今こそ、仕事→人生へのシフトチェンジを
ガムシャラに働けば、いつかは報われる──。しかし、昨今はこの生き方が通用しにくくなってきた。では、これまで会社のために必死に働いてきたミドル世代は、これからどうすればいいのか。そんな人こそ、自分の人生を自身でデザインする必要があると指摘するのは、日本マイクロソフト社長として活躍し、45歳で独立後は、「人生は道楽」を信条に活動を続ける成毛眞氏。40代が今後の人生を面白くすごすための秘訣をうかがった。
40代で趣味を始めれば3,000時間を費やせる
経験豊富な40代は職場の中心となる存在。毎日、激務に追われている人は多いはずだ。しかし、「毎日仕事ばかりしていたら、将来、必ず行き詰まる」と成毛氏は警鐘を鳴らす。
「仕事人間のまま定年を迎えると、何の肩書きもないまま、世に放り出されることになります。その状態から、何かを一から始めるのは、気力の面でも体力の面でもしんどいもの。そして、何もできることのない自分に気づき、がく然とするのです。100年生きると言われる時代に、長い余生を何もしないまま過ごすことは不可能。そうならないためにも、40代のうちから、外の世界を切り拓いたほうが良いのです」
成毛氏が勧めるのは、趣味の時間を確保することだ。ただし、アウトプットできるものに限るという。
「趣味を勧める理由は、定年後の楽しみだけではありません。60代、70代になってもお金を稼ぐ手段を作るためです。今後は年金不安もあり、定年後もお金を稼ぐ必要のある人も増えてきます。ならば、好きなことをして働きたいもの。今のうちに趣味を本気でやっておけば、年をとってから、それで収入を得られるようになります」
趣味によっては、驚くほど稼げるものもあるという。
「たとえば、プラモデル作りが趣味なら、作品を高く売ることも可能。1万円程度のキットを丁寧に組み立てて塗装すると数10万円で売れることもある。ガンダムのプラモが100万円近くで落札されたこともあるのです。
今は、インターネットを通じて、ワールドワイドに売れるので、買い手がたくさん見つかるうえに、より高く売れます。アルバイトよりも、よほど稼げるでしょう」
他には、「技術を教える」「コレクションを売る」といったパターンもある。
「ただし、いずれにせよお金を稼げる域に達するには、時間がかかります。特別な技術や経験は、時間をかけなければ手に入りませんからね」
目安として、お金が得られるレベルに達するには、3,000時間を費やす必要があると成毛氏は言う。
「以前、同時通訳者の鳥飼玖美子氏が『日本人でも、三千時間も英語に触れれば、日常会話はできるようになる』と言っていました。趣味も同じぐらい時間を費やせば、ものになるでしょう」
3,000時間ということは、1日1時間かけても10年弱はかかる計算だ。
「だから、できるだけ早く、40代から始めたほうが良いのです。趣味を通じて、おのずと仲間も増えるし、健康にもなる。あくまで主観ですが、趣味に没頭している人は、みんな元気です。今の生活に潤いを与える意味でも、何か始めることをお勧めします」
始めやすいのは「育てる」か「集める」趣味
もっとも、今、趣味を持っていない人は、何を始めれば良いか、悩んでしまうかもしれない。「稼げる趣味」と考えれば、なおさら悩むだろう。稼げる趣味として、成毛氏が挙げるのは、「何かを育てる」ことだ。
「たとえば、会社員時代からメダカの交配をしている知人によれば、珍しいメダカになると、1匹あたり100万円で売れるそうです。さらにすごいのは、サボテンのような多肉植物。交配して珍しいものができると、億単位で売れることもあるそうです。メダカと違い世界中に買う人がいるので、ケタが違います。日本古来のものでいえば、盆栽を育てるのも良いでしょう。最近は世界中に盆栽の愛好家がいます」
コレクションも、ビジネスマンが始めやすく、高収入が期待できる趣味だ。
「コレクションの良いところは、意外と元手がかからないこと。時間をかけてコツコツ集めれば良いので、お金持ちでなくてもできるのです。たとえば、ブリキのおもちゃ博物館の館長である北原照久氏も、若い頃から、ブリキのおもちゃを一つずつ買い集めた結果、財を築くことができたそうです。ライカのレンズ、レコード、時計、ワイン、王冠……。どんなものでも時間をかけて集めれば、家が一軒建つぐらいの財産を築き上げられると思います」
ただ、稼げる見込みが高い趣味だとしても、続かなければ意味はない。
「趣味選びの一番の基準は、好きなことをすること。好きでなければ、3,000時間も投じられません。急に好きなことなんて見つかりませんから、まずは色々と試してみましょう。ただ、好きなことには、集中して時間を投下すること。そうすれば、好きなことだけしてお金を稼ぐ、所ジョージさん的な生き方ができるかもしれませんよ」
人づき合いをやめれば時間は作れる
が、忙しい中、毎日1時間を費やすのは簡単ではない。
「趣味の時間を捻出するには、今の働き方や生き方を見直す必要があります。たとえば、今の仕事に全力を注ぐのをやめるのも一つの考え方です。
40代にもなれば、ある程度、会社人生の先が見えてくるはず。大して出世が見込めないのに仕事に全力を傾けるのは、時間のムダです。クビにならない程度に手を抜きましょう」
また、「時間がかかることを避ける」という視点も必要だ。
「所ジョージさんは、趣味の時間を確保するため、打ち合わせに時間のかかる仕事や移動時間の長い仕事は避けるそうです。いかに仕事に時間をかけないか、という視点は常に持つべきです」
成毛氏の場合は、余計な人づき合いを一切しないそうだ。
「たとえば、マイクロソフトを辞めてからは、元社員にはほとんど会っていません。飲み会も食事の誘いも、結婚式の招待もすべて断っています。元の部下には『成毛さん、冷たいですよね』と言われますけどね(笑)。そうすれば、時間はものすごく空きます。『自分の人生で何が大事か』を考えれば、おのずと時間はできるはずです」
成毛 眞(なるけ・まこと)
1955年、北海道生まれ。79年、中央大学商学部卒業。82年、株式会社アスキーに入社後、株式会社アスキー・マイクロソフトに出向。86年、マイクロソフト株式会社に入社し、OEM営業部長、取締役マーケティング部長などを経て、91年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退職後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、早稲田大学客員教授、スルガ銀行社外取締役ほか、書評サイト『HONZ』の代表を務める。近著に、『これが「買い」だ』(新潮社)、『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。』(KADOKAWA/中経出版)、『教養は「事典」で磨け』(光文社)、『情報の「捨て方」』(KADOKAWA/角川書店)などがある。(取材構成:杉山直隆 写真撮影:永井 浩)(『The 21 online』2018年1月号より)
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