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(画像=「ものすごい鯖・ビーツ・梅」)

昨日の「100点」を壊して、同じメニューでも毎日進化させる

『グリ』のディナーは9皿コース。鮮やかな色彩に目を奪われる芸術的な一皿もあれば、卵とハマグリだけ使った茶わん蒸しのようなシンプルな料理を出すこともある。

「コース料理を一本の映画のようにとらえて、一皿ずつの繋がりや、ストーリーを大事にしています。作り込んだ料理ばかりだけではなく、誰もが食べたことのある繊細で綺麗な味の料理や、個性的なスペシャリテなど、バラエティに富んだアプローチがあるからこそ、抑揚がついて最初から最後まで楽しんでもらえるかなと思っています」

コース料理の構成は2か月のサイクルで変わるが、同じメニューでも、実は毎日微妙に進化しているという。

「食材の切り方をちょっと変えるとか、酸味を強くするとか、量を調整するとか、毎日少しずつ変えています。料理の可能性に対してアプローチして、しっかりそれをフィードバックしていくという感じですね。肉や野菜は、切る方向や包丁の研ぎ方ひとつで味が変わるじゃないですか。でもそれで美味しくなるかどうかはわからない。そう考えるとやることは山ほどあります。お客様には、常に『前来たよりも、今日のほうが美味しい』と感じてほしい。だから昨日の『100点』を壊して、より良いものを作り上げるんです」

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(画像=常に進化を求める鳥羽さん)

「これからの“しょく”をつくる」 鳥羽さんの新たな挑戦

鳥羽さんは研修にやってきた若い料理人に対し、惜しみなく技術や知識を教えている。しかし彼らに対して、もっとやれることはないだろうかと感じる瞬間もあったそうだ。

「料理人はクリエイターとしてもっと評価されるべきだと考えています。ただ、業界平均として給料が安いんです。それには仕方のない部分もあって、客単価と人数の上限が決まっているので、どんなに頑張っても収入が頭打ちになってしまいます。でも、『料理人って給料安いよね』とグチを言っているだけでは現状は何も変わりません。なので、僕は『これからの“しょく”をつくる』というコンセプトのもと、2つの取り組みを始めることにしました。1つ目は、仲間と一緒に『Harenchi(ハレンチ)』という会社を立ち上げたこと。会社名の『ハレンチ』はいやらしい意味ではなく、既成概念にとらわれず新しいものを作っていきたいという想いを込めています。具体的な業務としては、料理人や生産者など、食に関わる人たちをつなぐネットワークを作ります。フード事業のプロデュースなども通じ、彼らをさまざまな形で支援する予定です。その結果として、提供する料理のレベルが上がったり、メディアに露出したりする人を増やす。そして、未来を担う若い人が憧れるような、新しい『職』を作っていきたいんです」

この取り組みを会社としてやる理由を聞いてみると、「異業種とのコラボレーションが生まれやすい環境を作りたかったんです。また、新しい可能性を広げていくためには、僕一人でやるよりも、チームでやったほうが良いと考えました」と教えてくれた。『ハレンチ』の創業と並行して、『グリ』でも大きな改革を行うという。

「今年の7月に『グリ』のオーナーとなり、新しいチャレンジをする予定です。その決意表明も込めて、店名を『グリ』から『Sio(シオ)』へと変更します。僕が作る料理の基本は塩加減。これからもその本質にこだわり続けるお店でありたいとの想いから『シオ』と名付けました。働き方改革の一例として、『ハレンチ』で収入を稼いだ分、『シオ』から僕に支払われる給料を0円にして、スタッフの給料に上乗せしたいと考えています。能力とやる気のあるスタッフがいれば、店の外でもどんどん活躍してもらうつもりです。つまり、副業を可能にすることでトータルの収入をアップさせるというチャレンジなんです。『シオ』を通して、飲食業界の新しいモデルケースを作りたい。そのために批判されたって行動を続けます」

今後は、料理業界を内外から変革するアプローチを考えているという鳥羽さん。『グリ』は5月20日に閉じ、7月に内装も新たに、『Sio(シオ)』としてリオープンする。これまで圧倒的な熱量と行動力で突破してきた鳥羽さんだけに、飲食業界の慣習を打ち破り、風穴を開けてくれることが楽しみである。

鳥羽周作(とば しゅうさく)
1978年生まれ、埼玉県出身。料理人としての父親の背を見て育ち、物心ついたころには自らも“モノづくり”が好きだった。仕事として一度は別の職種に従事するも、自分の好きなことを生業にしたいと料理の道へ転向。幡ヶ谷(現在は神楽坂へ移転)の「DIRITTO」で3年、青山の「Florilege」で2年、恵比寿の『Aria di Tacubo』でスーシェフとして2年の修業を積み、2016年3月より「Gris」のシェフに就任。2018年7月から『Sio』オープン予定。

『Gris (グリ)』
住所/東京都渋谷区上原1-35-3
電話番号/03-6804-7607
営業時間/18:00〜21:00
定休日/水曜定休+月2日火曜定休

(提供:Foodist Media

(執筆者:三原明日香)