「心の弾性」を察知しておく

心の傷は「弾性の限界」を超えたときにつくと、岩田氏は語る。

「心の弾性の範囲内なら、ストレスでグッと曲げられても、元に戻ります。しかし、弾性の範囲を超えれば、ポキリと折れて、つなぎ合わせても傷が残る。

私は、どうしても留学したいと頑張りすぎたのでしょう。もっと早く手を打てば、折れなくて済んだかもしれません。

ビジネスパーソンは、自分の心の弾性限界(耐性)を、おぼろげながらでも察知しておくことが必要でしょうね」

生真面目で自分を追い込みやすい人は特に要注意だ。

「日頃から『真面目で自分に厳しすぎる』と言われている人は、人一倍意識すべきです。理性が働かなくなって『頑張る』以外の選択肢が見えなくなる、『誰も助けてくれない』と思い込む、という状態は黄信号です」

岩田氏も、当時は「こんなに苦しんでいる自分に誰も気づいてくれない」と思い込んでいたという。

「落ち着いて考えてみれば、当然です。他人には関係のないことですから。でも、助けを求めれば、何かアドバイスやヒントもらえたと思います。

ともすれば弱みを見せたくないとプライドが邪魔しますが、思い切って白旗を上げるのも一つの勇気です」

一歩引いて見ればつらさは軽減される

人事権のある経営者とは違い、普通の会社員は「逃げられない状況」のプレッシャーに曝されやすいと、岩田氏は指摘する。

「自分では変えられない状況に縛られることは、強いストレスを生みます。上司との関係が、その典型でしょう」

かつての岩田氏も相性の悪い上司に悩んだが、今から振り返ると、当時とは違った見方ができるという。

「そもそも、『逃げられない』というのが思い込みなんです。上司も自分も、たいていは4~5年で異動するもの。とすると、2~3年も待てばどちらかが異動して、ストレス源と離れられるわけです。終わりがある、期限つきのストレスだと気づけば、ラクになります。

それでもつらければ、辞めればいい。実際には辞めないにしても、辞めるという選択肢があることを念頭に置くだけで、かなり違います。そのために、年収1年ぶんの貯金をすることを若い人に勧めています。

折れてしまわないためには、逃げ道を用意しておくことが、とても重要です」

余裕ができれば視野が広がり、上司に対する見方も変えられるようになる。

「少し距離を置いて状況を眺めると、『上司にも色々とつらい事情があって、こんな振る舞いをしているのかも』といった想像力が働きます。気持ちとしては上司を『上から目線』で眺め、『この人は何を求めているのか』を考えてみるといいと思います。

上司自身が、その上の上司と折り合いが悪いのかもしれない。業績アップのプレッシャーがきついのかもしれない――。そうした視点転換が、つらさを軽減します」