発想力を鍛えるにはアイデアを「殺す」こと
40代が学ぶべきビジネススキルとして、三谷氏がもう一つすすめるのは、「発想力」だ。
「私が提唱している発想法は、ブレインストーミングなどではなく、『観察による発見』によって拡げたアイデアの中から、一番飛んでいるものを『ひとつだけ選択』し、そこに潜むトゲを『探究』するというもの。出たアイデアを全部活かそうとしてグルーピングなんてするから、丸まったツマラナイものになるのです。必要なのは、『グッドアイデアを殺す(Killing good ideas)』こと。スティーブ・ジョブズの言葉ですが一つの並外れたアイデアを生み出すためには、『選択』が大切なのです」
忙しい仕事の合間をぬって勉強するのだから、仕事で必ず役に立つことを学びたいもの。その点、「論理思考と発想力はあらゆる場面で活用できる」と話す。
「40代になってチームを率いる立場になれば、論理的に考え、判断し、決断しなければなりません。また、今は新しいものを生み出すことが求められる時代ですから、そのニーズに応えるには発想力も不可欠です。論理思考と発想力を鍛えるということは、いわば自分自身のOSを入れ替えるようなもの。今後のキャリアアップに役立つだけでなく、仕事の質やスピードが格段にアップするはずです」
では、どのような勉強法なら、勉強したことを自分のものにできるのだろうか。
「論理思考や発想法などの方法論は技ですから、座学だけで身につくものではありません。ボールをバットで打てるようになるには、素振りが千回必要でしょう。いや、素振りだけでダメ。実際に打席に立って凡打を千回繰り返して、ようやくヒットが打てるようになります。ビジネスの方法論も同じ。何十回と実践を繰り返して初めて、自分のものにすることができるのです」
座学→実践→シェアで確実に自分のものにする
実践を取り入れた勉強法として三谷氏が推奨するのは、職場で勉強会を開くことだ。
「職場で仲間を集め、学びたい方法論について読書会を開いてみてはどうでしょう。読書会で学んだ方法論を職場や家庭で一週間ほど実践し、その結果を次の勉強会でシェアします。『座学』→『実践』→『シェア』を繰り返すことで、実践へのモチベーションが高まり、方法論への理解が深まります」
仲間と結果をシェアすることの利点は、それによって自分の取り組みを客観的に見つめ直すことができることだ。
「一人で勉強していると、うまくできないのは『方法論が悪いから』と思いがちです。しかし、チームで結果をシェアし、同じ職場でもうまくできた人とうまくできなかった人がいると、うまくできないのは『自分のやり方が不十分』とわかります。こうしたことは、言葉で教えられるよりも、体験することでしか学べません。うまくできた同僚の取り組みは、自分のやり方を改善していくための最善の事例となるでしょう」
勉強会を開くことで、職場で方法論を共有することも可能だ。
「論理思考などの方法論は、一緒に働くチーム内で共有されていることがとても重要です。なぜなら、一人が三段階で考えるのに、他の人が五段階で考えていたら、コミュニケーションができないからです。勉強会を開いてチームで方法論を共有しましょう。チームの仕事の効率や生産性は格段に上がります」
他人に教えることで、自分自身の理解も深まっていく。
「ある方法論を本当に理解したいなら、それを他人に教えることが最短の道です。職場で仲間を集めて勉強会を開き、そこで教えることから始めましょう。ビジネスパーソンの基礎力である思考のOSを入れ替えれば、きっと人生が変わります!」
三谷宏治(みたに・こうじ)K.I.T.〔金沢工業大学〕虎ノ門大学院教授
1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、外資系コンサルティング会社に就職。以来19年半、ボストンコンサルティング グループ、アクセンチュアで戦略コンサルタントとして働く。2003年から06年までアクセンチュア 戦略グループ統括。途中、INSEAD(仏フォンテーヌブロー校)で経営学修士(MBA)修了。
仕事と並行して28歳頃から社会人教育に携わり始め、32歳からグロービスで「経営戦略」などの講師を務める。06年から教育の世界に転じ、地元小学校でのPTA会長などを経て、07年からK.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授を務める。同時に、「決める力」「発想力」と「生きる力」をテーマにした授業や講演で全国を飛び回る。年間7,000人以上の社会人・子ども・保護者・教員に接している。現在K.I.T. 虎ノ門大学院教授の他に、早稲田大学ビジネススクール客員教授、グロービス経営大学院 客員教授、放課後NPOアフタースクール 理事、NPO法人3keys理事、永平寺ふるさと大使を務める。(『THE21オンライン』2018年7月号より)
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