今回の経済パーソンは「テリーザ・メイ」氏です。ブレグジット後に揺れる英国経済の安定を願い、EUの27カ国を相手に、冷徹な交渉を進めています。
Better Late Than Never
「不利な取引をするくらいなら、取引しないほうがいい(No deal is better than a bad deal)」テリーザ・メイ英国首相は、EU(欧州連合)とブレグジット交渉を始めるにあたって、こう宣言しました。
ブレグジット(Brexit)とは、英国がEUから離脱することを意味する、英国(Britain)と出口(Exit)をかけ合わせた造語。2016年6月に行われたEU離脱を問う英国の国民投票において賛成派が残留派を上回り、ブレグジットが決定しました。メイ氏は、もともとEU離脱には反対だったのですが、国民投票で引責辞任したキャメロン前首相の後を継いでからは、ハードブレグジット(強硬)派に転向。EUの27カ国を相手に、足元を見られてはならないとの決意が、強気の言葉となって発せられたのでしょう。
今年6月、メイ首相は議会の団結力を高めるため、反対派を「排除します」と総選挙の賭けに出ました。しかし、これが完全な裏目となって、メイ首相の保守党は、議席を増やすどころか大敗北を喫することに。英国民の気持ちはブレグジットから「ブレグレット(Bregret、英国(Britain)と後悔(Regret)でブレグジットを後悔している意味の造語」になっていたのです。内も外も敵ばかりということに気づかされたメイ首相ですが、ここで放り投げるわけにはいかないと、12月にはEUと基本合意に達し、来年からは第2段階に進むという成果を勝ち取りました。
しかし、交渉は、実際には譲歩ばかりが目立っています。離脱のための「手切れ金」として、英国はEUに約6兆円も支払うことを承諾したのもその1つ。今後についても明るい話がありません。英国とフランスを隔てるドーバー海峡。英国から欧州への輸出品の5分の1近くがこの海峡を経由しています。ある試算では、港の通関に2分多く時間がかかるだけで27キロの交通渋滞を引き起こし、経済損失は低く見積もっても年間1,500億円以上に達するといわれています。世界最大の金融センターであるロンドンシティーも、その魅力を失うことになります。英国からEU市場へ自由にアクセスする権利である、金融機関の「パスポート」の維持は絶望的で、銀行や証券が活動拠点を英国外に移す動きが加速するといわれています。まさに「誰得?」のブレグジットです。
メイ首相は、「不利な取引をするくらいなら、取引しないほうがいい(No deal is better than a bad deal)」と宣言しました。しかし、英国の将来にとってベターな選択とは、EUと決裂することではなくその逆、すなわちブレグジットをやめることなのかもしれません。 「改めるに遅すぎることはない(It is never too late to mend)」。しかし、誇り高き英国女性であるテリーザ・メイ首相は、たとえ心の中でそう考えていたとしても、絶対に口に出して言うことはないでしょう。(解説:楽天証券FXディーリング部 荒地 潤)
もっと! もっと! テリーザ・メイ氏 名言&迷言集
“政府はあらゆる結果に備える責任がある”
2017.10.10 英議会にて
“私は簡単にあきらめる人間ではないし、
長期的に取り組むべき職務がある”
2017.09.01 日本での記者会見にて
“交渉はいつも交渉です。
つまり意見の相違は必ず存在し、
私たちもそれらの相違を乗り越えるための
努力をする必要があるということ”
2017.09.01 NHKのインタビューにて
“自分を信じ、自分らしく生き、
そして野心を持つことも重要”
2017.09.01 NHKのインタビューにて
“安全対策のカギは、それを常に考え続けること”
2017.09.01 NHKのインタビューにて
“人がどれほど成功できるか、
人が人生の中で何を成し遂げられるかは、
その人の才能や、
その人がどれだけ頑張ったかによって決まるべきだ。”
2017.09.01 NHKのインタビューにて
“才能のある女性が成功できることは重要だと思います。
政治においても、ビジネスにおいてもです。”
2017.09.01 NHKのインタビューにて
“ブレグジットという結果が出たからには、
ブレグジットということだ”
2016.07.01 立候補表明の演説にて
テリーザ・メイ氏の経歴・略歴
故マーガレット・サッチャー氏以来、同国史上2人目の女性首相です。
自分の考えを表に出さず政治家同士で馴れ合うことを良しとしない姿勢で、「氷の女王」というあだ名がついています。
「おしゃれモンスター」とも呼ばれていて、無類の靴好きとしても、知られています。
トウシル編集チーム
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