~災害級の評価で消費増税先送りの可能性も~

天変地異,日本経済
(画像=PIXTA)

要旨

● 今年の猛暑そのものに関しては、例年より梅雨明けが早い異例の状況だったが、一方で西日本を中心にかつてない豪雨災害も発生しており、日本中で予想外の気候が続いている。また異常気象に加えて、6月中旬に発生した大阪北部地震の影響も無視できない。

● 7-9月期の日照時間が全国平均で+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.51%程度押し上げられる関係がある。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が全国平均で+1℃上昇すると、同時期の日照時間が+10.5%増加し、家計消費支出を約+3,186億円(+0.54%)程度押し上げることになる。

● 一方、7-9月期の降水量が全国平均で10%増えれば、同時期の日照時間が全国平均で▲2.5%減ることを通じて、同時期の個人消費を▲773億円押し下げる関係がある。

● 最終的に過去最大級の異常気象が家計消費に及ぼす影響を試算すれば、過去最も気温が高くなった2010年並みの猛暑となった場合は7-9月期の個人消費を+5,196億円押し上げる一方で、関東・東北豪雨が発生したことで過去最も降水量が多かった2015年7-9月並の降水量となった場合は、7-9月期の個人消費を▲2.600億円押し下げることになる。過去最大級の猛暑効果は過去最大級の豪雨被害によって半分以上が相殺される可能性がある。

● 更に、今回はかなり早いタイミングで急激に熱くなったため、食料品値上げの悪影響が早めに出る可能性があることに加えて、気温が高すぎることで逆に旅行や外食や虫よけ関連などに通常の猛暑効果が出にくい可能性がある。

● 6月下旬に発生した大阪北部地震もインバウンドへの影響等を通じて経済に悪影響を及ぼす可能性がある。実際2016年4月の熊本地震の際には2016年4-6月期の非居住者家計の直接購入額が前期から762億円程度減少し、同時期の経済成長率を年率▲0.2%ポイント以上押し下げたことから、記録的な猛暑になっても今年7-9月期の経済成長率が盛り上がらない可能性がある。

● 異常気象の影響に関しては、猛暑の反動減もあり、秋口以降にかけて悪影響が目立つと見られるが、その時期は奇しくも消費税率引き上げの最終判断と重なる可能性がある。西日本豪雨や大阪北部地震の影響もあわせて、この夏の天変地異ともいえる異常気象は消費税率引き上げを先送りする理由になる可能性があろう。

(注)本稿はダイヤモンドオンライン(8月1日)への寄稿を元に作成。

過去最高を超える記録的な猛暑

今夏は記録的な暑さとなっている。そして、猛暑になると話題になるのが、猛暑が日本経済に与える影響である。猛暑になると売れるようになる商品・サービスがある一方、売れなくなる商品・サービスもある。そして、そうした効果が経済全体に与える影響は軽視できない。

しかし、今年の猛暑そのものに関しては例年より梅雨明けが早い異例の状況だったが、一方で西日本を中心にかつてない豪雨災害も発生しており、日本中で予想外の気候が続いている。また異常気象に加えて、6月中旬に発生した大阪北部地震の影響も無視できない。

これらを「天変地異」という枠組みでとらえると、押し上げ効果もあれば押し下げ効果もある。筆者は先だって猛暑が経済に与える影響についてのレポート(7月17日付レポート「日本経済にも厳しい猛暑」)を発表したが、これに豪雨や地震が加わると、日本経済の与える影響は猛暑だけのケースと比べて異なる結果になる可能性がある。そこで本稿では、過去の事例を参考にしながら、今夏の天変地異が経済に与える影響を予測する。

7-9月期の全国平均気温+1℃上昇で家計消費が+3,200億円

まず、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかをおさらいしてみよう。

内閣府『国民経済計算』を用いて、7‐9月期の実質家計消費の変化と全国平均の気象の変化との関係を見た(資料1)。すると、両者の関係には驚くほど連動性があり、7-9月期は気温の上昇や日照時間の増加により、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。

したがって、単純に7-9月期の家計消費と気象の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

天変地異,日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計してみた。すると、7-9月期の日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる(資料2)。そして、過去20年の関係から読み解くと、7-9月期の日照時間が全国平均で+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.51%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が全国平均で+1℃上昇すると、同時期の日照時間が+10.5%増加する関係があることから、家計消費支出を約+3,186億円(+0.54%)程度押し上げることになる。

したがって、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が記録的猛暑となった2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、全国平均の気温が平年比で+1.6℃上昇し、日照時間が+17.1%増加することにより、今年7‐9月期の家計消費は平年に比べて+5,196億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。なお、7月17日付レポートと若干数字が異なるのは、前回は東京・大阪平均の気象データに対して、今回は全国平均の気象データを用いたためである。

天変地異,日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

重なる豪雨被害の悪影響

しかし、今年は猛暑効果だけを見ても経済全体の正確な影響はわからない。一方で西日本を中心にかつてない豪雨災害も発生しており、日本中で予想外の気候が続いているからである。過去の例では、2012年7月に九州北部を中心に集中豪雨が発生した際に、2012年7-9月期の経済成長率は個人消費の落ち込み主導でマイナス成長になったという事実がある。

つまりいくら猛暑となっても、降水量が増加すると逆に家計消費の減少等をもたらす可能性がある。

実際、過去20年程度における夏の降水量と家計消費の関係を見れば、7-9月期の降水量が全国平均で10%増えれば、同時期の日照時間が全国平均で▲2.5%減ることを通じて、同時期の個人消費を▲773億円押し下げるという関係がある(資料4)。

このため、こうした影響も考慮し、最終的に過去最大級の異常気象が家計消費に及ぼす影響を試算すれば、過去最も気温が高くなった2010年並みの猛暑となった場合は7-9月期の個人消費億円押し上げる一方で、関東・東北豪雨が発生したことで過去最も降水量が多かった2015年7-9月並の降水量となった場合は、7-9月期の個人消費を▲2.600億円押し下げることになる。したがって、過去最大級の猛暑効果は過去最大級の豪雨被害によって半分以上が相殺される可能性があることが推察される。

天変地異,日本経済
(画像=第一生命経済研究所)
天変地異,日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

つまり、猛暑特需は一時的に夏の個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろ豪雨が重なった場合は、その効果が相殺される姿がうかがえる。更に、今回はかなり早いタイミングで急激に熱くなったため、食料品値上げの悪影響が早めに出る可能性があることに加えて、気温が高すぎることで逆に旅行や外食や虫よけ関連などに通常の猛暑効果が出にくい可能性がある。したがって、今後も台風の到来などにより豪雨被害などが拡大することになれば、今夏の猛暑効果が更に相殺される可能性もあるため、注意が必要だろう。

大阪北部地震も影響を及ぼす可能性

このように、今後の気象次第では、足元で猛暑の押し上げと豪雨の押し下げが綱引きとなる日本経済に思わぬ影響が及ぶ可能性も否定できない。なお、6月下旬に発生した大阪北部地震もインバウンドへの影響等を通じて経済に悪影響を及ぼす可能性がある。実際、2016年4月の熊本地震の際には、2016年4-6月期の非居住者家計の直接購入額が前期から762億円程度減少し、同時期の経済成長率を年率▲0.2%ポイント以上押し下げたことから、記録的な猛暑になっても今年7-9月期の経済成長率が盛り上がらない可能性があることについても補足しておきたい。

天変地異,日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

つまり、足元の個人消費に関しては、猛暑も手伝って部分的に特需が発生する傾向がみられるが、今後の夏場の個人消費の動向を見通すうえでは、豪雨被害や大阪北部地震の悪影響といった押し下げリスクが潜んでいることには注意が必要であろう。

更に、異常気象の影響に関しては、猛暑の反動減もあり、秋口以降にかけて悪影響が目立つと見られている。しかし、その時期は奇しくも消費税率引き上げの最終判断と重なる可能性がある。冒頭でも指摘したとおり、今回の酷暑は災害との評価もある。従って、西日本豪雨や大阪北部地震の影響もあわせて、この夏の天変地異ともいえる異常気象は消費税率引き上げを先送りする理由になる可能性があろう。従って、消費増税の行方を見る上でも今後も気象の動向から目が離せない。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣