黒字化のタイミングでの上場
印刷のシェアリングプラットフォーム『ラクスル』や、物流のシェアリングプラットフォーム『ハコベル』を運営するラクスル〔株〕が、5月31日、東証マザーズに上場した。同日に行なわれた記者会見と弊誌取材で、同社代表取締役社長CEO・松本恭攝氏が話した内容をお伝えする。
まず気になるのは、ラクスルがこれまで赤字続きであることだ。特に、大きな広告宣伝費が負担になってきた。
2017年7月期でいえば、売上高が76億7,505.5万円、広告宣伝費は14億7,671.7万円で、11億4,514万円の営業赤字となっている。これまで、累計で40億円以上を広告宣伝に使ってきた。
しかし、2018年7月期は、5,000万円の営業黒字、当期純利益も600万円の黒字を予想している。2013年に印刷事業(『ラクスル』)を始めて以来、初めての黒字となる。
その要因は、売上高の約8割を占める印刷事業が安定的な成長軌道に乗ったことと、マーケティングの効率が向上し、広告宣伝費を抑えられるようになったことだ。ラクスルでは、広告宣伝を代理店に委託せず、企画から効果検証までを内製化している。それによって、効率的なマーケティングが可能になったのだ。
このタイミングでの上場を決めたのは、黒字化が見えたからだという。上場によって得た資金は、『ラクスル』の集客支援サービスで扱う商材の拡充などのための投資に使う。これまでも、印刷したチラシのポスティングや新聞折り込みなど、印刷物を使った集客支援サービスを充実させてきた。
では、今後も、黒字を続けられるのか。
もし大規模な設備投資が必要になれば、利益を圧迫することになるが、その可能性はないと松本CEOは話す。
ラクスルの印刷事業が他の印刷会社と決定的に違うのは、提携する印刷会社の空いているラインを活用している点だ。自社では印刷工場を持っていない。つまり、もともと大規模な設備投資が必要ないビジネスモデルなのだ。
ただし、3台だけ、自社で印刷機を持っている。これは、提携する印刷会社に置いて、時間当たりの生産性を最大化するためのオペレーションを研究するためのもので、今後、新たに購入する予定はないそうだ。
2015年に始めた運送事業(『ハコベル』)は、成長はしているものの、2018年7月期(予想)でも売上高構成比が2.8%に留まっており、利益も出ていない状態だ。これからさらにユーザーを増やしていく必要があるが、印刷事業のように大きな広告宣伝費をかけることは考えていないという。
国内トラック物流市場は14兆円もあり、運送事業の伸びしろは大きいと、松本CEOは見ている。
『ハコベル』は、荷主と稼働していないトラックをマッチングするサービスだ。しかし、今はトラック運転手の人手不足が叫ばれている時代。『ハコベル』は、本当に成長する事業なのだろうか。この疑問に、松本CEOは次のように答えた。
「トラックは、どこへ荷物を運ぶかを教えられないまま、例えば4時間押さえられたりするんです。それで、横浜に集められて、運ぶ先が品川だったら、時間が余ってしまう。これまでは、急に荷主を見つけることができませんでしたから、余った時間はムダになっていました。その時間をムダにしていたトラックを、『ハコベル』を使えば、荷主とマッチングできるのです」(松本CEO)
事業を拡大していくに当たっては、社員も増やしていく必要がある。今後もヒトにしっかりと投資をしていくという。
ラクスルでは、採用プロセスの中に、「ワークサンプルテスト」を取り入れている。3時間~半日ほど、実際に社員とともに仕事をしてもらい、働き方やスキルが会社にフィットしているかを見るというものだ。かなりコストが大きいが、それだけ採用を重視しているわけだ。「誰が事業を作るかで、事業の質が決まる」と、松本CEOは話す。
「スティーブ・ジョブズが言っているように、A級の人はA級の人を連れてくるし、B級の人はB級の人を連れてきます。当社は、A級の人を採用したい。
ワークサンプルテストは、Googleで人事の責任者を務めるラズロ・ボック氏の著書『ワーク・ルールズ!』を読んで知って、取り入れました」(松本CEO)
ラクスルは、昨年、玉塚元一氏を社外取締役に招いた。ユニクロやローソンという大企業の中でコミュニケーションを取ったり、製造業のパートナー企業と付き合ったりしてきた経験、また、モノを売るうえでの感性などから、学ぶところが多いという。
C to Cビジネスのプラットフォームとして飛躍したメルカリのように、B to Bビジネスのプラットフォームであるラクスルも急成長を続けるのか。今後に注目だ。
THE21編集部(『The 21 online』2018年06月04日 公開)
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