シンカー:安倍首相が3年の新たな任期を得て、デフレ完全脱却まで経済政策を推し進めていくことになる。引き続き経済政策の軸は、三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)のアベノミクスだ。政府・日銀の2%の物価上昇率を目指す共同目標が達成されるためには、信用サイクル、投資サイクル、そしてリフレサイクルという三つのサイクルが天井を打ち破らなければならない。信用サイクルと投資サイクルに続き、財政政策の緩和によってネットの資金需要が左右するリフレサイクルが天井を打ち破れば、物価目標が達成され、デフレを完全に脱却する可能性が飛躍的に高まることになろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

安倍首相が3年の新たな任期を得て、デフレ完全脱却まで経済政策を推し進めていくことになる。

引き続き経済政策の軸は、三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)のアベノミクスだ。

政府・日銀の2%の物価上昇率を目指す共同目標が達成されるためには、三つのサイクルが天井を打ち破らなければならない。

信用サイクル、投資サイクル、そしてリフレサイクルだ。

大胆な金融政策で、信用サイクルの天井をまずは打ち破った。

日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIは2018年7-9月期に+21となり、バブル崩壊後の最高水準まで既に上昇している。

信用サイクルの上振れにより企業活動が刺激され、失業率が2%台まで低下し、人手不足感と賃金の上昇が生まれた。

経済ファンダメンタルズの改善と民間投資を喚起する成長戦略が徐々に効果を発揮し、投資サイクルもようやく天井を打ち破った。

実質設備投資の実質GDP比率は7-9月期に16.5%となり、バブル崩壊後の最高水準までようやく上昇した。

16%の天井をなかなか打ち破れなかったことが、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となっているプラスの企業貯蓄率の低下を妨げる要因となっていた。

安倍首相が自民党総裁選で勝利し、2021年までの新たな任期を得たことで、2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標に抑制されず、デフレ完全脱却を目指し財政政策を拡大することができるようになった。

物価上昇率が2%へ向けて強くなっていくことを妨げていたリフレサイクルの停滞が、上振れに向けて動き始める可能性が出てきた。

企業貯蓄率と財政収支の合計で貨幣経済・マネーの拡張を左右するネットの資金需要(GDP対比、マイナスが強い)が、2014年度以降の消費税率と社会保険料引き上げなどの財政緊縮により、消滅してしまっていた。

信用サイクルと投資サイクルが上振れたことで企業貯蓄率が正常なマイナスに向けて低下する中で、財政政策が緩和すれば、ネットの資金需要が復活し、それをマネタイズしてはじめて働くことになる金融緩和の効果も強くなるとみられる。

企業と政府の資金を使う力であるネットの資金需要は2%台の失業率の中で家計の所得を拡大するとともに、マネーの拡大は円安・株高・物価上昇のデフレ完全脱却への動きを後押しするとみられる。

信用サイクルと投資サイクルに続き、財政政策の緩和によってネットの資金需要が左右するリフレサイクルが天井を打ち破れば、政府・日銀の2%の物価上昇率を目指す共同目標が達成され、デフレを完全に脱却する可能性が飛躍的に高まることになろう。

図)失業率と日銀短観中小企業金融機関貸出態度DI

失業率と日銀短観中小企業金融機関貸出態度DI
(画像=内閣府、総務省、日銀、SG)

図)民間設備投資の対実質GDP比率と企業貯蓄率

民間設備投資の対実質GDP比率と企業貯蓄率
(画像=内閣府、日銀、SG)

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=内閣府、日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司