ファミリーアロケーション成功の秘訣

資産運用,妻,トウシル
(画像=トウシル)

今回は「妻に自分の投資方針を納得してもらう」というテーマを考えてみたいと思います。男性が証券口座を開設したとき、みなさん、その事実や投資方針、投資状況について妻に説明をしているでしょうか。

「妻に知られるとまずい」という理由で取引報告書や取引残高報告書を電子化している人がいますが、これはおかしな話です。理屈としては婚姻中の夫婦の稼ぎは共有財産であって、その管理方法に配偶者の理解がないのは問題があります。ファミリーアロケーション、つまり夫婦の資産配分の効率化を考えても、妻に対して投資状況を見える化することは欠かせないポイントになります。

また「妻を納得させる」というのは自分のやっていることを他人にきちんと説明し納得が得られるということですから「説明責任」の問題をクリアすることでもあります。さて、妻に投資方針を納得させる方法をまとめてみましょう。

妻は「投資に消極的なプランスポンサー」と考えてみる

機関投資家は国の年金資産や企業年金資産など高額の資金を預かり、プランスポンサー〈GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や企業年金基金など〉のリクエストに沿い運用を行いその報告をします。

実際のお金は夫が自分の稼ぎから出すとしても「夫婦の合計収入の○%が投資に回っている」ということを配偶者は理解するべきですし、またどのような投資状況にあるのかを知る権利があります。だとすれば、妻は「投資に消極的で理解の浅いプランスポンサー」と考えてみるといいかもしれません。

この場合、「国内外に分散投資を行うETF(上場投資信託)を中心に積立投資を行っている。頻繁な売買は基本的に行わない」という話からスタートしても、おそらく理解は得られません。投資に対する基本的な理解を求める会話や、誤解にもとづく偏見を解くことも説明の一部だと考えておく必要があります。

たとえば妻が投資にネガティブな感情を抱いている場合、「投資はズルいことではなく、経済の発展の恩恵からリターンを得る行為」なのであるとか、少々青くさいところから話し始めてもいいでしょう(でもそれは大事なことです)。

あなたがもし、個別株を短期的な推奨銘柄で儲けようと考えていたり、FXでレバレッジを効かせた短期的利ざや稼ぎをしたいのであれば、そのことをきちんと説明し、理解を得るしかありません。

たとえば、こんな項目を説明したい

投資の基本的なあり方について了解を得たのであれば、具体的な部分では、以下の4つのポイントを中心にプレゼンテーションをしてみるといいでしょう。これは案外、自分で自分の投資方針やスタンスを明確化することにも役立ちます。

1.投資金額(現在残高、定期的な追加投資額)

まずは投資金額についてです。今現在あるいはこれからどれくらいの金額を投資に回す予定であるのか、また定期的な追加入金をどれくらいに設定するのかを話します。

実はこれ、資産全体に占める投資ウエートを明確化することができることで、コンセンサスが得やすいこともあります。「わが家には800万円の預金があるが、今回投資に回すのはそのうち100万円で、これから毎月3万円を積立投資するのだ」といえば、「800万円全額を株に突っ込むのか?」といぶかしむ妻の不安を大きく和らげ、投資の範囲を明確化することになります。

2.投資商品と投資対象

これは必ず説明しておくべきでしょう。そもそもどのような投資商品を用いて、どのような投資対象を選択するのか説明もできないようでは困ります。また、投資商品の資産保全体制などもきちんと説明しておけるといいでしょう。たとえば、公募型の投資信託は信託銀行が資産を管理しているので時価の上下動はあるが資産の実態がなかったというような心配はない、などの説明ができることは、自分自身がそれを理解している、ということです。

また債券か株式、あるいはリートやその他の投資対象を購入するのか、国内なのかグローバルに投資をするのかも理解を得ておくべきでしょう。もちろん複数のアセットクラスを保有することでリスクを分散するような場合もその意義を含めて説明できると望ましいでしょう。

3.投資方針

基本的にインデックスベースでの資産形成を目指すのか、アクティブな投資方針を採用するのか、説明し了解を得ます。アクティブな投資信託を購入する方法はもちろんですが、個人として個別株を選択し売買するような場合もアクティブ運用と分類していいでしょう。

投資方針を説明することは、投資対象とマーケットが持つリスク以上のリスクを取るのかを理解してもらうことですし、それを説明できないということは自分自身がその問題を整理できていないということです。人に説明することで、自分の投資スタンスを客観視するチャンスが得られる、と考えてみましょう。

インデックスベースのパッシブ運用をする場合であっても、その期待リターンがどの程度の水準か、またリスクはどの程度であるのかなどが説明できれば理想的です。

4.売買頻度

売買頻度については、投資方針の一部ですが、ここでもコンセンサスを得ておくと、あとあと投資に対する介入を抑えることができます。たとえば「基本的に自動的な積み立て購入であり、短期的な売買は行わない」とか「週数回程度の売買を行う程度で仕事や家庭に迷惑をかけないことは約束する」というような感じです。もちろん売買頻度が高い投資方針である場合、その頻度や理由を説明し理解を得ます。

仕事や家庭に支障を与えるような投資は家族の了解を得られないはずです。売買頻度を低めにすることで「仕事へ支障が生じない」「家庭にも迷惑をかけない」ことを理解してもらうことで、投資を納得してもらう余地が高まります。必要に応じて、自分の売買頻度を低く再設定することも検討に値します。

投資への理解をステップにファミリーアロケーションへ進化させる

投資の基本的な了承を取ろうとすると、投機的なスタンスではなく、建設的な「投資」を選好せざるを得ないと思います。あるいは投機的な金額は控えめにすることになるでしょう。

配偶者にも説明できないような投資方針は、やり過ぎである、と考えたほうがいいと思います。たとえば投資資金が500万円あるけれど、そのうち350万円はFXで短期的なトレードに終始しており、残りの150万円も数銘柄の国内株式で短期的なトレードをしているというような方針は、配偶者に説明をしても受け入れにくいはずです。配偶者に話をし、理解を得る試みは、投資を「夫婦の資産形成として適切なポジションを取る」ように軌道修正するよいきっかけになります。

夫婦はある意味ひとつの株式会社の共同経営者です。パートナーである配偶者の理解や了承を得られない(あるいは説明をそもそもサボっている)のであればこれは大きな問題です。そして、夫婦で投資方針を納得、共有することは、夫婦全体で資産管理を行うステップへ進化することもできます。たとえば、

・夫婦全体の資産額と今後の目標や資金ニーズ
・夫婦全体の貯蓄増のペースや目標
・夫婦全体の投資額の増加ペースや目標

を把握することは夫婦の資産の最適化、ファミリーアロケーションに通じます。このうち3つめのステップが今回紹介した投資方針の共有で実現しますが、さらに第1、第2の共有も実現できれば、これは投資だけにとどまらない、「全体の資産形成」を夫婦で考え明確化していくきっかけになるでしょう。

今回はこれから投資をする、あるいはまだ投資をして間もない人の説明方法をベースに解説してみました。すでに投資をスタートしているのに配偶者に投資の現状をまったく説明していない人もいるでしょう。その場合も「今さら説明するのもちょっと……」と思わず、ファミリーアロケーションを整理する中で投資方針の説明をしてみてはいかがでしょうか。

山崎 俊輔(やまさき しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。企業年金連合会調査役として確定拠出年金の調査、制度改善要望等を担当。老後の年金や退職金制度も考慮したトータルな資産運用プランを提案。1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。

(提供=トウシル

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