本記事は、河合 由紀子氏の著書『人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
(画像=kapinon/stock.adobe.com)

解決しようとしない視点が、チームを変える

「すみません、ちょっとご相談したいことがあって……」
メンバーが少し申し訳なさそうな顔で近づいてくる。その瞬間、リーダーの頭の中には「どうした、何があった!?」「また何かトラブルか?」「早く解決しなきゃ!!」と思考がぐるぐると巡り始めます。

リーダーという立場にいると、「問題をサクッと解決するのが仕事」と思いがちですが、実はこのすぐに解決しようとする姿勢こそが、チームの成長を妨げていることがあります。

メンバーが抱えている課題や悩みを、リーダーが一手に引き受けてスマートに解決する。
メンバーから見るとそんなリーダーはとても頼もしく、ありがたい存在ですし、リーダーとしてもやり遂げた自分も満足感に浸ることができます。

メンバーも「相談してよかった」「さすがだな」と感じるでしょう。ただ、リーダーがいつもその役を担ってしまうと、メンバーは「相談=委ねる」になり、自分で考える力や責任感を育む機会を失ってしまうのです。

あえて「すぐに解決しない」「様子を見る」という選択肢も、実はとても重要なのです。

自転車の補助輪を外すタイミングを思い出してみてください。最初は怖がってなかなか漕ぎ出せない子どもに、大人が後ろからそっと手を添えてあげる。でも、転びそうになってもすぐには支えない。大けがにならない範囲で、転ぶことも経験のひとつと捉えているからです。
それと同じで、メンバーが転びそうな場面では、手を出しすぎず、そっと見守る勇気がリーダーには求められます。もちろん、日常の相談をすぐ解決しないことと、大きなトラブルを放置することは違います。しかし、トラブルであってもリーダーが一人で抱え込む必要はないのです。
もちろん、すべてを本人任せにするわけではありません。メンバーがつまずいても、もう一度立ち上げるように環境を整えておくこと、そして、困ったときに、安心して頼れる存在でいること、それがリーダーの大切な仕事です。近づきすぎず、離れすぎない、その距離感がメンバーの自立を支えていきます。
とても難しいことですが、いつでもサポートできるようにぐっと我慢をしてチームを見ていると、トラブルへの関わり方、チーム内やお客様とのやり取りからメンバーの意外な一面を発見したり、「ああ、そういう方法もあったのか!」と自分では気づかないような解決策を目にしたりすることもあります。

一方で「この人はこの仕事には向いていない、どちらかといえば〇〇の仕事のほうが向いているかもしれない」と気づくこともあります。
すぐには対応できないかもしれませんが、将来的なキャリアを考える際にとても有益な情報となります。こういうときこそチームとしての動きや個人をじっくりと観察することで得られるものがたくさんあるのです。

任されることで育つ人が、チームには必ずいます。最初は不安でいっぱいだったメンバーが、「自分に任せてもらえた」「期待されている」と感じたとき、驚くほどの集中力と責任感を発揮してくれることがあります。

私自身、以前のプロジェクトで「これ任せて大丈夫かな……」と少し心配していたメンバーが、ある日突然見違えるような成果を挙げたことがありました。
後から聞くと、「あのとき信じて、任せてもらえたことがすごく嬉しかった」と話してくれました。ヒヤヒヤしながらも任せて本当によかったと思えた瞬間でした。

一方で、チームが直面する大きな課題やトラブルを前にすると、「リーダーなんだから、自分がなんとかしなきゃ」と考えるのも自然なことです。
特に責任感の強いリーダーほど、自分一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、これはドツボにはまるパターンの典型です。
大きな問題ほど、分解して手分けすることが大切です。「何が本質的な問題なのか」「どの部分を誰が担当できるか」を整理して、チーム全体で向き合うのです。
たとえメンバーがまだ不慣れだったとしても、少しずつ役割を持たせて一緒に取り組んでいくことで、自分ごととして関わる姿勢が育ちます。

そしてもう一つ、大切にしたいのは「火消しの達人も、昔は火種だった」ということです。
どんなに頼もしいリーダーやメンバーでも、最初は失敗だらけだったはずです。

人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
(画像=人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方)

問題児扱いされていた時期を経て、経験を重ね、自分なりのやり方を見つけて今のスキルを身につけた。そう考えれば、今チームにいる“ちょっと扱いにくいな”とか“頼りないな”と感じるメンバーは、将来リーダーになる可能性が大いにあります。

リーダーの仕事は、すべての問題を即時に解決することではありません。チームが自力で問題解決に向かえるよう、土台をつくることです。メンバーの背中をそっと押しながら、時には遠回りも経験させ、チーム全体で壁を乗り越えていく力をつけること。それが、長い目で見たときに、最も強いチームをつくる方法です。

そして、もう皆さんお気づきですよね。トラブルが起きてから解決までの事柄は全部メモを残しておくことが大切です。
このメモはリーダーがチームをつくることに役立つのはもちろんですが、トラブル解決後にチームで共有し、それを振り返りをするための大切な素材となります。
なぜトラブルが発生したのかから、報告のタイミングや取った対応などを振り返り、今後の活動に活かしていくことが大切です。
本当は現場で記録を取ることができればいいのですが、そんな余裕がないのは言うまでもありません。ぜひメンバーの成長のためにもたくさんのメモを残してください。そのメモがメンバーの成長の糧になります。

リーダーがすぐには解決しようとしない視点を持ち、あえて見守る。その勇気がメンバーの自走力を育み、結果としてチームを変えていくきっかけとなるのです。

人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
河合 由紀子(かわい・ゆきこ)
1977年、愛知県名古屋市生まれ。情報システム学修士、経営学修士。
IT業界やアドテク業界でプロジェクトマネジメントや人材育成に携わる。その後、ベンチャー企業での社長補佐やCxOの伴走、IPOを目指す企業の事業推進などを経験。
現場と経営のあいだを行き来しながら、「人が自然と動くチームとは何か」を問い続けてきた。
現在は東京情報デザイン専門職大学の非常勤講師として教壇にも立つ。
現場で感じた小さな違和感や気づきを大切にしながら、「管理」ではなく「関係」から動くチームづくりを日々探究。
理論と実務の両面から、会社員・社会人のための「ウェルビーイングな仕事学」研究会を共同主催し、対話を重ねている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
  1. 数字を配るだけでは動かない、チームが自走する目標設定
  2. なぜ部下が育たない? リーダーが問題を抱え込みすぎているから
  3. KPIを押しつけるな! チームで納得する目標値の決め方
  4. なぜ目標を伝えても動かない? チームを動かすリーダーの伝え方
  5. どうすればよかった? と聞くな! 本音を引き出す面談の問い方
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)