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(画像=ダンデライオン・チョコレートの創業者トッド・マソニス(右)とキャメロン・リング(左)。(c)Dandelion Chocolate Japan)

あえて東京のイーストサイドに出店した理由

ダンデライオン・チョコレートの日本進出にあたり、最初から複数店舗を展開する構想を作っていた堀淵さん。蔵前、伊勢外宮、鎌倉、京都の店舗は、いずれも繁華街を避けて作られているように思える。まず1店舗目に蔵前を選んだ理由は何だろうか。

「東京の中でもイーストサイドを選んだのは、清澄白河で『ブルーボトルコーヒー』が大成功したのが大きく影響を与えました。住宅街で人っ子1人歩いていないようなところでも、コンテンツとしての面白さがあれば人は来るというのがわかった。『ファクトリー&カフェ蔵前』は目の前が公園で、春は桜、夏は新緑が美しく、二階のカフェからの借景がすばらしいという理由で選びました。『伊勢外宮前店』には、シンボリックな意味もこめています。日本はもともとコツコツ物作りをしてきた民族です。その日本人の魂のふるさとである伊勢に、ダンデライオン・チョコレートがあるということは何か意味があることのように感じました。あとはものづくりのコミュニティがあるところを選んでいます。クラフトを愛してくれるという空気感がないとつらいですからね」

サンフランシスコの店舗と、日本の各店は統一されているわけではなく、外観やパッケージデザイン、メニューなどに若干違いがあるようだ。店を作る上で、エリアに合わせたカスタマイズをしているのだろうか?

「僕の中では、カスタマイズではなくトランスレーションなんです。一枚一枚丁寧に作った美味しいチョコレートを売るというイノベーションや、ビジネスのコンセプトそのものはアメリカにあります。それを日本に持ってくる上で、日本人に通じるようトランスレーションしなければいけない。日本の漫画をアメリカに持って行くときに翻訳するのと同じような作業だと思っています。変に日本化するとかアジア化するのではなく、オリジナルの持つ本質的な良さはそのままに、その土地の人に受け入れられるよう翻訳していく。例えば『ファクトリー&カフェ蔵前』は公園の前だから、家族連れも気軽に来られるようおしゃれすぎないようにしています。カップは手に馴染むような、丸いフォルムの陶器がいいなと思って大谷焼の里で最も古い歴史を持つ窯元から生まれた『SUEKI CERAMICS』に焼いてもらいました。日本オリジナルですが、トッドも非常に気に入って現在はサンフランシスコでも使用しています。そういう意味では、お互いにいい影響を与えながらブランドを育てていると思います」

ダンデライオン・チョコレートはどの店舗も昔からその場所にあったようにしっくりと馴染んでいる。人目を引いてどんどん集客するのではなく、カルチャーとしてその地に根付かせるという長期的な視点があるからこそ、街に溶け込むような店舗デザインになっているのだろう。

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(画像=『SUEKI CERAMICS』で焼き上げたオリジナルのカップ。(c)Dandelion Chocolate Japan)

日本のクラフト市場の伸びしろは?

フード事業に参入して以来、プロデュースする店を次々とヒットさせてきた堀淵さん。彼の感じるクラフトビジネスの魅力とは何だろうか。

「僕はブランドをただ消費することには、ビジネスとしてのモチベーションが湧かないんです。最先端のトレンドを追いかけて、3年くらいでコンテンツをどんどん入れ変えるというビジネスモデルもあるし、それはそれでいいと思います。でも、それはカルチャーではないですよね。僕はカルチャーを育てることで、いろいろな人が影響を受けて、サステナブルな世の中になるとか、世界が少しでも平和になることにモチベーションを持ちます。もちろんたいしたことはできないんだけれど、少しくらいは影響を与えられるでしょう。生産地のフェアトレードもその一つです。ファッションとしてやるのではなくて、本質的なことに関わることが重要だと思っています」

アメリカでは行き過ぎた大量消費へのカウンターカルチャーとしてクラフトビジネスが盛り上がっている。日本でも、食の安全やサステナブルフードといった意識の高まりとともに、「安いものをたくさん」から、「こだわりのあるものを少しずつ」という層が増えていくのではないだろうか。堀淵さんに、日本のクラフト市場のポテンシャルについて聞いた。

「クラフト市場という言葉でひとくくりできないものがあるけど、もともと日本はものづくりが文化として根付いている国です。日本中どこに行っても必ず素晴らしい職人に巡り会えるし、びっくりするほどいいものが見つかります。僕らはそういう人たちとつながりたい。一緒にやれることがあるかもしれないし、お互いにインスパイアされることもあると思います。例えば『ファクトリー&カフェ蔵前』では、近くに店舗を構える『NAKAMURA TEA LIFE STORE(ナカムラティーライフストア)』さんとコラボして、無農薬・有機栽培のほうじ茶葉を使った蔵前限定のチョコレートドリンクを作ったんです」

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(画像=「クラマエホットチョコレート」。(c)Dandelion Chocolate Japan)

ダンデライオン・チョコレートのサンフランシスコの店舗にはミッションホットチョコレートという、ミッション地区をイメージして作られた、カイエンペッパーやオールスパイスなどを使ったドリンクがある(日本のダンデライオン・チョコレート各店でも販売中)。その“蔵前バージョン”が、ほうじ茶が香るクラマエホットチョコレートだ。他にも日本のいいものをどんどん発掘していきたいと堀淵さんは語る。

「日本には山ほどいいものがあるのに、どこも小規模で、世界的に展開するようなスケーラブルなブランドはなかなか生まれません。アメリカには、イノベーションを生み出す起業家と、彼らに出資する投資家、それを面白がって受け入れる市民が生み出すダイナミズムがあります。日本では企業や銀行が融資を決める際には実績を重視するので、起業前に『面白そうだから』という理由で出資するシステムや環境そのものがありません。それで諦めている人もいるのかもしれない。本当にスケーラブルに展開したいのであれば人のご縁が必要だし、チーム作りが重要ですね。あと、西洋人が100年かけて世界中にワインや香水を売り込んだように、国を挙げてプロモーションすることが、日本人は意外と苦手です。そういう意味では、もっとアメリカ人に日本のいいもの知ってもらいたいし、アメリカの面白いものを日本人に紹介したい。これからも日本とサンフランシスコの架け橋になるようなことを続けていきたいと思います」

堀淵さんが次の一手として、サンフランシスコで注目している店は「企業秘密」とのこと。だが、クラフトビジネスというカテゴリーは一緒だという。彼は次にどんなことを仕掛けるのだろうか。今からとても楽しみだ。

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(画像=『ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前』の外観。(c)Dandelion Chocolate Japan)

堀淵清治(ほりぶち・せいじ)
1952年徳島生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、1975年に渡米。1986年日本の漫画をアメリカで出版するビズコミュニケーションズを設立。2006年には、ニューズウィーク誌で「世界が尊敬する日本人100人」のひとりに選出される。2011年サンフランシスコにNEW PEOPLE,Incを創業。映画、ファッション、音楽、アートなど日本のポップカルチャーを発信している。 2016年2月には代表を務めるダンデライオン・チョコレート・ジャパン株式会社の1号店を蔵前にオープンした。

『ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前』
住所/東京都台東区蔵前4-14-6
電話番号/03-5833-7270
営業時間/10:00~20:00(L.O.19:30)
定休日/不定休
http://dandelionchocolate.jp/

(提供:Foodist Media

執筆者:三原明日香