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(画像=「空間を守る」ことの大切さを語るギャランティーク和恵さん)

ちあきなおみさんのレコードジャケットに使用された店内、昭和の面影を残す

『夜間飛行』は昭和の歌謡曲が好きという人も顔を出す。そこに特化したわけではないが、一つのフックとして、店の特徴を示すものとなっている。店舗は1972年に『喝采』でレコード大賞を受賞した、ちあきなおみさんのアルバム『もうひとりの私』(1972年12月発売)のジャケット撮影の場所にもなった。当時『桂(けい)』という名前だった前オーナーの店舗から2007年に引き継いだのがギャランティーク和恵さん。店名の『夜間飛行』は大ファンだったちあきさんのシングル曲にあやかった。

店内には、ちあきさんの大きな写真パネルがいくつか飾られ、照明も『桂』時代から引き継がれた古いペンダントライトをそのまま残し、昭和の雰囲気を今も残している。こうした仕掛けも客に現実を忘れさせる小道具の一つであろう。

『夜間飛行』を語る場合、ママが歌手、性的マイノリティーという部分に触れないわけにはいかない。歌手であることは、スナックの経営にもプラスになっているという。コンサートでは客にスナック経営をしていることをMCの中に交えると、それを聞いて店に来る人もいる。逆に店に来た人がコンサートに行くなど、二足のわらじが、相乗効果を発揮しているという。

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(画像=『夜間飛行』はちあきなおみさんのアルバム『もうひとりの私』のジャケット撮影の場所になった)

性的マイノリティーだからこそできること、「ひたむきを輝きに変える」

また、性的マイノリティーであることもビジネスにおいてはプラスになっている。「スナックに足を運ぶ男性客の中には『きれいなママがいるから行こうか』と少しばかり『色』を期待してしまうところってありますよね。でもウチはそういうのがありません。よくあるママ争奪戦みたいなのもなく(笑)、そういう空気は私がゲイであるから作れているのかもしれません」と、ゲイだからこそ醸し出せる空気があることを強調する。

しかし、ゲイバーというイメージも作らないようにしている。ゲイは男と女の間とも言うべき一種ニュートラルな性と感じる人もいるかもしれないが、「ゲイはゲイです」と、決して性が喪失されたような存在ではないとする。スナックでゲイを看板にすると客もそのイメージを求め、セクシャリティーがむしろ偏ってしまう結果になるが、それを好ましくないと考えているのである。

「ゲイバーはゲイバーで面白いものだと思いますが、私はゲイを表には出さず、しかしゲイとしてセクシャリティーの多様性を許容しながら、ニュートラルでフラットな空気を作ろうとしてきました。お客さんにはゲイの方もいればレズビアンの方もいて、ノンケ(異性愛者)の方もいればトランスセクシャル(性転換した人)の方もいますが、そんな様々なセクシャリティーの壁も取っ払われた、プラトニックな感じで皆さん飲んでくれています。酒場としては色恋もスパイスになりますが、それが邪魔な人だっています。そういうタイプのお客さんが私の店に居心地の良さを感じてくれているのではないでしょうか」と、自身がゲイであることをプラスにしている部分を冷静に分析する。

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(画像=『夜間飛行』では色恋ではなく、あくまでも酒場としての雰囲気を大切にしている)

最後にゴールデン街でスナックを成功させるための要素として、ママのパーソナリティーがどの程度を占めるか、そして今後の経営について聞いてみた。「ママの人柄が占める割合は100%じゃないでしょうか。オープンした時にまずママがいて、ママの人柄で客が集い、客の横のつながりがさらに客を呼ぶという順序ですから。そして、客の横のつながりをうまく作っていくのもママの力です。私は特にリピーターを増やそうと思ってなくて、媚びを売るということはしません。奇跡的なタイミングで出会った人が残ってくれればいいと思っています。それが縁というものです」。外食産業のビジネスマンとは少し異なるメンタリティー、思考回路を持たないと、この世界で生き残るのは厳しいということであろう。

星屑スキャットの最新アルバム「化粧室」に収録されているHANA-MICHIという曲の中に、スナックで生きる人の思いが詰まっているような一節がある。それは、今夜、降り注ぐようなネオンで花道を照らしてほしい、ネオンの世界で生きる者のひたむきさを輝きに変えるこの道を、という意味の一節。

ギャランティーク和恵さんはこんな思いを胸に、カウンターの向こうでお酒をつくっているのかもしれない。

ギャランティーク和恵
福岡県生まれ、年齢非公表。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科でグラフィックや映像を学ぶ。5年間在籍した後に中退。在学中に歌手活動を開始し2002年にデビュー。2005年に星屑スキャットとしての活動も開始した。2007年9月に老舗のスナック「桂(けい)」から店舗を受け継ぎ、経営者として「夜間飛行」としてオープンさせた。

『夜間飛行』
住所/東京都新宿区歌舞伎町1-1-9 G2通り2F
電話番号/03-3207-5586
営業時間/20:00~26:00(月~木)、20:00~29:00(金・土・祝前日)、19:00~25:00(日曜)
料金/チャージ800円、ボトルチャージ1500円、酒700円。ごま油が効いた冷奴が人気。
http://gallantica.com/snack.html

(提供:Foodist Media

執筆者:松田 隆