結果の概要:雇用者数は予想を上回る一方、失業率は前月から横這いと予想を上回る
9月7日、米国労働省(BLS)は8月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+20.1万人の増加(1)(前月改定値:+14.7万人)となり、+15.7万人から下方修正された前月改定値、市場予想の+19.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.9%(前月:3.9%、市場予想:3.8%)と、こちらは前月から横這いとなり、前月から▲0.1%ポイント低下を見込んでいた市場予想を上回った(後掲図表6参照)。
一方、労働参加率(2)は62.7%(前月:62.9%)と、前月から▲0.2%ポイント低下した(後掲図表5参照)。
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(1)可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:家計調査の回復は足踏みとなったが、賃金上昇が大幅に加速し良好な内容
8月の非農業部門雇用者数は、再び20万人超の増加ペースに戻ったが、後述するように6月と7月の雇用者数は合計で+5.0万人下方修正されているため、過去3ヵ月の月間平均増加ペースでは+18.5万人増と20万人を下回った。一方、18年の年初来では20.7万人増と依然として20万人超のペースを維持しており、堅調な雇用増加が持続している。
家計調査は失業率が横這いとなったほか、労働参加率が就業者数の大幅な減少を伴う労働力人口の減少から低下したため、8月は回復が足踏みとなった。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は前月比が+0.4%(前月値:+0.3%、市場予想:+0.2%)と、前月、市場予想を上回った。また、前年同月比も+2.9%(前月:+2.7%、市場予想:+2.7%)と、こちらも前月、市場予想を上回り、09年6月以来の水準となった(図表1)。
このようにみると、8月の雇用統計は家計調査こそ回復は足踏みとなったものの、堅調な雇用の伸びが持続していることに加え、漸く労働市場の回復が賃金上昇の加速に波及してきた兆候を示す結果であると言えよう。雇用統計の良好な結果を受け、今月下旬に予定されているFOMC会合では0.25%の追加利上げがほぼ確実となった。また、今回の賃金上昇の加速を受けて、会合後に発表されるFOMC参加者の物価、政策金利見通しが前回会合(6月)からどのように変更されるか注目される。
事業所調査の詳細:専門・ビジネスサービスなどの伸びが加速、製造業は13ヵ月ぶりに減少
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+17.8万人(前月:+11.7万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲0.6万人(前月:+0.4万人)と前月から減少に転じた一方、専門・ビジネスサービスが+5.3万人(前月:+3.7万人)、医療サービスが+3.3万人(前月:+2.2万人)、運輸・倉庫が+2.0万人(前月:+0.7万人)と、前月から伸びが加速した。
一方、財生産部門は前月比+2.6万人(前月:+3.6万人)と前月から伸びが鈍化した。建設業が+2.3万人(前月:+1.8万人)と前月から伸びが加速したものの、製造業が▲0.3万人(前月:+1.8万人)とこちらは17年7月以来、13ヵ月ぶりに減少に転じた。
政府部門は、前月比▲0.3万人(前月:▲0.6万人)と2ヵ月連続の減少となった。内訳をみると、連邦政府が横這い(前月:+0.1万人)と前月から伸びが鈍化したほか、州・地方政府が▲0.3万人(前月:▲0.7万人)と前月に続いて減少した。 前月(7月)と前々月(6月)の雇用増(改定値)は、前月が+14.7万人(改定前:+15.7万人)と▲1.0万人下方修正されたほか、前々月も+20.8万人(改定前:+24.8万人)と+4.0万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲5.0万人の下方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って9月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+16.3万人(前月改定値:+21.7万人、市場予想:+20.0万人)と、+21.9万人から下方修正された前月改定値、市場予想ともに下回った。この結果、ADP統計の雇用増加数は過去3ヵ月平均では18.6万人増と年初来平均の20.1万人増から低下しており、雇用統計と整合的な動きとなった。
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.16ドル(前月:27.06ドル)となり、前月から+10セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は937.02ドル(前月:933.57ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:就業者の大幅な減少に伴い労働参加率は低下
家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で▲46.9万人(前月:+10.5万人)と、4ヵ月ぶりに減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が▲42.3万人(前月:+38.9万人)と、5ヵ月ぶりに大幅な減少に転じたほか、失業者数が▲4.6万人(前月:▲28.4万人)と2ヵ月連続の減少となった。一方、非労働力人口は+69.2万人(前月:+9.6万人)と、こちらは17年10月(+91.5万人)に次ぐ大幅な増加となった。
この結果、労働参加率は前月から低下し18年5月以来の水準となった(図表5)。なお、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も8月が82.0%(前月:82.1%)と、こちらも小幅ながら3ヵ月ぶりに低下した。男女別では、男性が88.8%(前月:88.8%)と前月並の水準を維持した一方、女性が75.3%(前月:75.5%)と前月から低下した。
一方、失業率は3.9%と00年以来18年ぶりの低水準となっているものの、前月から横這いと、回復が足踏みとなった(図表6)。
次に、8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、133.2万人(前月:143.5万人)と前月から▲10.3万人減少した。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも21.5%(前月:22.7%)と、前月から▲1.2%ポイントの低下となった。一方、平均失業期間は22.6週(前月:23.2週)と、前月から短期化した(図表7)。
最後に、周辺労働力人口(144.3万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(437.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、8月は7.4%(前月:7.5%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。
また、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.5%ポイント(前月:3.6%ポイント)と、前月から▲0.1%ポイント縮小した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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