「何もない」景色に隠された途方もない努力

途方もない労力と時間を掛けて、人々は川の氾濫原を田んぼに変えていった。日本の国土にとって、田んぼを作る歴史は、激しい水の流れをコントロールすることに他ならなかったのである。

「田んぼはダムの役割がある」と言われるが、それは単に水をためているからではなく、急な河川の流れをなだらかにして、ゆっくりと流れながら大地を潤し、地下水を涵養することから、そう言われているのである。

戦国時代の日本では、同じ島国のイギリスと比べて、すでに6倍もの人口を擁していた。その人口を支えたのが、「田んぼ」というシステムと、「イネ」という作物だったのである。

ただ、私たち日本人にとって田んぼという風景は当たり前すぎて、田んぼしかないところは「何もない」と表現されてしまう。そして、田んぼが埋め立てられてコンビニでもできれば、「何もなかったところに店ができた」と言われてしまう。

しかし、そこに田んぼがあるということは、血のにじむような先人たちの努力があったということなのである。

(『世界史を大きく動かした植物』より一部再編集)

稲垣栄洋(いながき・たかひろ)植物学者
1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。(『THE21オンライン』2018年07月05日 公開)

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