コーポレートガバナンスは、その国の文化、法制、社会構造、企業史や社会の要請などから固有に形成される。

米国企業の取締役会
(画像=PIXTA)

その結果、国が違えば在り方や課題も異なる。日本企業と大きく異なると言われる米国企業で、コーポレートガバナンスの要である取締役会はどのように構成されているのだろうか。業歴100年を超え米国を代表する企業であるIBM社を例に実際の取締役会を見てみよう(図表1)。

米国企業の取締役会
(画像=ニッセイ基礎研究所)

取締役の人数は13人と日本企業の平均像と大きく変わらない。特徴的なのは、会長兼CEOのVirginia Rometty氏一人を除けば、残り全員が独立性のある社外取締役(以下、独立取締役)であるという点だ。米国では、ワールドコム社などの大型不祥事を受けて2003年から上場規則(自主規制)が取締役会の過半数を独立取締役が占めるよう要求したこと、訴訟を提起された際に取締役会で独立取締役の承認を受けていることがCEOほか経営陣にとって裁判上有利であること、投資家が株主利益の代表として独立取締役の選任を推奨したことなどから、独立取締役の割合が高まってきた。その結果、米国株式市場で時価総額の8割を占めるS&P500株価指数企業の6割がIBM社同様、CEO以外はすべて独立取締役となっている(1)。IBM社では業務を執行する経営陣(Executive)は19名にのぼるが、うち取締役を兼務するのはCEO のみだ。業務執行を担う経営陣を監督、すなわち取り締まる人々からなる文字通りの取締役会である。

経営陣を効果的に監督できるという点で独立取締役には経営経験者が好まれ、IBM社の独立取締役も全員が現職あるいはリタイアしたCEOクラスで占められている。ビジネスの判断力に優れ、永年に亘り貴重な経験を積んできた人々である。その出身業界は多岐に亘っており女性も一定の割合を占めるなどダイバーシティが進んでいる。逆にここまでのダイバーシティ進展は一見、IT関連の知識や経験という面で有効であるのかという疑問さえ抱かせるが、同社の株主総会招集通知には、独立取締役にはテクノロジー、サイバーセキュリティ、デジタル関係の職務経験を要求しており、独立取締役は全員いずれかの経験があると開示されている(2)。

もう一つ特徴的な点は、10年を超えて在任する独立取締役が12名中5名と半数近く存在している点である。全体平均でも在任期間は8.3年となる。10年超の在任期間は日本企業では稀だが、米国企業では一般にみられる傾向であり、雇用が流動化している社会構造からすると、入社から日の浅い経営陣より余程、社内者に近いという感覚もあるようだ。社外者であっても在任が長い分、就任企業に対する理解は深い。米国企業の取締役会にとって最重要事項は次期CEOの選定と評価であるが、時間をかけて見極め、その後CEOが期待どおりに機能発揮してくれるのかを監督するのが独立取締役の職責であるとすれば、長期在任はその結果であるといえる。一方、在任が長くなるほど社内者に近づいていくことは否めないため、独立性が損なわれる懸念が高まる。投資家は株主利益の観点から独立性を優先事項とすることもあって、最近米国では在任が長い独立取締役に対して入れ替えを求める傾向が強まっている。

また、リタイアしたCEOクラスの独立取締役が多い上に在任期間が長くなると、結果的に取締役会は高齢化する。IBM社でも実際に65歳以上の独立取締役は6名と半数に及び、平均年齢でも65.1歳である。46歳の若さで就任したChenault氏(図表1.上から2番目)も現在では66歳に至っている。勿論、単に高齢であることが取締役会メンバーとして機能発揮をする上で支障となるわけではない。とはいえ、IBM社ほどビジネスの激しい変化に晒されている企業もないという意味で、投資家は年齢の高い独立取締役に対して足元の貢献状況にとどまらず、事業の大きな方向性を描ける先見性を失っていないか、また取締役会全体として時代遅れになっていないか、といった点に関心を持つのではないだろうか。

概観してきたとおり、米国の取締役会構成は法制面や株主の存在感の違いから、日本とは大きく異なる姿であり、それに応じた課題もある。日本ではステークホルダーとしての株主の地位向上がコーポレートガバナンスの大きな流れであるとはいえ、米国型が必ずしも望ましいわけではないだろう。ただ、日本の文脈で取締役会構成の望ましいバランスを考える際にも、米国の現状と課題は参考になるのではないだろうか。

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(1)Spencer Stuart U.S. Board Index (2017). 
https://www.spencerstuart.com/~/media/ssbi2017/ssbi_2017_final.pdf?la=en
(2)IBM Notice of 2018 Annual Meeting and Proxy Statement. P.8
https://www.ibm.com/annualreport/2017/assets/downloads/IBM_Proxy_2018.pdf

江木聡(えぎ さとし)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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