シンカー:企業が雇用の不足も過剰も感じない中立的な水準で、業況感が良好であれば、その産業の企業の平均的な経営状態も良好であると考えられる。製造業は、慎重な経営方針の影響もあり、競争力が衰え、過去の貯金を食いつぶすように中立的な業況判断DIの水準は低下トレンドにあった。製造業の中では、自動車の中立的業況は圧倒的に良好だが、3年前と比較すると低下している。電気機械は3年前と比較すると低下し、グローバルな競争の激化などで、とうとうゼロ近傍になってしまっている。製造業では産業ごとのポジションに違いが明確に現れているようだ。一方、非製造業は、大幅なコスト削減と、IT技術などの産業の大きな変化やインバウンド需要、そしてアベノミクスなどに刺激された昨今の内需の回復を受けて、水準は急回復をしている。物品賃貸や通信などの中立的業況は圧倒的に良好で、3年前と比較すると上昇し、IT技術の進歩などの影響が表れている。デフレマインドの緩和が追い風の不動産業と、インバウンド需要が追い風の宿泊・飲食などが、3年前と比較すると上昇が著しい。非製造業はまだ水準がマイナスである産業は多いが、ほとんどの産業で3年前から上昇している。中立的業況が、円安の影響が大きい製造業に対して非製造業が優位に推移してきていることから判断すると、アベノミクスは単純に大規模な金融緩和による円安の効果だけであったとは言えないことになる。中立的な業況判断DIの水準が上昇トレンドにあることは、大規模な金融緩和などによって資金繰りが容易となり企業の切迫感が薄れて構造改革が妨げられていることはなく、逆にその促進になっていることが分かる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

企業が雇用の不足も過剰も感じない中立的な水準で、業況感が良好であれば、その産業の企業の平均的な経営状態も良好であると考えられる。

日銀短観の業況判断DIを雇用判断DIで推計し、雇用判断DIがゼロである時の平均的な業況判断DIを示す定数であるAが、その産業の中立的な業況判断DIの水準であると考えられる(6年間でローリング推計)。

日銀短観業況判断DI=A(中立的な業況判断DI)-B 雇用判断DI

製造業は、慎重な経営方針の影響もあり、競争力が衰え、過去の貯金を食いつぶすように中立的な業況判断DIの水準は低下トレンドにあった。

製造業の中では、自動車の中立的業況は圧倒的に良好だが、3年前と比較すると低下している。

電気機械は3年前と比較すると低下し、グローバルな競争の激化などで、とうとうゼロ近傍になってしまっている。

製造業では産業ごとのポジションに違いが明確に現れているようだ。

一方、非製造業は、大幅なコスト削減と、IT技術などの産業の大きな変化やインバウンド需要、そしてアベノミクスなどに刺激された昨今の内需の回復を受けて、水準は急回復をしている。

物品賃貸や通信などの中立的業況は圧倒的に良好で、3年前と比較すると上昇し、IT技術の進歩などの影響が表れている。

デフレマインドの緩和が追い風の不動産業と、インバウンド需要が追い風の宿泊・飲食などが、3年前と比較すると上昇が著しい。

非製造業はまだ水準がマイナスである産業は多いが、ほとんどの産業で3年前から上昇している。

非製造業では、現在のところ水準はほぼゼロまで上昇し、製造業とポジションはほぼ同じとなっている。

中立的業況が、円安の影響が大きい製造業に対して非製造業が優位に推移してきていることから判断すると、アベノミクスは単純に大規模な金融緩和による円安の効果だけであったとは言えないことになる。

デフレマインドを緩和し、成長戦略に基づいた構造改革も緩やかだか推し進め、内需の回復が進行していることが、日本経済のファンダメンタルズをデフレ完全脱却に向けて徐々に改善している証拠となっている。

中立的な業況判断DIの水準が上昇トレンドにあることは、大規模な金融緩和などによって資金繰りが容易となり企業の切迫感が薄れて構造改革が妨げられていることはなく、逆にその促進になっていることが分かる。

全産業で中立的な業況判断は、非製造業が足を引っ張っていたマイナスから、ようやくゼロ近傍に回復しており、今後は製造業の持ち直しと非製造業の躍進が続けばプラスの領域に入り、デフレ完全脱却の動きを加速させることになるだろう。

図)雇用の不足も余剰も感じない中立的な業況判断DIの推移

雇用の不足も余剰も感じない中立的な業況判断DIの推移
(画像=日銀、SG)

表)製造業の雇用中立的な業況判断DI

表)製造業の雇用中立的な業況判断DI
(画像=日銀、SG)

表)非製造業の雇用中立的な業況判断DI

表)非製造業の雇用中立的な業況判断DI
(画像=日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司