賃貸ビルオーナーが気にするテーマの一つとして、保有不動産の相続が挙げられるでしょう。相続税の計算においては財産評価がカギとなります。今回は、土地の財産評価について解説します。
賃貸ビルの相続対策の一歩は財産の評価額を知ること
保有賃貸ビルの相続税対策について考える場合、まずその土地の財産評価額を知ることからはじまります。なぜなら、相続税は課税対象となる相続財産の評価額を基準に計算されるからです。そしてその評価額を圧縮することが、相続税対策になるのです。相続財産の評価額を把握せずして節税対策をすることはできません。
また、相続税の申告・納税義務は、相続の対象となる正味の遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合に発生します。正味の遺産額とは、亡くなった人が残した全ての財産から借入金などの債務を差し引いた額です。正味の遺産額が基礎控除額を超えていない、つまり相続税額が0円なのに節税策を講じるのは時間の無駄になります。
保有物件の合理的な相続税対策には、その物件の財産評価額を把握していることが必須なのです。
賃貸ビルの土地はどう評価される?
賃貸ビルの土地についての財産評価は、相続税法上次のように定められています。
土地の財産評価の基本
土地についての財産評価は、路線価方式あるいは倍率方式によることとされています。路線価も倍率も、国税庁のウェブサイトで確認することができます。
路線価方式とは、路線価が定められた道路に接している土地の評価方法です。路線価そのものは、道路(路線)に面する標準的な土地の1平方メートルあたりの価額をいいます。その年の路線価は毎年7月1日、国税庁により発表されます。路線価による評価額は一般的に実勢価格の8割程度になります。
倍率方式は路線価が定められていない地域の土地の評価方法です。その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
賃貸ビルでは路線価方式での評価が多い
「賃貸ビルオーナーとして意識すべきなのは路線価方式だけでいい」と言ってもよいかもしれません。というのも、賃貸ビルのほとんどは道路の多い市街地にあるからです。その賃貸ビルがあるエリアの路線価がどれくらいなのか、国税庁ウェブサイトで見ておくとよいでしょう。
路線価方式での土地の評価額の計算式は次のようになります。
土地の評価額=1平方メートルあたりの路線価×宅地面積
路線価は千円単位で表示されます。例えば、接している道路の路線価が「180」と記載されていれば18万円であり、土地の面積が500平方メートルならば、土地の相続税法での評価額は18万円×500平方メートル=9,000万円となります。
土地の形状によって調整が入る
ただ、土地の評価は路線価だけで行うわけではありません。実際の土地は整然とした形になっているケースばかりではありません。2つ以上の道路と接している土地や奥行きが極端に長かったり短かったりする土地、入り口が極端に狭い(間口狭小)土地、やたらと面積が大きい(地積規模が大きい)土地など、いびつな形をしている土地であるのが一般的です。
このようなことを配慮し、実際の土地の評価額計算では、正面路線と側方路線を判定したり、奥行補正率や規模格差補正率を用いたりして、より適正な評価額を算出することになります。
借地権・借家権で評価額が下がる
賃貸ビルが建っている土地の場合、自用地に比べ評価額が下がりやすくなります。なぜかというと、土地の性質やビルの賃貸により利用が制限されるからです。
土地に借地権が設定されている場合、その分だけ利用が制限されることになるため、借地権割合を加味して土地の評価を行うことになります。借地権割合は国税庁により定められており、路線価図のアルファベットで次のように見分けることができます。
A:90%
B:80%
C:70%
D:60%
E:50%
F:40%
G:30%
例えば、「180D」と書かれた路線価の路線に接道する土地(500平方メートル、奥行き補正率1.0)の借地権所有者から相続した場合、その土地の評価額は18万円×1.0×500平方メートル×60%=5,400万円になります。
さらに、賃貸ビルの場合、その土地の上に立っている建物の利用状況を配慮することになります。賃貸ビルに入居者がいる場合、その入居者がいる部分については、たとえオーナーであっても自由に立ち入ったり、使用したりすることはできません。この状況を借家権割合として土地の評価にも反映させます。なお、借家権割合は国税庁が公示する財産評価基本通達により一律30%として定められています。
例えば、先述の「180D」の路線価の路線に接道する土地について、その上にある賃貸ビルがまるごと他人に貸し出されている場合、その土地の評価額は18万円×1.0×500㎡×60%×(1-30%)=3,780万円となります。
実勢価格と相続税での評価額は一致しないので注意
なお、土地の評価の際、相続税法では実勢価格(時価)を用いることはありません。実勢価格とは、現実に不動産取引が行われる価格のことをいいますが、日本の不動産取引においては、取引価格情報がプライバシー保護の問題などから公開されにくく、また、取引状況によっては取引価格が低く抑えられることもあります。
課税の観点では、こういった状況での価格では税の公平性を欠くと考え、路線価など客観的な指標を用いて財産評価をすることとなっています。
こういったことから、実勢価格と相続税での評価額は一致しません。土地の相続税対策を考える上で注意しておきたいところです。(提供:ビルオーナーズアイ)