要旨

●消費税率引き上げの先送りが実施された場合、焦点のひとつとなるのはそれを財源として行われる予定だった「社会保障充実策」への影響である。2017年度から実施される予定であった「低年金者への給付金」「基礎年金の受給資格期間の短縮」「低所得者の介護保険第一号保険料軽減」が先送りされる可能性が出てくる。

●目玉政策の「低年金者への給付」については、2015年度補正予算で「年金生活者等支援臨時福祉給付金」として年間3万円を支給する類似の措置を既に実施済み。増税と並行して行われる予定だった給付金支給が先送りされた場合でも、財源は将来の補正予算などで担保、現行の給付金措置が消費増税までの「つなぎ」として延長される可能性が考えられる。

増税先送り時に問題となる社会保障充実策への影響

 5月28日に安倍首相が消費税率引き上げの先送りの意思を伝えると報じられるなど、消費税率引き上げの先送りが一層現実味を帯びてきている。筆者は5月19日付けのレポートにおいて、消費増税先送り時における現行の財政再建目標への影響をまとめている(Economic Trends「消費増税再先送り時の財政再建目標を考える~2年以内の先送りであれば、PB黒字化目標には概ねニュートラル~」をご参照下さい)。そのほか、増税先送り時の焦点となるもののひとつに、消費増税を財源に実施する予定であった社会保障充実策の行方がある。

 厚生労働省資料に基づくと、消費税率10%が導入される2017年度には0.95兆円(2017年度の充実分2.3兆円と2016年度充実分1.35兆円の差分)が、2018年度には増税による増収効果が平年度化する形で、さらに0.5兆円が追加、計1.45兆円が社会保障の充実分として充てられる予定であった。

消費増税再先送り時の社会保障充実策への影響
(画像=第一生命経済研究所)

 2017年4月から実施する予定だった主な施策は、「低年金者への給付金(年金生活者支援給付金)」、「老齢基礎年金の受給資格期間の短縮」、「介護保険第一号保険料の低所得者軽減強化」の3点である(なお、軽減税率導入検討の際に、医療・介護・保育・障害の総合合算制度(所要額:0.4兆円)の見送りが決定されているが、これは「社会保障改革プログラム法に基づく重点化・効率化」によって捻出された財源0.4兆円を充てることとされており、消費税率10%引き上げの際の社会保障充実策とは別枠で整理されている)。これらも同時に先送りするのか、代替財源の確保ないしは国債発行を行って、予定通り実施するのかが焦点となる。景気(個人消費)への影響という観点では、計5,600億円が支給される低年金者向け給付金の実施の是非が大きな焦点である。

消費増税再先送り時の社会保障充実策への影響
(画像=第一生命経済研究所)

増税先送りの場合は、現行の低年金者給付措置が延長される可能性

 社会保障充実策の目玉であった「年金生活者支援給付金」だが、実は類似の補助金政策が既に取られている。2015年度補正予算で措置された低年金者向け給付金(年金生活者等支援臨時給付金)だ。同様に低所得の年金受給者に給付金を支給するものであり、各市町村において支給が開始されている。支給額は年3万円であり最大6万円(月額5,000円×12ヶ月)が支給される増税時給付金よりも少ない。期間は2016年度1年間だ(1回限りの給付)。

 2015年度補正の低年金者給付金は、事実上2017年度増税時の給付金の前倒し的な色彩が強くなっており、厚労省HPでもそういった説明がなされている(以下、厚生労働省HPの「年金生活者等臨時福祉給付金」の説明より引用(下線部筆者)。『「一億総活躍社会」の実現に向け、賃金引上げの恩恵が及びにくい低年金受給者への支援によるアベノミクスの成果の均てんの観点や、高齢者世帯の年金も含めた所得全体の底上げを図る観点に立ち、社会保障・税一体改革の一環として平成29年度から実施される予定の年金生活者支援給付金の前倒し的な位置づけになることも踏まえ、また、平成28年前半の個人消費の下支えにも資するよう、所得の少ない高齢者等を対象に年金生活者等支援臨時福祉給付金を実施します。』)。仮に消費増税先送りに合わせて、最大6万円の給付金措置が延期される場合、2017・18年度には給付金の切れ目が生じることになる。社会保障充実策実施の是非は最終的には政治判断となるが、年6万円の給付が先送りされた場合でも、実施済みの年3万円の低年金者給付を延長、拡充するなどして給付金措置を継続する可能性が考えられる。その場合、秋ごろにも見込まれる2016年度第二次補正予算などで財源が措置されることとなろう。(提供:第一生命経済研究所

消費増税再先送り時の社会保障充実策への影響
(画像=第一生命経済研究所)
消費増税再先送り時の社会保障充実策への影響
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也