平成30年度税制改正では、事業承継を実行するときに贈与税・相続税の納税を一定期間猶予する「事業承継税制」も大きく改正され、2027年末までの10年間限定の特例措置が設けられました。この税制改正で具体的に要件はどう変わったのかを中心に解説します。

特例を受けるための2つの条件

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(画像=PIXTA)

特例を受けるためには2つの条件があります。1つ目は、2018年4月1日から2023年3月31日までの5年間に「特例承継計画」を作成して各都道府県庁に提出することです。2つ目は2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間に贈与や相続、遺贈などによって株式を取得し、実際の承継を済ませることです。

事業承継の負担を最小化

事業承継税制の改正では、事業承継を進めるために必要な負担も減らされています。従来は3分の2と定められていた納税猶予対象の株式上限を撤廃したほか、相続税の猶予割合も80%から100%に拡大されました。

詳しく解説しますと、従来は納税猶予対象が全体の3分の2、相続税の納税額の猶予割合が80%だったことから、実際の相続時の猶予割合は「全株式 × 2/3 × 80%」と計算すると約53%となっていました。これが税制改正で「全株式 × 3/3 × 100%」と変わったことから、猶予割合が100%、つまり実質的な相続時の納税負担はゼロになったということになります。

事業承継税制の対象者の拡大

また従来は1人の経営者から1人の後継者への贈与・相続が税制の対象となっていましたが、税制改正では複数の株主から最大3人までの後継者の承継も対象になっています。

具体的に言えば、これまでは先代経営者の配偶者や同族関係者、配偶者、第三者からの贈与は税制の対象になっていませんでしたが、改正後は経営者以外のこれらの人からの贈与も対象になりました。また後継者(代表取締役である必要などの要件あり)が例えば長男、長女、次女と3人の場合でも、後継者への承継も従来の1人から3人まで対象が拡大されたことから、全員への贈与が納税猶予の対象とされることになりました。

経営環境の変化に応じて納税額を柔軟に計算

大幅なリスク軽減が図られたことも特徴です。従来は「承継時の株価」で贈与税と相続税の納税額が計算されましたが、承継後に株価が下落した状態で自主廃業や売却を行うと税負担が実質的に重くなってしまうことから、「廃業時の評価額」や「売却額」で納税額が算出される仕組みに変更されています。実質的な減免制度の創設と言えます。

事業承継後に経営環境などの変化から、株価が下落することは少なくありません。こうした現状を加味して後継者の将来の不安をより小さくすることで、事業承継への懸念を少なくし、より事業承継が行われやすい環境を整えたということです。

雇用維持要件を見直し、要件を実質的に撤廃

そのほか、今までは5年間で80%割以上の雇用を平均で保たなければ原則として無条件で納税猶予は打ち切られましたが、未達成の場合でも一定の指導などを受けることで猶予が継続される内容に改正されました。言い換えれば、雇用維持要件を実質的に撤廃したともいえます。

5年間で平均8割の雇用を維持できなかったケースにおいては、改正ではまず理由の報告を後継者に求めた上で、その理由が経営状況の悪化などではなかった場合については、認定支援機関から指導や助言を受けることで猶予が継続されることになっています。

事業承継を検討中の中小企業には朗報となった税制改正

事業承継時の負担軽減や対象者の拡大、減免制度の創設、雇用維持要件の弾力化など、どれも事業承継が円滑に進むことを目的としたもので、承継を検討している中小企業にとっては朗報であると言えるでしょう。(提供:事業承継ガイド


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