「恐怖心」と「意外性」で心をつかむ!

わかりやすい説明,リスク
(画像=The 21 online)

「知的でわかりやすい説明には型がある」と主張する、元予備校人気講師の犬塚壮志氏。中でも冒頭のつかみで大事なのが、相手の欲を刺激することと、反対に「リスク」を提示することだという。それは一体どういうことなのか。著書『頭のいい説明は型で決まる』をもとに解説してくれた。

「やらないとヤバいよ」はキラーフレーズ

前回、予備校の授業で使っているキラーフレーズとして、

「これができないと他の受験生に差をつけられちゃうよ」

というフレーズを多用する、というお話をさせてもらいました。

このフレーズは、ストレートに言いますと、「他の受験生に負けてしまう可能性がある」という受験生の〝恐怖〟を刺激することを目的としています。

このテクニックは恐怖訴求と呼ばれるもので、よくテレビCMや電車の中吊り広告などで見かけるかもしれませんね。

たとえば、「これをやらないと、脳卒中になるリスクが○%増える!」―─このような煽り文句で視聴率を上げるTV番組や、部数を伸ばしている雑誌もあります。その内容が事実かどうかは別として、やはり人は自分のリスクが高まるとなったら耳を傾けるものなのです。

相手のためにも「リスク」はしっかり伝えるべき

これも「なーんだ、そんなことか」とか、逆に「あざといヤツだな」と思う方もいるかもしれませんね。それでも、実際問題として、やはり人というのは「メリット」「デメリット」で動くものです。

特に、大学入試のような短期間で成果を出さなければならない状況ではそれが顕著に出ます。成果を出せなかったら、つまり合格できなかったらフリーターになってしまうという恐怖が、常に受験生についてまわります。

ダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」によれば、人はできるだけ損失を回避したいという心理状態をもつ傾向にあるそうです。

もちろん、ウソや過剰な表現は絶対に避けるべきです。

ただ、確実に相手がリスクにさらされるのであれば、説明する側は臆せずにしっかりとそのリスクを相手に伝えるべきです。自分の利益のためではなく、相手のために「実際にその説明を聴いていなかったら、損をしてしまうよ」ということをしっかりと伝えるべきなのです。

生徒としては、その説明をしっかり聴かなかったら、学習の理解が追いつかず、学業成績が低下するのは事実なのですから。

たとえ相手に疎うとまれようが、実際に相手に起こりうるリスクは、説明の冒頭で相手にしっかりと伝えるようにすべきなのです。

好奇心を刺激する意外性の打ち出し方とは?

ただ、実際問題として、毎回の説明でこんなふうに煽ってばかりいると相手との信頼関係に悪影響が出てくる可能性があります。そんなときには、意外性を打ち出すようにしています。

聴き手に「おっ!?」と思わせるのです。たとえば、私が講義をするとき、

「よく知られてる○○ってあるけど、あれって実際は××だって知ってた?」

というフレーズを使います。

たとえば「電池」というテーマでの講義の冒頭で、次のように語りかけます。

「キミたちが毎日使っているスマホのバッテリー……。その歴史って、カエルから始まったの知ってた?」

このように切り出すと、生徒は「マジで?」という顔になります。

続けて、次のように言います。

「昔ね、イタリアのカルバニというお医者さんがカエルの解剖実験をやっていたんだ。そのとき、たまたまカエルの両脚に、それぞれ異なる種類の金属が触れたんだよね。その瞬間、死んでるはずのカエルの脚が、ビクビクって痙攣したんだ! それをたまたま居合わせたボルタという科学者が、そのカエルの痙攣をもとにして電池をつくったんだ。それがボルタ電池と呼ばれるもので、ボルタは電圧の単位のボルト(V)の由来にもなっているんだよ」

このように説明をすると、生徒がどんどんノッてくるのです。

犬塚壮志(いぬつか・まさし)
ビジネスセミナー専門のバリュークリエイター/(株)士教育代表取締役
福岡県久留米市出身。元駿台予備学校化学科講師。一般社団法人人工知能学会会員。
大学在学中から受験指導に従事し、業界最難関といわれている駿台予備学校の採用試験に25才の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備校時代に開発した講座は、開講初年度で申込当日に即日満員御礼となり、キャンセル待ちがでるほどの大盛況ぶり。その講座は3,000人以上を動員する超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる(映像講義除く)。さらに大学受験予備校業界でトップクラスのクオリティを誇る同校の講義用テキストや模試の執筆、カリキュラム作成にも携わる。
「教育業界における価値創造こそがこれからの日本を元気にする」をモットーとし、2017年に講師自身の“コア・コンピテンシー"を最大限に生かした社会人向けビジネスセミナーの開発や講座デザイン、テキスト作成などを請け負う日本初の事業を興す。タレント性が極めて強い予備校講師時代の経験を生かし、パーソナルブランディングなど価値創造を重視した教育プログラムをビジネスマンや経営者に向け実践中。その傍ら,教える人がもっと活躍できるような世の中を創るべく、現在は東京大学大学院で学習をテーマとした研究を行う。
主な著書に『定期テスト対策 化学基礎の点数が面白いほどとれる本』(KADOKAWA)、『国公立標準問題集CanPass 化学基礎+化学』(駿台文庫)などがある。(『The 21 online』2018年05月22日 公開)

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