不動産投資家にとって避けられない事務作業が確定申告です。一つ一つの作業はそれほど手間ではないのですが、本業で確定申告を必要としない会社員にとってはややこしく感じられるかもしれません。今回は、確定申告に必要なステップを5つに分け、その概要について解説します。「確定申告の期間が限られること」「事前の準備が重要であること」を理解していきましょう。

家賃収入あるなら確定申告を忘れずに

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(写真=photographyfirm/Shutterstock.com)

確定申告とは、毎年の所得を自分で計算して税務署に申告し、納税額(所得税や住民税などの税額)を確定させる事務手続きのことです。会社員として給与所得だけを得ている人の場合、会社が納税の手続きを肩代わりしてくれるため、確定申告を自分で行う必要はありません。しかし、給与所得以外20万円以上の所得を得ている場合や、給与収入が2,000万円を超えている場合など、会社員でも確定申告が必要となるケースがあります。

不動産投資を専業としている人は、もちろん確定申告をすることが必要です。会社員として本業に取り組みつつ不動産投資をしている兼業投資家も、不動産投資によって年間20万円以上の所得(不動産収入-経費)を得ているのであれば、確定申告をすることになります。

万が一、確定申告を怠ってしまうと、ペナルティとして加算税や延滞税と呼ばれる追徴課税を余計に課される羽目になります。最悪の場合には、脱税行為として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金などの刑事罰を受ける恐れもあります。不動産投資を考えているすべての人にとって、確定申告は避けられない作業と考えたほうがよいでしょう。

ただし、不動産投資をしていても確定申告をしなくてもよいケースがあります。不動産所得など「給与所得以外の所得」が20万円を切っていた場合です。それでも、住宅ローン控除や医療費控除などを申告すれば税金が安くなりますし、不動産投資で赤字が出ていた場合も「損益通算」という仕組みで所得の合計額を圧縮でき、税金を抑えられます。そのため、義務はなくても、確定申告をしたほうがよいでしょう。

不動産投資ならおすすめは青色申告

確定申告の方法は2種類あります。白色申告(しろいろしんこく)と青色申告(あおいろしんこく)です。どちらも一長一短あるのですが、不動産投資を行うのであれば青色申告のほうがおすすめできます。大ざっぱにいってしまうと、白色申告ですと手間はかからないが節税メリットは小さく、青色申告ですと手間はかかるのですが節税メリットは大きいといえます。

申告の種類処理の手間節税メリット
白色申告あまりかからない小さい
青色申告かかる>大きい

このため、「節税メリットよりも処理の手間を重んじるのであれば、あえて白色申告を選択する手もあるのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし、白色申告でも手間がまったくかからないわけではありません。収入金額や必要経費について日付・相手方名称・金額などを帳簿に残し、5年間や7年間は保存する義務があるなど、2014年から青色申告に近い事務処理が求められるようになりました。つまり、手間の面でのメリットが大幅に薄れてしまっているのです。

白色申告でも手間がかかるのであれば、節税メリットの大きい青色申告を採用するのが自然でしょう。青色申告ならば、「青色申告特別控除」と呼ばれる控除額が65万円(戸建て5棟、区分なら10室以上の場合)、簡易帳簿では10万円受けられますし、純損失を次の年に繰り越すこともできます。特に不動産投資においては、経費にできる支出が大きく節税メリットを最大限活用しておきたいので、白色申告を採用する意味はほとんどありません。

最近では会計ソフトも進化しており、日々の経理作業の負担はかなり軽減できます。さらに手間を減らしたいのであれば、税務処理を税理士などにアウトソースすることがおすすめです。特に不動産投資の規模が大きくなってくると、専門知識を持たない限り自分の手にあまるようになる可能性が高いので、外部の専門家の手を借りるのがよいでしょう。

確定申告の全体スケジュール

確定申告は、1月1日から12月31日までの所得を対象としています。申告期間は、翌年の2月16日から3月15日(それぞれ土日に当たる場合は翌月曜日)の約1ヵ月間に限られています。この期間を過ぎてしまうと、延滞税を課される可能性が高いので注意が必要です。また、期間の後半は申告者で混雑し申告完了まで時間がかかる可能性もあります。そのため、なるべく申告期間の開始までに必要な作業を完了させ、期間の前半に余裕を持って申告を済ませるのがスマートです。

特に青色申告を選択する場合は、日々の帳簿づけが肝心です。そして、毎月収入と経費、税金などの金額を計算し、記録していきます。これを1~12月まで繰り返すことで、確定申告に必要な元データを入手できたことになります。

確定申告の期限に間に合わなくなりそうで慌てる人というのは、この帳簿づけの習慣が身についていないケースがほとんどです。2月や3月になってから毎月の記録・計算を始めようとするので、つじつまが合わずに混乱してしまいます。経費にするはずだった支出の領収書が見つからず、事務所や自宅、車の中を探し回る羽目になるわけです。月に1回程度、数値を纏める習慣を付ければ十分対応可能ですし、家計を管理する切っ掛けにもなりますので、難しく考える必要はありません。

余裕を持って確定申告を終わらせるためにも、だいたいの作業の流れだけは頭に入れておきましょう。事前準備から申告手続き、その後の税金の納付まで、主に5つのステップに分けることができます。以下、それぞれのステップについてご説明します。

ステップ1:必要な申請書の事前提出

確定申告そのものとは関係ないのですが、不動産投資を開始したら「青色申告申請承認書」を税務署に提出しましょう。この申請書がないと青色申告を選択できません。この場合は必然的に白色申告のみ選択可能となり、節税メリットを享受できなくなります。特に不動産投資を開始してすぐの時期は黒字が出にくいため、不動産投資の赤字を他の所得の黒字と損益通算させることが特に重要です。

青色申告申請承認書は、国税庁のホームページからダウンロードし、印刷して手書きで記入します。以下のURLを見れば分かるのですが、1ページ限りの書類ですから、記入には10分もかからないはずです。

参考:所得税の青色申告承認申請書

こちらは、原則として3月15日までに提出します。ただし、1月16日以降に事業を開始した場合、不動産目的の貸し付けを受けた場合は事業開始から2ヵ月以内に提出する義務があります。提出日は平日に限られるため、提出期限が土日や祝日の場合はその翌日が期限となります。実際の物件の購入前であっても、不動産投資のための情報収集や相談など具体的な行動を開始したのであれば、早めに青色申告申請承認書を作成・提出しておきましょう。

ステップ2:必要書類を集める

青色申告が選択可能であることを確認したら、いよいよ確定申告のための必要書類を集める作業に入ります。必要書類には、「自分で作成するもの」「勤務先からもらうもの」「不動産会社など各業者からもらうもの」「その他」の5種類に分けられます。

【自分で作成するもの】
・確定申告書B
・青色申告決算書(不動産所得用)

どちらのフォーマットも、以下のURLからダウンロードできます。ただし、開業届を提出していた場合は1月に税務署から送られてきますので、あえて自分で用意しなくてもよいでしょう。自分で印刷したフォーマットでも、送られてきたフォーマットでも提出に支障はありません。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/yoshiki.htm
※こちらのURLは、国税庁によって毎年変更される可能性があります。必ず最新年度版をダウンロードするようにしましょう。

【勤務先からもらうもの】
・源泉徴収票
こちらは、毎年12月ごろの年末調整の時期に勤務先の会社からもらえます。間違って捨てないようにしましょう。

【不動産会社や金融機関など各業者からもらうもの】
・売買契約書
・譲渡対価証明書
・入居者の賃貸契約書(業務委託している場合)
・家賃の送金明細書
・物件の管理代行手数料明細
・修繕費の分かる書類(見積書、請求書、領収書など)
・損害保険の領収書
・ローンの明細書

【その他】
・不動産所得税・登録免許税・固定資産税・都市計画税などの納付通知書
・交通費や交際費などの経費の領収書

場合によっては、これ以外にも印紙の領収書などがあります。たくさんあってとても覚えきれませんが、要するに収入と支出の金額が分かる書類をすべてそろえるということです。帳簿にそれぞれの金額を記録していると思いますが、いざ税務署から問い合わせを受けたときに、金額の裏付けとなる書類を用意しておく必要があるわけです。

ステップ3:損益計算書・確定申告書の作成

毎日帳簿をつけており、各種数字の裏付けとなる書類も用意できたのであれば、いよいよ確定申告書と青色申告決算書、そして収支内訳書を作成するステップに入ります。それぞれの書類の書き方も、以下のURLで詳しく説明されています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/yoshiki.htm

URLが変わってしまっている場合は、国税庁のホームページから検索してください。毎年確定申告の時期には、書類の書き方を含めた解説ページが設置されています。

ちなみに、確定申告や経理事務用のソフトウェアを使用している場合は、帳簿づけをきちんと行えば自動的に確定申告書とその他の必要書類が作成されます。手計算による計算ミスの恐れがないので、できればこういったツールを活用するのが楽でしょう。ただし、最初の年は経理手続きの具体的な作業の流れを知るためにも「自分でやってみる」というのも一つの考え方かもしれません。

ステップ4:所定期間内に税務署へ提出

必要書類を一通りそろえたら、2月16日から3月15日の間に税務署へ提出します。提出方法は3種類あります。1つ目は、直接税務署に赴いて書類を職員へ手渡しするやり方です。特設コーナーが設けられていると思われますので、そちらにいる職員に書類を渡します。その場で細かく計算チェックされることはなく、書類がある程度あるかどうか、記入漏れがないかなどを簡単に調べるだけのはずです。長い列ができているようなことがなければ、10分程度で提出は完了するでしょう。

2つ目のやり方は、郵送です。これだと、税務署に行かなくても、列に並ばなくても提出を完了できます。ただし、3月15日には税務署へ到着するように手配する必要がありますので、期限ぎりぎりのときは郵送ではなく直接赴くことをおすすめします。なお、居住地(住民票のあるところ)を管轄する税務署へ書類を提出します。管轄の税務署は以下のURLから確認しておきましょう。

https://www.nta.go.jp/about/organization/access/map.htm

3つ目は、「e-Tax」という電子申告システムを利用する方法です。あらかじめマイナンバーカードを用意し、専用のICカードリーダライタを取得しなければなりません。ただし、事前に税務署で本人確認を行い、e-Tax用のID・パスワードを入手する手もあります。どちらにしても事前準備が求められますが、書類作成の必要がないという点が大きなメリットです。

http://www.e-tax.nta.go.jp/index.html?_fsi=Zbkt7O8P

ステップ5:所得税・住民税の納付

確定申告を終えても、まだすべての作業が完了したわけではありません。税金を納付して初めて完了です。特に、所得税の納付期限には注意しましょう。確定申告の期限と同じ3月15日までに納付しなければなりません。税務署に納付書が備え付けられているはずなので、そちらを利用して金融機関で支払います。期限が近づいても税務署は通知してくれませんので、申告を終えてホッとした人がうっかり払い忘れることが容易に考えられます。必ず支払いましょう。

ただし、あらかじめ「振替納税」という届け出を提出しておくと、4月ごろの口座引き落としになります。自分で払うのが面倒であれば、こちらを選択するとよいでしょう。なお、所得税の還付を受ける場合は、申告後約1ヵ月程度で口座に振りこまれます。住民税については、6月上旬に通知書と納付書が届くはずです。7月以降4期に分けて支払うことになります(まとめて支払ってもOKです)。

減価償却と損益通算で節税

以上、確定申告の大まかな流れを解説しました。経費を増やして利益を圧縮し、節税できるのが不動産投資事業で確定申告を行う大きなメリットの一つです。ここでは、節税テクニックの一つとして減価償却と損益通算について解説します。

減価償却とは、企業が建物や設備の購入にかかった費用を資産として計上し、その資産が活用できる期間にわたって費用を振り分ける会計処理のことです。たとえば、100万円の資産を10年間にわたって振り分けるとすると、毎年10万円ずつ経費として計上できることになります。振り分けられる期間を「耐用年数」と呼びます。耐用年数は、資産によって決められています。RC造の新築住宅の場合は、47年です。

減価償却費はあくまで会計上の経費であり、実際に毎年お金が出ていくわけではありません。そのため、戦略的に減価償却を活用すれば、毎年の税額をある程度コントロールすることも可能です。その一つが、損益通算を活用する方法です。

損益通算は、2種類以上の所得があり、赤字のものと黒字のものがある場合に、それらを合算することで結果として利益の額を抑える効果があります。特に不動産投資の場合、初年度に仲介手数料や不動産取得税などの経費が発生します。仮に給与所得が1,000万円で不動産所得がマイナス100万円だとすると、課税対象となる所得額は差し引き900万円となります。これによって、所得税や住民税などの額が抑えられるというわけです。

減価償却や損益通算をうまく活用することで、賢く税額をコントロールしましょう。確定申告の際は、この2つを意識して計算を進めるとよいでしょう。

記帳を定期的に実施すること

確定申告をスマートに終わらせるために、最も重要なことは何でしょうか。それは、帳簿づけを日ごろからこまめに実施することに他なりません。仮に確定申告書の作成を申告期限ぎりぎりまで忘れていたとしても、帳簿づけさえしっかりやっておけば大丈夫です。そして、書類を保管してあれば長くても1日で終わらせることができます。

しかし、帳簿をつけておらず、領収書やその他必要書類がまったくそろっていないと、とても1日では終わりません。書類がなくても申告自体はしなければいけませんから、結局ほとんど経費を計上できず、場合によっては白色申告でお茶を濁すしかないでしょう。それでは、節税メリットをほとんど享受できません。不動産投資に興味のある会社員の多くは、確定申告の経験がない人がおおいでしょう。今回の記事で大まかな流れや必要な作業をつかみ、前もって準備できるよう心がけてください。(提供:Incomepress


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