本当にこのままで大丈夫?

親の老後,相続,横山光昭
(画像=THE21オンライン)

今はまだ元気な親も、いずれ必ず身体が弱ってくる。その日に備え、親自身の生活環境、資産状況、そして万一のときの「相続」のことを考えなければならない。とはいえ、なかなか話しにくいテーマを、どう本人に切り出すか。家計再生コンサルタントとして数多くの家計相談を受けてきた横山光昭氏に、秘訣をうかがった。

団塊の世代ですら「逃げ切れない」!?

親の資産状況は、40代にとっては気になるテーマです。リタイア後の家計、医療費や介護費用等のリスク、先々の見通しなどについて一度腹を割って話しておきたいところです。

しかし、お金の話はときに生々しいイメージを伴うもの。特に、今の40代の親世代にあたる60代、70代には抵抗感を覚える人も少なくありません。

とはいえ、「聞きにくいから」で放っておくのは危険です。団塊ジュニアの親世代は若年世代よりも老後は安泰、というイメージを持たれがちですが、実際のところはリスクあり。おそらく団塊世代の約半分は、家計の破綻──貯蓄が尽きる可能性が多かれ少なかれあります。

例えば、年金。団塊世代で多数を占める「夫が会社員・妻が専業主婦」という組み合わせの場合、夫が約15万・妻が約6万で月々約21?22万というのが平均的なケースです。

一方、総務省の調査によると60代の月々の生活費は平均27?28万円。とすると、月6万ほどの赤字。それは25年間で、1800万円に上ります。

それを補填するのが貯金です。この1800万に加えて医療や介護費用も視野に入れ、「老後に備えて3000万円貯めておこう」と言われますが、この数字も当てになりません。

生活レベルや状況によって千差万別で、長生きすればするほど、確実に貯金は切り崩されます。

資金が足りずに老後に突入する人もいます。現役時代に貯蓄に熱心でなかった人のみならず、意外に退職金が少なかった、住宅ローンが残ってしまった、保険金の目算を誤っていた、などの想定外もつきものです。

ところが、この世代は良くも悪くも気丈で、ギリギリまで我慢しがち。結果、にっちもさっちもいかない状況になってから子供が実情を知る、といったケースも。自らも教育費や住宅ローン等で支出のかさむ時期、これは大きなダメージになります。

「健康・孫・住宅」を会話の糸口に

親の暮らし向きについて情報収集することは40代にとって急務といっていいでしょう。年末年始の帰省は、絶好のチャンスです。しかし前述の通り、こうした話に抵抗を覚える親は少なくありません。

大事なのは、自分の損得ではなく「親が心配だから」という前提で聞くこと。「不安はない?」「生活、大丈夫?」というように、誠実に問いかけましょう。

切り出し方としてお勧めなのは、健康状況を聞くことです。「身体の具合はどう?」から始めて、医療費はどれくらいかかっているのか、大きな病気になったらどうするか、というところから、「どんな保険に入っているのか」をヒアリングできます。

保険は最大の「見直しどころ」です。現役時代に入った分厚い保険──医療・貯蓄機能・死亡時保障まで搭載された保険をそのまま継続していたら、見直しを勧めましょう。

特に、不要なのは死亡保険。子供が経済的に自立している以上、ここにお金をかけるのは無駄です。現在の現役世代においても、子供が成人していれば死亡保険はつけない設計が主流になっています。

保険の見直しは遅くなるほど損失大。持病があれば新しい保険の加入は難しくなりますし、年齢が上がれば保険料が高くなるので、早めの対応が重要です。

さて、健康状態の他に有効な切り出し方は、自分の子供=孫を話題にすること。子供の教育方針についてアドバイスを求めつつ、自分を育てた時はどうだったのか、学費はどうしたのか、といった話から、「お金かかったよね?今、大丈夫?」という話題へつなげられます。

また、住宅も良い切り口です。そろそろリフォームが必要ではないか、といった入り方で、ローンはもう終わったのか、このままずっと住むのか、売却は視野に入れているのか、とさまざまに展開できます。

ただし、年金に関しては意外と、「どれくらい出てるの?」とストレートに聞いてもOK。貯金と違い、資金管理力を問われる話ではないせいか「これだけだよ」と素直な返答が返ってくるケースが多いです。そこから「少ないね、貯金大丈夫?」と、核心に入っていけるでしょう。

話しにくい話題をさりげなく切り出すコツ

お金の話題は毎年、家族や親族が集まるごとに行なうのがお勧めです。慣れていくことで、次第に相続などのデリケートな話にも踏み込みやすくなります。

相続は親子のみならず兄弟との関係も絡む「高難易度」な話題ですが、やはり避けては通れません。実は、2019年度から相続税が変わるため、年末は話のネタにするチャンス。

特に、分割の難しい不動産については確認が必要。親族の揃った場で、「この家はどうするの?」など、意向をそれとなく聞いておくべきでしょう。

遺産の法定相続は「配偶者に2分の1、残りを子供に均等分割」が基本ですが、もしそれ以外の意向があるならば、遺言書を残してほしい、と伝えたいところ。これは後々もめないための親の義務といってもいいくらい大事な仕事なのですが、それをしなかったために兄弟が傷つけあう「争族」を、私も多数目にしてきました。

遺言書という言葉が言い出しにくい場合は、「エンディングノート」を勧めるのも手。勧めないまでも、「今、流行ってるんだってね」というようにさりげなく話題に出すのも良い方法です。

いずれの場合も、親が心身ともに健康な間に意志を表明しておいてもらうこと。それも口頭ではなく、何らかの形で書き残してもらうことが大事です。親自身、そして自分のこれからに備え、心配の種を早め早めに摘み取りましょう。

横山光昭(よこやま・みつあき)家計再生コンサルタント
1971年、北海道生まれ。家計再生コンサルタントとして独自の貯金プログラムを提唱、個々の事情に合わせた指導で、これまでに1万人以上のクライアントと関わり、赤字家計を再生。メディアや講演でも活躍、『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)などベストセラー多数。近著『あぶない家計簿』(日経プレミアシリーズ)。《取材構成:林加愛》(『THE21オンライン』2019年1月号より)

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