医療費控除の申請は個人が簡単にできる節税方法だ。しかし誤解が多く、活用できていないケースがよく見られる。医療費控除は意外と対象範囲が広く、手続きも1回やれば後は流れ作業でできる。ここでは特に間違いやすい項目についておさえておきたい。
医療費が10万円を超えたら還付の対象に
医療費控除とは、医療費の自己負担が一定額を超えた場合、所得税の還付が受けられる仕組みである。一定額とは、年間所得が200万円以上なら10万円、200万円未満の場合は所得の5%だ。所得とは収入から必要経費(控除)を差し引いた金額を示す。
ここで医療費控除のよくある誤解の例を紹介する。あなたは正解をいくつ知っているだろうか。
誤解1「時期が過ぎると申告できない」
正解……365日、5年間さかのぼって申告できる
確定申告期間は毎年2月16日から3月15日の30日間(2019年は2月18日から)で、前年に発生した医療費はこの期間に申告しないと無効になると考える人が多いが、医療費を含む還付申告は翌年の1月1日から5年間提出できる。前年の医療費が10万円を超えていることに3月15日を過ぎてから気付いても、問題なく申告できるということだ。
ただしこの「5年」という期間を「5年分通算できる」と誤解する人が多いので注意したい。2015年に6万円、2017年に4万円、2018年に9万円の合計19万円の医療費が発生しても、それぞれの年で10万円を超えていないので控除の対象にはならない。
誤解2「納税者本人にかかった医療費のみしか申告できない」
正解……家族全員分を合算できる
医療費控除は本人だけでなく一世帯分を合算できる。1人分の医療費が年間10万円を超えることはあまりないが、配偶者や子ども、生計を一にする親や親族を含めると結構な額になるのではないだろうか。「生計を一にする」とは扶養家族である必要性を示すものではなく、同居していなくても常に生活費や学費の支援をおこなっていれば該当する。
誤解3「自由診療は対象外」
正解……妊娠出産・歯科治療・レーシックも対象
いわゆる「保険が利かない」医療費も、医療費控除の対象になる。代表的なものは妊娠出産における検診・分娩・入院費用である。金額も高額になるので忘れずに申告したい。
また、歯科治療のうち金歯やポーセレン(セラミック)、インプラントは自由診療だが控除対象だ。レーザーにより視力を回復させるレーシック手術の費用も、控除が認められる。近視や遠視のためのメガネやコンタクトレンズは対象とならない。
誤解4「通院・入院のための交通費は対象外」
正解……タクシー代、付き添いの交通費もOK
医療費控除の対象となる治療のための入院や通院にかかった交通費も控除の対象となる。公共交通機関やタクシーの領収書は必ず取っておきたい。患者本人ではなく、子どもなど介助が必要な患者の付き添いのための交通費も認められる。
ただし自家用車で移動した場合のガソリン代や駐車場代は対象外だ。
誤解5「税務署に行く必要がある」
正解……e-Taxを使えば自宅からでもできる
還付申告のためにわざわざ平日に税務署まで足を運ぶのは、ビジネスパーソンには時間的に難しいかもしれない。しかし、国税庁の納税・申告システムであるe-Taxを使えば、自宅にいながらいつでも申請書を提出することができる。入力漏れや計算ミスがあった場合はエラーが出るので、書類の不備による手間がかからないメリットもある。
ただし電子証明書の発行やカードリーダーの購入など、事前準備が必要な点は不評だ。e-Taxを使わず、「確定申告書等作成コーナー」で書類だけ作成して印刷し、税務署に郵送するという手もある。
申請自体はそれほど手間ではない
医療費控除の申請のために必要な「医療費控除の明細書」の作成方法は意外とシンプルだ。医療を受けた人・日付・病院/薬局名・自己負担額を記入して合計額を出すだけだ。テンプレートは「確定申告書等作成コーナー」からダウンロードできる。健康保険組合などから送付された「医療費のお知らせ」があれば、その明細の記入は省略できる。
2017年から領収書の添付は必要なくなった。ただし5年間の保存義務があるので明細や領収書をもらうのは忘れないでおこう。
所得が高く家族が多い人に節税効果大
共働き家族の医療費は、夫婦のどちらが医療費控除を受けるのが得なのだろうか。「控除」と名の付く制度に関しては、一般的には「家族の中で最も所得が高い人」が受けるとより多くの還付が受けられるとされる。税金を多く払っている人ほど恩恵を受けやすいからだ。
ただし単純に収入の差だけでは判断できない。年収が高くても社会保険料控除や配偶者控除などが大きければ所得は低くなる。「所得税・住民税簡易計算機」などを使って、一度試算してみると良いだろう。
文・篠田わかな(フリーライター、ファイナンシャル・プランナー)/MONEY TIMES
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