2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、同年7月13日に公布されました。民法のうち相続法に関する改正が行われたのですが、その中の一つで、相続の効力等に関する見直しが行われました。今回は、この内容がどのようなものなのかを解説していきます。
「相続の効力等」とは?
今回の改正は、相続人が法定相続分を超える財産を取得した場合、「その取得を債権者等の第三者に主張するための対抗要件が必要かどうか」という点に焦点が当たっています。対抗要件とは、不動産を例にとると相続した場合に「その事実として登記が必要かどうか」「登記によって債権者が不動産の差し押さえが不可能になるのかどうか」という効力のことです。
現行では、その対抗要件が、財産を遺言(相続させる旨の遺言)による相続分の指定や遺産分割方法の指定によって取得した場合と、遺贈や遺産分割協議によって取得した場合とで異なっていました。遺言書によって取得した場合には、登記等の対抗要件がなくても第三者に対抗できます。しかし、遺贈・遺産分割協議によって取得した場合には対抗要件が無ければ第三者に対抗することができません。
現行では遺言の有無や内容を知らない「相続債権者」等が不利益を被ることに
現行では、どのような問題があるのでしょうか。例えば、父が亡くなり相続人が長男A・次男Bの2人で、相続財産はプラスの財産のみだったとします。次男Bは、第三者Cから金銭の借り入れがあり、債権者であるCは、次男Bの法定相続分2分の1を差し押さえて債務を回収しようと考えました。もし長男Aが遺贈・遺産分割協議によって全財産を取得した場合はどうなるでしょうか。
第三者Cは、長男Aの法定相続分を超えた部分について、例えば不動産の登記等を長男Aより先に行うことによって、長男Aに優先してその財産を取得できます。しかし、父が全財産を長男Aに相続させる旨の遺言を残していた場合、第三者Cが不動産の登記等を長男Aより先に行ったとしても常に遺言の内容が優先となり、Aが財産を取得することになります。
つまり、第三者Cには対抗するすべがないということになります。次男Bではなく、父が第三者Cから借り入れをしていた場合も同様です。債権者である第三者Cは法定相続分に応じて長男A・次男Bにそれぞれ債務の請求をすることができます。しかし、遺言によって次男Bが財産を取得しなかった場合には債務の回収ができず、債権者である第三者Cの利益を害する可能性があるのです。
このように、相続財産の取得方法によって相続の効力等に違いがあります。その結果、債権者等の第三者が不利益を被る可能性があるほか、登記をしなくても不動産を相続できることで名義変更がされないまま相続が複数回発生することもあるのです。そのため、所有者が不明の不動産が増える可能性があるという問題もあるでしょう。これらは、強制執行制度や登記制度の信頼性を低下させるものとして、今回の改正に至ったという経緯があります。
改正後はどのように変わるのか?
そこで、改正後は相続財産の取得方法に関わらず、法定相続分を超える分については登記等の対抗要件が必要です。遺言で取得しようが遺産分割協議で取得しようが、不動産であれば登記、預貯金であれば名義変更等を行わなければ、債権者等の第三者に対抗できなくなります。つまり、相続開始後にできるだけ早めに手続きを行わないと、第三者による差し押さえや売却等が行われてしまうリスクがあります。
また、債務の相続については現行では明文化されていなかったのですが、改正後は現行の判例が明文化されるため注意が必要です。遺言で相続分の指定等があったとしても、債権者はその内容に関わらず法定相続分に応じて各相続人に対して債務の請求をすることができます。ただし、債権者が指定相続分等を認めた場合には、その相続分に応じて各相続人に債務を請求することができるようになります。
このように、改正後は登記制度・強制執行制度が現行よりも重要視され、早めの登記を行わないと財産を取得する相続人が不利益を被る可能性がでてくるでしょう。一方で、強制ではないものの特に不動産については、現状よりも登記が行われることが考えられ、所有者不明の不動産が減少するのではないかという期待もあります。いずれにしても、相続によって財産を取得した場合には、これまで以上に早めの名義変更等の手続きが必要となりそうです。(提供:相続MEMO)
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