「ウーバー」への規制はプラスかマイナスか?

自動運転,鈴木貴博
(画像=The 21 online)

「AIが仕事を奪う」という未来は遠い先の話ではない。それは一面では「危機」だが、新たな需要やビジネスを生み出す「チャンス」でもある。しかし、この面で日本は、大きく立ち遅れてしまう可能性がある……。急速に進む「自動運転」の現状と未来、そして、それに対する「日本的な問題解決策」が引き起こしかねない問題について、『「AI失業」前夜』の著書がある鈴木貴博氏に語ってもらう。

2022年に訪れる「レベル5」の脅威

人工知能とロボットの進化により、これから20年以内に人類の仕事の半分が消滅すると言われている。今は「まだ先の話だろう」と警告を気にしない人が多数派だ。

しかし、仕事消滅の始まりは比較的すぐにやってくる。2022年、この年、世界中の国で仕事消滅が初めて大きな社会問題になる。その引き金を引くのはセルフドライビングカー(自動運転車)の出現である。日産ルノー連合はこの2022年に「レベル5」と呼ばれる、一般道において完全に自動運転を可能とする自動車を発売すると宣言している。GM、メルセデス・ベンツなど世界の主要な自動車メーカーも、同じゴールに向けてしのぎを削っている。

現在の開発状況を前提に考えれば、2022年に世界初の完全自動運転車が発売されるというのはもはや「予測」ではなく、事業計画のロードマップ上に設定された「具体的な予定」になっている。

そして日本の運輸業界はこの自動運転車の登場を誰よりも待ちわびて、誰よりも力を入れて支援している。理由はとにかく人手が足りないからだ。

今、日本は、ゆるやかではあるが長期的に景気拡大を続けている。ところが、そのボトルネックになりそうなのが物流である。物流分野ではとにかく人間の労働力が不可欠なのだが、その人がどうにも採用できない。

人が採れない根本理由は少子高齢化で若い労働力が社会全体で不足していることにあるのだが、同時に他の仕事と比べて過酷な労働環境もある。特に運搬作業がきつい宅配や引っ越し分野では、目に見えて業務が停滞し始めている。

宅配クライシスでヤマト運輸が大幅な値上げに踏み切った。そうかと思うと今度は引っ越し危機が話題になった。新年度の引っ越しシーズンに引っ越し業者の手が足りず、入学や転勤をしても4月中には荷物が届かない「引っ越し難民」が大量発生するのではないかと騒がれたのだ。

自動運転で、物流会社のコストは4分の1に

そのため、運輸業界では率先して自動運転車による業務改革に力を入れている。2022年のセルフドライビングカーの出現を待たずに、まずは高速道路のみといった形で、現行の技術で対応可能な部分として無人トラックを有人トラックが列車のようにけん引するような運行実験を計画している。

物流業界や運輸業界にとっては4年後の自動運転車の出現は事業の救世主となる。なにしろこの年を境に、採れない人を設備投資で置き換えられるようになる。

それまで1台1000万円のトラックを使っていた長距離運輸会社の場合、仮に完全自動運転のトラックが1200万円と高価な商品になったとしても、トータルコストは安くなる。

長距離輸送を主な業務としている運輸会社の場合、トラックを5年で償却するとして年間の経費は200万円。それ以外に1人年収400万円のドライバーを2人雇うとして人件費は800万円。1台のトラックを稼働させることで、合計で年間1000万円の経費がかかっていたとする。

これが自動運転のトラックなら人はいらない。同じ仕事をしても年間のコストは減価償却の240万円だけで済む。つまり運輸会社にとって、新しいトラックを購入すればコストは4分の1以下と劇的に下がることになる。

先にライバル会社が自動運転トラックを導入したとしたら、他の運輸会社も一斉に自動運転トラックに切り替える必要が出てくる。そうしないとコスト競争に勝てないからだ。こうして長距離トラック、バス、タクシーなど、運転手がいないほうがコストが激減する業種では、自動運転車への切り替えが一斉に進む。日本だけではなくアメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシア、すべての先進国・新興国で自動運転車特需が巻き起こる。