国内企業物価は上昇基調が一服
9月12日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、2018年8月の国内企業物価は前年比3.0%(7月:同3.1%)と上昇率は前月から0.1ポイント縮小し、事前の市場予想(QUICK集計:同3.1%)を小幅に下回った。伸び率は20ヵ月連続でプラスとなっており、7月以降は3%台で推移している。
前月比では0.0%(7月:同0.4%)の横ばい。7~9月に適用される夏季電力料金の引き上げの影響を除いたベースでは前月比0.0%(7月:同0.2%)となり、伸び率は5月の同0.5%をピークに3ヵ月連続で鈍化した。国内企業物価の上昇基調は一服している。
非鉄金属(7月:前月比▲3.1%→8月:同▲2.4%)は、米中の関税引き上げによる中国経済の減速懸念に加え、8月のトルコリラ急落を受けて新興国経済の先行きにも不安が広がり、銅価格の国際市況が軟調に推移していることから、2ヵ月連続で大幅に下落した。また、石油・石炭関連(7月:前月比1.8%→8月:同▲0.5%)は小幅ながら5ヶ月ぶりに下落した。米国のイランへの経済制裁発動を11月に控え、供給懸念から原油価格は高値圏にあるものの、横ばい圏で推移しており、ガソリン(前月比▲0.5%)、灯油(同▲1.3%)、軽油(同▲1.3%)など石油製品(同▲0.5%)が下落に転じたことが影響した。一方、原油価格の上昇が遅れて反映される化学製品(前月比0.6%)や電力・都市ガス・水道(同0.4%)は上昇が続いている。
国内企業物価の前月比寄与度をみると、電力・都市ガス・水道と素材(その他)のプラス寄与を非鉄金属と石油・石炭製品のマイナス寄与が打ち消し、全体では横ばいとなった。
輸入物価は5ヵ月ぶりに下落
8月の輸入物価は、契約通貨ベースでは前月比▲0.4%(7月:同0.0%)と5ヵ月ぶりに下落した。また、8月のドル円相場は、前月比0.3%の円高水準になったことから、円ベースでは前月比▲0.6%(7月:同0.9%)と輸入物価を押し下げた。前年比(円ベース)は12.2%(7月:同11.5%)と3ヵ月連続で二桁増が続いている。
石油・石炭・液化天然ガス(7月:前月比0.6%→8月:同0. 5%)は、石油・同製品(前月比▲0.1%)が小幅に下落したものの、天然ガス(同3.5%)の上昇を受けてプラスを維持している。金属・同製品(7月:前月比▲0.3%→8月:同▲5.4%)は、金属素材(前月比▲10.0%)や非鉄金属(同▲3.9%)の下落を受けて、下落率が大きく拡大した。
輸入物価(契約通貨ベース)の前月比寄与度をみると、石油・石炭・天然ガスのプラス寄与が縮小する中、金属・同製品が輸入物価の下落に大きく寄与した。
原油価格は米国のイラン経済制裁による供給懸念などから高値圏で推移しているものの伸び率が鈍化しており、非鉄金属は米中貿易摩擦の懸念などから軟調に推移していることから、輸入物価は横ばい圏での推移が続くと見込まれる。また、足もとのドル円相場は動意に乏しく輸入物価に与える影響は限定的となろう。
先行きは川上から川下への上昇圧力が弱まる
8月の需要段階別指数(国内品+輸入品)をみると、素原材料が前年比21.8%(7月:同21.5%)、中間材が前年比5.3%(7月:同5.3%)、と上昇率は前月からほぼ変わらなかったが、最終財は前年比0.6%(7月:同0.4%)と上昇率を拡大した。
川上にあたる素原材料の大幅上昇を受けて、緩やかながら川下の最終財への価格転嫁の動きが進んでいる。消費者物価(生鮮食品を除く総合)と関連性の高い消費財は前年比0.9%と4ヵ月連続のプラスとなっている。
ただし、世界経済の回復に伴う需要拡大から上昇傾向にあった国際商品市況は、米中貿易摩擦の激化による世界経済への先行き懸念から頭打ちとなっている。前年比でみた素原材料は伸び率が鈍化することで、先行きは川上から川下への上昇圧力が弱まってくると見込まれる。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任
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