企業が持つビッグデータをもとに、個人の信用力を点数化する「信用スコア」。「J.Score」がサービスを開始し、ヤフーが2018年10月に実証実験を開始すると発表。ここ最近よく耳にする言葉だが、一体どういうものなのだろうか。すでに信用スコアが社会インフラとして機能している中国の状況を紹介しつつ、日本でも普及するかどうかを分析していく。
代表的な「芝麻信用」 ビッグデータをもとに個人の信用を可視化
中国の信用スコアの状況を知るには、大きな影響力を持つ「芝麻信用」を見るのが早い。アリババの決済サービスと連携している同社は、決済情報をもとに「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」の5つの要素を数値化し、ユーザーの与信を管理している。
具体的には利用者を以下のように5つに分類しており、この点数が信用スコアと呼ばれている。
350~550点 「較差」
550~600点 「中等」
600~650点 「良好」
650~700点 「優秀」
700~950点 「極好」
600点以上の人は、シェアサイクルやカーシェアリング、各種レンタルなどの保証金が減免されるといった特典がある。
例えば、DJI社の高性能ドローンを1週間レンタルする際、価格は6,499元(約10万4,000円)で、最初に保証金として386.19元(約6,200円)支払う必要があるが、この保証金が免除される。芝麻信用は2017年11月段階で、既に381都市、4,150万人に、こうした保証金の免除サービスを提供。その総額は425億元(約6,800億円)にも及ぶ。
一方550点以下の人は、航空券や高速鉄道切符などをモバイル決済できないなど、実生活への影響は大きい。
他にもメッセージアプリWeChatを提供するテンセント系の「騰訊征信」や、大手保険会社である中国平安保険系の「深セン前海征信」も信用スコアサービスを展開している。このように信用スコアが普及したのは、政府主導で社会信用システムの構築計画が進められたことや、モバイル決済とシェアエコノミーが拡大したことなどが背景にある。
信用スコアが高いと融資にも大きなメリット
高い信用スコアがもたらす社会的恩恵は、保証金免除だけではない。例えば、アリババには「花唄」というネット消費者金融商品がある。これは500円~5万元(約8,000円~80万円)と融資限度額に差はあるものの、誰でも融資申請をすることができ、返済期限が最長1年、日歩は0.05%に設定されている。
「芝麻信用」の信用スコアが600点以上の人は、この「花唄」の上級商品「借唄」の融資申請が可能となる。融資額は1,000元~30万元(約16万~500万円)を最長1年、日歩は0.045%だ。これは個人事業主や中小企業経営者にとって、非常に使い勝手がいいという。
コーヒー関連の事業を営む筆者の友人は、手元資金が不足したとき「借唄」を数回利用したという。即時に振り込まれる上に、期限通り返済すればスコアは上昇し、次回の融資はより有利な条件となる。
テンセントグループも、高スコアの利用者には系列銀行の金融商品の利率を優遇するなどの特典を用意している。ネット上では、スコアを上げるノウハウの情報交換が盛んに行われるほどだ。中国のクレジットスコアは、保証金の減免や即時融資などにより、経済効率の向上に貢献し、かつ人々の金融教育の場にもなっているようだ。
日本での普及の可能性とその課題
これに対して日本の状況はどうか。みずほ銀行とソフトバンクが共同で設立した「J.Score」では、ビッグデータとAI技術を利用して信用を数値化し、最適な融資条件を提案する「AIスコア・レンディング」というサービスを提供している。
これは所属企業や勤続年数、持ち家といった従来型融資ではなく、純粋に返済可能性を重視した融資判定サービスで、定期的な収入さえあれば銀行カードローンや消費者ローンより低金利で借りることできる。また、ヤフーも信用スコアを利用したサービスの実証実験を開始すると発表した。
日本でも徐々に信用スコアサービスが登場しているが、まだ課題も多い。中国では信用スコアを上げると言って振り込みをさせる詐欺や、車などの高額な買い物を偽装して不正にスコアを上げようとする詐欺もあり、日本でもこのような犯罪の防止策が必要になるだろう。また、個人情報が管理・運用されることへの心理的抵抗も少なくないはずだ。
キャッシュレス社会へ舵を切り始めた日本。それにともない「信用スコア」が浸透し、今以上に活発な経済活動を実現させる可能性はあるが、上記のような課題を解決する必要がある。この新しい社会インフラの導入は、これらを踏まえて慎重に進めるべきだろう。
文・高野悠介(中国貿易コンサルタント)/MONEY TIMES
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