誰でも達人になれる「7つの型」とは?

わかりやすい説明,犬塚壮志
(画像=The 21 online)

「人にうまくものを伝えられない」「言っていることがよくわからないと言われる」……こうした悩みを持つビジネスパーソンは多いだろう。人気予備校講師として10年間活躍し、現在は東京大学大学院で「学習科学」をベースにした研究を続ける犬塚壮志氏は、「わかりやすい説明は、そのための『型』さえ覚えれば誰にでも可能」だと説く。

では、そのわかりやすい説明の型とはどういったものなのか。そのノウハウのうち、多くの人が悩んでいるであろう「冒頭の切り出し方」について、著書『頭のいい説明は型で決まる』をもとに解説してくれた。

10年のトライアンドエラーから導き出された「型」

「相手にしっかりわかってもらうための説明には、ある『型』(フォーマット)がある」……これは、私が10年にわたる予備校講師生活の中で、幾度ものトライアンドエラーを経て得た結論です。

私は駿台予備学校に10年間勤めましたが、実はその期間のすべての講義録を手帳に残しています。そして、日々の授業の実践を通して、繰り返し行って効果があったものを特定、分析していきました。このような手法を「学習科学」といいます。

それを今一度すべて分析し直し、余計なものを削ぎ落とした上で、ある説明用の〝型〟をつくったのです。その〝型〟が、IKPOLET(イクポレット)法というものなのです。

IKPOLET法は7つのステップから成りますが、今回は、その中でも重要な最初のステップである「興味をひく(Interest)」ための型についてご説明していきましょう。

予備校の授業で使っていた「キラーワード」

「これがわかると、こんなことができるようになるんです!」
「これをわかっていないと、こんな悲惨な結果になってしまうかもしれません」

手垢のついたフレーズかもしれませんが、こういった言葉を説明の冒頭に入れるだけで、やっぱり相手の意識って変わるんです。私も、予備校の授業では、次の言葉をキラーフレーズとして多用していました。

「これは絶対に入試で出るところで、……」
「これができないと他の受験生に差をつけられちゃうよ」

「これのどこがキラーなんだか」ーーそう思う方もいるかもしれませんよね。

人によってはちょっと薄っぺらに聴こえてしまうフレーズかもしれません。あるいは「私の仕事では使えない……」という意見もあるでしょう。

ただ、このメカニズムを理解してもらえれば、どんな相手でも振り向かせることができるテクニックに化けます。

即効性のある「欲」を、相手の目の前にぶら下げる

実は、このキラーフレーズの本質的な機能は、人が誰しももつ〝欲〟と〝恐怖〟を刺激することなのです。〝欲〟はメリットをみせ、〝恐怖〟はデメリットやリスクを伝えるのです。説明する側は基本的に、「これから自分が説明することに対して、相手は後ろ向きという可能性があるな」――それくらいに思っておかなければなりません。

そのため、まずは聴き手の意識を180度変えてこちらを向いてもらうところから始めます。先の例で説明しましょう。

「これは絶対に入試で出るところで……」

このフレーズは、「それを知ったら即点数につながる!」という受験生の〝欲〟を刺激することが目的です。

タテマエ抜きにして、受験生はとにもかくにも点数が欲しいのです。自分の行きたい大学に受かるために何が何でも得点力を身につけたいというのが本音なのです。

学問的な興味ももちろんあるかとは思いますが、先にもお話ししたように、受験生全員がすべての科目に対して前向きというわけではありません。嫌いな科目だって勉強しなければならない後ろ向きの状態が必ず存在します。そのため、自分の説明を聴いてもらうためには目に見えるニンジンをぶら下げるような言葉も極めて大切なのです。

まずは、聴き手の〝欲〟を刺激することが説明の初めの一歩なのです。

「欲のすげ替え」はより高等なテクニック

もし聴き手が大学に受かるということすらも〝欲〟に感じず、「勉強で点を取るよりも携帯ゲームのほうが好き」「大学に合格するよりも恋愛のほうがときめく」というような場合、私ならこう伝えます。

「工学部に入ってプログラミングというものを勉強すると、キミが今はまっているゲームは自分でつくれるんだよ。それよりも、自分だったらもっとこうしたい! っていうゲームもつくることができるんだ。一日中大好きなゲームをやっていたって誰からも文句を言われないどころか、ユーザーから感謝されて、その上たくさんお金も入ってくるんだ。そっちのほうが人生、楽しくない?」

かなり極端な言い回しかもしれません。でも、ここで私がお伝えしたいのは、聴き手が今もっている欲をもっと大きな欲に変えてあげればいい、ということです。

私の経験上、相手の欲をまったく異なる別の欲にすげ替えても、短期的にはどうにかなりますが、長期的にみると続かないことのほうが多いように思います。それよりも、聴き手が今もっている欲にかぶせて、それ以上の大きな欲にしてあげることのほうが効果は大きいのです。ですので、まず説明する前に、相手の〝欲〟ってなんだろう――と徹底的に考えてみるクセをつけてください。

犬塚壮志(いぬつか・まさし)ビジネスセミナー専門のバリュークリエイター/(株)士教育代表取締役
福岡県久留米市出身。元駿台予備学校化学科講師。一般社団法人人工知能学会会員。
大学在学中から受験指導に従事し、業界最難関といわれている駿台予備学校の採用試験に25才の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備校時代に開発した講座は、開講初年度で申込当日に即日満員御礼となり、キャンセル待ちがでるほどの大盛況ぶり。その講座は3,000人以上を動員する超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる(映像講義除く)。さらに大学受験予備校業界でトップクラスのクオリティを誇る同校の講義用テキストや模試の執筆、カリキュラム作成にも携わる。
「教育業界における価値創造こそがこれからの日本を元気にする」をモットーとし、2017年に講師自身の“コア・コンピテンシー"を最大限に生かした社会人向けビジネスセミナーの開発や講座デザイン、テキスト作成などを請け負う日本初の事業を興す。タレント性が極めて強い予備校講師時代の経験を生かし、パーソナルブランディングなど価値創造を重視した教育プログラムをビジネスマンや経営者に向け実践中。その傍ら,教える人がもっと活躍できるような世の中を創るべく、現在は東京大学大学院で学習をテーマとした研究を行う。
主な著書に『定期テスト対策 化学基礎の点数が面白いほどとれる本』(KADOKAWA)、『国公立標準問題集CanPass 化学基礎+化学』(駿台文庫)などがある。(『The 21 online』2018年05月18日 公開)

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