リーマンショックから10年
リーマンショックが起こってから、今週の9月15日で10年となります。
ドル/円が変動為替相場になってから相場が大きく動いた大事件のトップは、1985年のプラザ合意です。ですが、その当時のマーケットを経験された方はほとんどいないと思います。
その次の大事件は2008年のリーマンショックで、経験された方はたくさんいらっしゃると思います。
しかし、10年も経つと、あの時、為替や株はどんな動きをしていたのだろうと記憶がうっすらとしか残っていない方が大半だと思います。
今回のコラムではリーマンショック10年を機に、その時の相場の動きを振り返ってみたいと思います。今後、同じような経済大事件が起こったときに、先行きの相場シナリオを描く上で参考になると思います。
リーマンショックとは?
まず、リーマンショックとは何だったのかを説明します。
リーマンショックとは、米国金融緩和を背景に住宅バブルが発生し、信用力の低い低所得者向けの米国の住宅ローンであるサブプライム・ローンや、このローンを組み入れて証券化した商品が大量に出回った後、住宅バブル崩壊によって、証券化した商品の資産価値が急激に減価したことによって金融機関やファンドが苦境に陥り、株式や通貨が暴落した出来事です。
これらの動きは、大手投資銀行グループのリーマン・ブラザーズ社破綻で、2008年9月にいきなり起こった出来事ではありません。2007年に入ってから米サブプライム・ローンへの懸念が高まりつつあり、2007年8月に欧州の世界的金融グループのBNPパリバ社傘下のファンドの支払い停止報道によって、その懸念が一気に高まったのです。
その時のドル/円は119円台後半から111円台後半へと約8円の円高となりました。この時からサブプライム・ローンから生じる金融不安がマーケットを覆い続けていました。
リーマンショックは9月15日にリーマンの破綻したために起こったと思われていますが、このようにサブプライム・ローンによって生じた金融不安が2007年初頭からマーケットを覆い、2007年の夏場に一気に不安が高まったのです。この一連の危機が米国ではなく、欧州で始まったことを知っておくべきです。
この欧州から伝播した金融不安が一気に噴き出したのが9月15日ということであり、その後の相場暴落の始まりとなりました。
マーケットは当時、米国政府はリーマンを倒産させないだろうと見ていましたが、政府が救済を見送ったというネガティブ・サプライズが、相場急落に拍車をかけました。
リーマンショック前後のドル/円、ユーロ/円は下表のような動きとなります。ユーロ/円の方がドル/円よりも激しく動きました。欧州の影響が大きかったことを物語っています。 参考までにBNPパリバショックが起こった2007年8月末のレートも表示しました。
同じようにリーマンショック前後の日米の株は下表のような動きでした。為替も同様ですが、10月の方が変動が大きかったことが分かります。
そしてリーマンショックは世界に波及していった
10月は9月以上にすさまじい月となりました。
ドルの買い戻しは9月以上に進み、ユーロは月間で約1,800ptの変動幅(1.4175→1.2329)、豪ドルは約2,000ptの変動幅(0.8020→0.6007)となりました。この結果ユーロ/円は月間で約37円の変動(150.58→113.62円)、豪ドル/円は約30円の変動(参考値:85.15→55.05円)となりました。
ドル/円は、このクロス円に引っ張られ、また日本株の下落による為替ヘッジの戻し(円買い)によって90円台まで突っ込むところとなりました。10月の変動幅は15.67円となりましたが(106.54→90.87円)、クロス円の円高幅に比べると半分の変動幅です。
これらクロス円の急落の背景は、金融機関、ヘッジファンドの破綻や清算によって、ここ数年間ドル調達で投資した資産の処理(デレバレッジ)が一気に進んだことです。つまり、ドル高がすさまじい勢いで進行しました。ドル高によってユーロが下がり、ユーロ/円が下がり、つられてドル/円が下がりました。ドル高と同時に円高も起こる「ドル高・円高」の相場となりました。
世界の株式時価総額の約60%が失われた
株式市場ではさらに悲惨な状況となりました。
NYダウは約3,000ドルの値幅で動き(しかも月初から8営業日で下落)、前月終値比では14.1%の下落、日経平均株価は約4,200円の値幅で動き、前月終値比では23.8%と過去最大の下落率(当時)となりました。
他の先進国や新興国も同じであり、世界の株式時価総額は2007年10月比で約60%に当たる約30兆ドル(約3,000兆円)が消滅したと言われています。強烈な消失です。日本のバブルのときも約60%消滅し、その後、日本経済は逆資産効果によって大停滞時期が続きましたが、世界の株式市場の60%の消失による逆資産効果は想像したくないほどの影響でした。
これらの一連の出来事によって世界経済は一気にブレーキがかかりました。それまで、IMF(国際通貨基金)経済見通しによる世界のGDP(国内総生産)成長率は2006年5.0%、2007年5.2%と好景気でしたが、リーマンショックによって2008年3.0%、2009年▲0.6%と、あっという間にマイナス成長となりました。日米欧は世界よりも悪化し、米国▲2.4%、ユーロ圏▲4.1%、日本▲5.2%と2009年は大幅なマイナス成長となりました。
改めて9月から10月にかけて起こったことを整理すると、次のとおりです。
(1)住宅バブルの破裂によって金融機関やファンドが保有していた資産の損失、評価損拡大
(2)株式下落、信用市場収縮によって金融不安は欧州から米国と全世界に波及
(3)金融機関の破綻、増資、買収による再編やファンドの破綻により資産売却(株、債券、為替)が加速
(4)短期金利市場、信用市場の機能停止
(5)政府の公的支援と銀行国有化
上記の出来事が、9月15日から10月初めに次々と起こり、その結果、マーケットでは次のようなことが起こりました。
(a)ドル流動性の枯渇と短期金利高止まりによるドル高
(b)世界景気減速懸念から株式市場と商品価格の下落(原油も大幅に下落)
(c)為替市場では、欧州通貨、オセアニア、新興国通貨が対ドルで売られ、対円でも売られた(ドル高・円高)
ドル/円は、ドル高のバイアスとクロス円の円高バイアスにはさまれ、クロス円の円高バイアスがやや勝る動きとなりましたが、ドル/円単体では円高が抑制された動きになりました。
これら一連の動きは7月から顕著に見られ、月を追って上下変動が大きくなりました。
例えば、ユーロ/円は2008年7月の高値169.97円から10月には113.62円まで売られました(値幅約56円)。ドル/円は、8月の高値110.67円から12月には87.13円まで売られ、値幅は約23円とユーロ/円の半分以下でした。
リーマンショックの教訓
リーマンショックの教訓で一番大事なことは、突然発生したことではなく、1年前からその予兆があったということです。
政治事件のように突然勃発するのではないため、予兆の段階でいざというときのシナリオを何回も練り直して準備しておくことができるのです。
現在起こっている新興国リスク、米国利上げの最終局面、貿易戦争の景気に与える影響などは経済の出来事であるため、最悪のシナリオを準備しておくことができます。そして、自分の資産やポジションをどのように処理するのがよいか、併せて考えておくとよいと思います。
リーマンショックのような金融危機は、その後の規制や安全弁によって当時のようなことは起こらないとの見方もありますが、当時よりも世界全体の債務が増加しているのにもかかわらず、金融政策や財政政策の政策余地が限られており、国際協調の意識も薄れてきていることを考慮すると、あのような大事件は二度と起こらないと考えるよりも、再び起こるかもしれないと考えておいた方がよさそうです。
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