●7月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して続落し、1米ドル=6.8180元(前月末比2.8%安)で取引を終えた。なお、日本円に対する人民元は100日本円=6.09435元(1元=16.41円)と前月末比1.9%の元安・円高で取引を終えた。

●当面は波乱含みの展開となりそうだ。米国が対中強硬姿勢を崩さなければ、中国は高関税の効果を減殺するため人民元の下落を許容する可能性が高い一方、米国が貿易摩擦の解消に向けた道筋を探り始めれば、「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、人民元の切り上げを許容する可能性もあるからだ(想定レンジは1米ドル=6.3~6.9元、1元=16.0~17.5円)。

7月の人民元の動き

人民元,今後の展開
(画像=PIXTA)

7月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して下落、1米ドル=6.8180元(前月末比2.8%安)で取引を終えた。これまでの人民元の動きを振り返ると、15年8月には米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ、その後も資金流出が続いたが(人民元ショック)、17年5月に中国が人民元の基準値設定方法を変更したこと、欧州経済の復調を背景にユーロドルが上昇したこと、米中貿易摩擦を背景に元高圧力が高まるとの見方が浮上したことなどから、18年春には人民元ショック前の同6.2元を窺う動きとなった。しかし、欧州経済の減速やEUの結束の乱れを背景に4月にユーロドルが下落に転じると元高も止まり、米国の関税引き上げに対抗する中国が元安を許容するとの見方が強まり、人民元は大きく下落することとなった(図表-1)。なお、7月は日本円も下落したが相対的に小幅に留まったため、日本円に対する人民元は100日本円=6.09435元(1元=16.41円)と前月末比1.9%の元安・円高で取引を終えた(図表-2)。

人民元,今後の展開
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後の展開

さて、今後18年9月に向けての人民元レートは波乱含みである。米国がこのまま対中強硬姿勢を崩さなければ、中国は高関税の効果を減殺するため人民元の下落を許容する可能性が高い一方、米国が貿易摩擦の解消に向けた道筋を探り始めれば、中国は人民元の切り上げを許容する可能性もあるからだ(想定レンジは1米ドル=6.3~6.9元、1元=16.0~17.5円)。

ここもとの米中経済環境を概観すると、米国では景気が好調で米中貿易摩擦を懸念した株価下落も小幅に留まっている。他方、中国経済は内需に陰りが見られ株価も軟調だが今のところ失速する懸念は小さい。しかし、米中貿易摩擦がさらに深刻化していくと米中経済が共倒れになる恐れがでてくる。米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して中国企業の抱える過剰生産設備問題は深刻化し、中国経済には大きな打撃となる。一方、中国が対抗して米国からの輸入品に高関税をかければ、中国における米国製品の競争力は低下、中国への輸出は減少して米国の農業生産者などが顧客を失うとともに、米国では中国からの輸入品が値上がりし家計や製造コストを圧迫するため、米国経済にも大きな打撃となる。

但し、18年11月に米中間選挙を控えるトランプ政権としては、選挙前に大きな成果を得ずして振り上げた拳を下ろす訳にはいかない。一方、中国としては、対外開放や関税引き下げなど譲歩できる面は譲歩しており、国策として打ち出した「中国製造2025」に関する施策を取り下げることはできない。そして、中国は人民元の下落を許容し始めた。昨年12月と3月の米利上げに際して中国は、米国に追随してリバースレポ(7日物)を引き上げたが、6月の米利上げではそれを見送った。また、預金準備率を2回に渡って引き下げるなど金融政策を緩和方向に調整し始めた(図表-3)。従って、当面の人民元レートは下値(1米ドル=6.9元)を試す可能性が高いだろう。

しかし、米国が貿易摩擦の解消に向けた道筋を探り始めると、中国は人民元の切り上げを許容する可能性もある。中国サイドから見ると、人民元高は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国の景気回復は世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-4)。また、人民元高は輸入物価を押し下げるため、製造コストの低減や消費者物価の抑制というメリットもある。従って、人民元は政治的な駆け引きで動く側面もあるため、米中間で「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、中国が人民元を切り上げる可能性は十分にあると見ている。

人民元,今後の展開
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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