げサイクルが再開するにつれて、中銀預金金利、主要リファイナンシング・オペ金利、貸出金利のコリダーは、最低の50bpに戻ると弊社は見込んでいる。弊社が想定している2019年後半の米国リセッション入りの後、ECBが小幅利下げを実施するとみられる。2020年3月には預金金利がマイナス0.15%になると見込まれる。

●日本(日銀)

誘導目標(予想:2019年中頃に長期金利の誘導目標を引き上げがメインシナリオだが遅れるリスクは高まっている):

2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。しかし、堅調な国内ファンタルスを背景に物価目標の達成前に、日銀は長期金利の誘導目標引き上げに動くだろう。長期金利の誘導目標引上げの必要条件は、展望レポートの経済・物価のリスクバランスの中立化に加え、コアコアCPIの前年比が1%を超え、円安の動きが再開することであると考える。これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは、早くて2019年中頃と予想する。日銀が誘導目標を引き上げても、上昇していく長期金利のフェアバリューとのスプレッドは拡大し、緩和効果は継続していると説明するだろう

2019年中に長期金利の誘導目標を引き上げることができる確率はまだメインシナリオだが、50%程度へ低下したと考える。政府は、2020年までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」として「大胆な税制、予算、規制改革などあらゆる施策を総動員する」方針である。2019年10月の消費税率引き上げの環境を整えるため、その実施の前から景気拡大を強くする必要があり、補正予算を含む景気対策を実施する可能性がある。政府の財政政策の緩和のコミットメントがかなり強ければ、2019年度と2020年度の日銀の物価予想がかなり強くならない限り、日銀も共同歩調をとるため、長期金利の誘導目標の引き上げを先送りする可能性が出てくることになるかもしれない。その場合、消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。

マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2021年となろう。

●中国(PBOC)

銀行間金利(予想:金融システミック・リスクの回避のために複数のツールを使い、流動性管理を通じた安定したコリダー内で維持):

PBoCは6月24日に大半の銀行を対象に預金準備率(RRR:requiredreserveratio)を50bp引下げると発表した。金融システミック・リスクの回避が、PBoCの優先事項の1つだ。このためには、銀行の流動性状況を安定させる必要がある。同時に、金融レバレッジの大幅な拡大を抑制するという政策目的も、銀行の資金調達コストが低すぎるとする論拠になる。PBoCは(預金準備率の追加引下げを含む)複数のツールを使った良く計算された流動性管理を通じて、銀行間金利を安定したコリダー内に留め置くと見込んでいる。

PBoCは、政策金利を変更する最終ステップとして、7日物リバースレポ金利を市場ベンチマークに近づけることを目指しているようだ。7日物リバースレポ金利が今年2回引上げられて2.65%に達するだろう。しかし、銀行間金利コリダー(2.7-2.9%)が上振れることは無いと考えている。

●英国(BOE)

政策金利(予想:8月の利上げがメインシナリオだが経済・物価統計次第では11月に利上げの可能性もあるだろう):

6月MPC会合では、政策金利は見込み通り0.5%で据置かれたが、従来の7対2(据置きに賛成7、反対2)から6対3に変わった。以前から利上げを主張していたソーンダース、マカファティー両委員に、ハルデーン理事が加わった。また、MPCは緩和政策の出口戦略を引き続き議論し、今後更なる引き締めを行うスタンスを示している。しかし、同時に1-3月期の景気減速が一時的であったことを確認してから、更なる利上げに踏み切りたいようだ。今後後の生産関連の月次指標、8月会合前に発行されるサーベイデータや、経済指標全体により、Q2の景気回復が力強くなると示されるだろう。堅調な景気拡大が確認できれば、BOEは8月に利上げに踏み切れるだろうが、今後の経済・物価統計次第では11月に後ずれする可能性もあるだろう。BOEの政策委員のほとんどはタカ派的なスタンスを持っていることも確認されたまた、2019年にはもう一回利上げに踏み切るだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司