8月28日、金融庁は今後1年間の金融行政方針を発表した。主題は「利用者を中心とした新時代の金融サービス」、FinTechによるイノベーションの加速、家計における安定的な資産形成、金融システムの安定を実現すべく金融改革を推進、金融庁から “金融育成庁” への機能転換をはかる。
とりわけ、金融システム関連では地域金融機関の持続性についてあらためて懸念を表明したうえで、これまで以上に踏み込んだ制度改革に言及している。
低金利政策の長期化と地方の構造的な停滞を背景に地銀の経営環境は厳しい。この3月期は4割の地銀が本業レベルで赤字となった。金融庁の方針はシンプルかつ明快だ。要するに “再編” である。とは言え、ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の統合に際して公正取引委員会が一時待ったをかけた事例を引くまでもなく、寡占化は地域金融におけるサービス低下リスクを孕む。また、規模化による経営効率の向上とは重複機能の統合、店舗網の縮小といったコスト削減余力の一時的な確保に過ぎず、将来の成長を保証するものではない。
その意味で期待されるのは銀行の業務範囲に関する規制緩和である。金融庁は9月中にも事業範囲を明確化したうえで、原則5%に制限されている事業出資比率を大幅に緩和する。
地域に根付いた地銀にとって地元産品の販売支援や経営管理支援といった “地域商社事業” は本業とのシナジーが大きく、業態としての優位性も期待できる。それゆえ地銀各行は従来から販路開拓支援など “擬似商社” としての実績を積み上げてきた。法人顧客サービスの一環として年度予算化し、専門部隊を持った地銀も少なくない。弊社も「9行連携」スキームにおけるビジネスマッチングのハブ役としてこれを支援してきた。しかし、銀行法からの制約に対する各行のスタンスの微妙な差異が本格的な収益事業化の壁となっていた。
その意味で今回の規制緩和は地銀固有の人脈、情報、信用を潜在的経営資源としつつも、既存の枠組みを越えた新たな可能性を創出する絶好の機会であると言える。本業とのシナジー以上の成長戦略に期待したい。
今週の“ひらめき”視点 9.1 – 9.5
代表取締役社長 水越 孝