01
(画像=お話をうかがった『snack夜間飛行』のママ・ギャランティーク和恵さん)

飲食店においてスナックが占める地位は独特のものがある。通常の飲食店では客は美味しい酒、料理を求めてやってくるが、スナックはそうしたものより良質なコミュニケーションを求めてやってくる客がほとんど。経営には当然、特別なノウハウが求められる。新宿・ゴールデン街にある『snack夜間飛行』のママで、歌手としても活動するギャランティーク和恵さんに店舗経営、常連客の作り方などをうかがった。和恵さんが教える商売の秘訣は「空間を守る」である。

ママは歌手、4月25日にニューアルバム『化粧室』リリース

新宿区役所の向かいにあるゴールデン街は、古くからスナック街として人気を集めてきた。多くの文士にも愛されたこのエリアにはおよそ200軒のスナックが軒を連ね、今では欧米からの観光客の人気スポットになっている。

『夜間飛行』は紫色の看板が目印で、急な階段を上った2階にある10席程度の小さな空間。ママのギャランティーク和恵さん(年齢非公表)は歌手としても活躍し、4月25日には「星屑スキャット」というグループのメンバーとしてアルバム『化粧室』をリリースした。星屑スキャットはギャランティーク和恵さんとミッツ・マングローブさん、メイリー・ムーさんによるボーカルグループ。最新のアルバムでは男女の機微を、女性サイドから描いた作品が並ぶ。

02
(画像=ギャランティーク和恵さんのソロライブの様子)

ママとはいえ、その姿はヒゲを生やした男性。彼(女)は性的マイノリティー、いわゆるゲイであり、歌手の時は女装するが、店では男性の姿のまま接客している。開店の午後8時を過ぎると客が集まってきて、思い思いの席に座る。取材に訪れた日は、常連のサラリーマン風の男性二人組と、コンサートに行って店の存在を知ったという女性客2人が相次いで入店してきた。

「5割は常連さんが席に座っている感じです。11年やっていますから常連さんも増えました。ただ、新規の方も入ってきてくれます。リピートしてくれるのは100人に1人ぐらいでしょうか。ゴールデン街は今では観光地みたいなものですから、ただ、どこでもいいから入ってみたかったという感じの方もいらっしゃいます」。

観光客をターゲットにして、英語でチャージが無料であることを大きな看板で示している店もゴールデン街にはある。しかし『夜間飛行』の場合はママ自身が歌手としても活動し、キャラクターとしてもアピール度が強いだけに、ママや、その醸し出す空間に惹かれてやってくる常連客を増やすことがビジネス上、成功の確率が高いのは明らかであろう。そのためには実は常連客が店のキャラクター作りに大きな影響を及ぼすという。

03
(画像=ゴールデン街は外国人観光客の観光スポットにもなっている)

ポイントは居心地の良さ、客同士の相性を良くするために「空間を守る」

ギャランティーク和恵さんは、「相性というか縁というか。『何か居心地がいいな』とか、たまたま隣に面白い人がいて、その人と話が合って『楽しかった』という思いを持って帰られた方は2回目、3回目と、来てくれるようになります」と、スナックにおけるリピーター創出の仕組みについて語る。その上で「店のキャラクターは常連さんが作り出すムードだと思います。初めて入ったお店で、常連さんたちのノリがあまり合わなかったら、アウェー感を感じて居心地も悪くなるじゃないですか。逆に『このお客さんたち、自分と合うかも』と思えば、それはないわけです。いかにお客さん同士の相性が良くなるかが、客が広がっていくポイントだと思います」。

こうした客同士の相性が良くなることをひたすら待つのは、「百年河清を俟(ま)つ」の類であるのかもしれない。そこにはスナックという業態、小規模店舗ならではの難しさがある。店内の空気が1人の客によって乱されることもある。そうなると「今日は楽しかったな」という思いで帰ってもらうことはできない。そうならないようにするのはママの大事な役割、仕事である。

「スナックは小さな国みたいなもので、ママは一国の女王みたいなものです。その空間の中でママのルールに従って、居心地がいいと感じて飲んでる人も確実に存在します。だから『この人は、うちの店にとっていい空気や、人間関係をもたらさない』と感じたら、他のお客さんのために『ごめんなさい、もう帰ってもらっていいですか?』と言います。その人にとっては理不尽かもしれませんが、それが『空間を守る』ということです」。

そうした思いがあるから、常に店内の雰囲気には目を配る。「スナックのママという職業は人間関係ですから(笑)。今、バランスが崩れて来ているなとか、最近元気ないな、とか。それが空間をまとめている人間としてやらなければいけない仕事です。ママというのは、スナック内が居心地のいい空間になるようにする仕事なのです」と力を込める。決して楽しいことばかりではない。だが、客が求めるものを提供するためにはその類の努力は必要であり、そうして出来上がった空間に惹かれて客は店に足を運ぶのである。