本記事は、河合 由紀子氏の著書『人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

とりあえずの目標が、チームを止めていた

今期のチーム目標を言えますか?
ご自身の目標は?
チームメンバーの目標はどうでしょう?

営業や販売職の人であれば「売上〇〇円」「昨対比◯%」「継続率◯%」など具体的な数字が出てくるのではないでしょうか。
保守運用職の人であれば「レスポンスタイム◯時間以内」「顧客アンケートの満足度◯%」とか、採用担当の人事の方であれば「新卒◯人採用」「中途◯人採用」「離職率◯%以下」などなど、具体的な数字や期日など定量的な目標が多く挙げられるのではないでしょうか。
また、「英語の学習をする」「現業務の効率化を検討する」「次のサービスについて考えてみる」などふわっとした、自己啓発や理想像などが設定されていることもあります。
では、どうしてその目標が設定されたのでしょうか?

「会社からチームの目標数字が割り当てられたので、それをメンバーに振り分け、それだけでは味気ないので自発性を演出するために個人目標も添えた」という流れで設定することが多いのではないでしょうか。目標設定のタイミングは忙しい時期と重なりがちで、前年の目標設定シートを使い回し、日付と数値だけ更新して完成させることも現場ではよくあることです。

このようにとりあえず設定した目標は、確かに形式としては整っていますし、評価指標もできているので、外から見ると何も問題がないように見えるかもしれません。
しかし、そこに納得や意味がなければ、目標は形式的なものとして存在するのみです。受け取った側も「あ〜、去年のコピーね。飽きたな〜」とテンションは下がり、やっつけ感も伝染して停滞感が漂ってしまうのです。

たとえば、営業が期末に売上目標を達成したとき、「あと一件契約できるけど、来期に回してもいいか」と調整する。あるいは、目標達成が明らかに難しいと判断したとき、最低限だけ達成して減点を最小限にするための行動にシフトする。
こうして目の前の数字だけを追いかけるチームは、各自がその期を乗り切ることが最優先になり、チーム全体での達成やチームの成長を見据えた行動が後回しになっていきます。

このようなチームで3年も過ごすと、数字と顧客を調整するスキルだけが身につき、それ以上のスキルアップやチャレンジにつながることはあまり期待できません。
目標値が上がるほどにストレスが増し、結果として異動希望者や退職者が増えるという逆成果さえも生まれてしまうでしょう。
本来、目標は人を動かす起点であるべきです。
そのためには、なぜその目標なのか、どんな意味があるのかを理解し、共感できることと腹落ちさせることが不可欠です。
上から割り当てられた数値を配るのではなく、会社の戦略や方針と、メンバーのキャリアや希望とを照らし合わせて、このチームでこれをやる意味を見つけ出す作業が必要なのです。

納得感のある目標設定をするためには、目標を作成する人が前提を正しく理解し、自分自身の言葉で表現できることがとても大切です。前提となる、会社の中長期の戦略と今期のゴールを理解し、チームリーダーの考える1年後、3年後のチームの成長戦略、じっくりと時間をかけてまずはこれらの情報を自分に腹落ちさせることが大切です。
そして、チームのメンバーのキャリアプランやワーク・ライフ・バランスの考え方など、メンバーを徹底的に知り尽くして見えてくるものもとても大切です。
「会社の戦略」「自分自身のやりたいこと」「メンバーの意向」、これらのものが揃って初めて納得感のある目標を設定することができます。設定した後もそれを自分の言葉にしてメンバーに伝えるまでが、目標設定です。

目標設定はとても労力がかかる大変な仕事なのです。
そんなに時間をかけていられないという声もあるでしょう。
しかし、ここでしっかり向き合っておけば、軌道修正やその後の進捗確認やモチベーション維持にかかる時間が大幅に減ります。

もし、頑張って設定した目標に対してメンバーが動かないと感じたら、表現や伝え方を見直すだけで変化が起きることもあります。
メンバーの価値観や目指す方向を理解するほど、より有効な目標設定ができるようになり、結果的に自走するチームの原動力になります。同じ時間を投資するのであれば、後で修正に膨大な時間をかけるよりも綿密な準備をするほうが建設的です。

「言われたからやる」「決まっているから仕方ない……」、こうしたとりあえずの空気は、チームの可能性を大きく制限してしまいます。そして、目標は、チームを前に進めるものでなく、人の思考と行動を止める罠になってしまうのです。
同じ1年を費やすなら、有意義で建設的な時間にしたいものです。
腹落ちする目標を掲げ、意味ある行動を引き出すことが、自走するチームをつくるための本質的な仕掛けとなるのです。

人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
河合 由紀子(かわい・ゆきこ)
1977年、愛知県名古屋市生まれ。情報システム学修士、経営学修士。
IT業界やアドテク業界でプロジェクトマネジメントや人材育成に携わる。その後、ベンチャー企業での社長補佐やCxOの伴走、IPOを目指す企業の事業推進などを経験。
現場と経営のあいだを行き来しながら、「人が自然と動くチームとは何か」を問い続けてきた。
現在は東京情報デザイン専門職大学の非常勤講師として教壇にも立つ。
現場で感じた小さな違和感や気づきを大切にしながら、「管理」ではなく「関係」から動くチームづくりを日々探究。
理論と実務の両面から、会社員・社会人のための「ウェルビーイングな仕事学」研究会を共同主催し、対話を重ねている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
人を大切にするリーダーシップ これからのチームのつくり方
  1. 数字を配るだけでは動かない、チームが自走する目標設定
  2. なぜ部下が育たない? リーダーが問題を抱え込みすぎているから
  3. KPIを押しつけるな! チームで納得する目標値の決め方
  4. なぜ目標を伝えても動かない? チームを動かすリーダーの伝え方
  5. どうすればよかった? と聞くな! 本音を引き出す面談の問い方
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)