長引く抗議デモの影響で、香港が景気後退の危機を迎えている。政治不安によってIPO(新規株式公開)も相次いで延期になっている。この政治不安が経済に与える影響はどの程度で、香港政府には何が求められているのだろうか。香港の最新事情を探る。

「逃亡犯条例」改正でもデモ収まらず

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(画像=Dave Coulson Photography/Shutterstock.com)

香港で市民デモが起きたきっかけとなったのが、今年4月に政府が議会に提出した「逃亡犯条例」の改正案だ。香港政府が拘束した容疑者を中国本土に引き渡すことを可能とするもので、中国に批判的な有識者や活動家が引き渡される恐れがあるとして、市民の間で不安と不満が広がった。

その後、条例に反対する若者らが議会を囲い、警察当局と衝突した。政府はこの衝突を受けて改正を延期する方針を発表したが、市民らは延期ではなく撤回を求めて抗議デモを継続し、9月初旬に改正案の撤回が正式に発表された。

しかし、現在も市民による政府に対する抗議デモは慢性的に続いており、数万人が参加する大規模デモも起きている。デモの批判対象も警察の暴力や選挙制度などに広がっており、市民の不満はまだ収まる気配がない。

政治不安が経済に影響、IPOが相次いで延期

こうした政治不安は経済にも大きな影響を与えている。

香港はIPO調達額で2018年ほ世界トップだったが、市民の抗議デモが影響して6~7月に予定されていた大型上場を相次いで見送られ、8月のIPOはわずか1社に留まった。ジャック・マー氏が率いる中国ネット通販大手のアリババも、香港でのIPOを見送っている。

観光産業への影響も大きい。香港の観光当局によれば、8月の観光客数は前年同月比で約4割も減少した。エリアによっては宿泊施設の客室稼働率が大幅に低下し、宿泊料金が例年の半分以下になったホテルもある。日本でも香港旅行をキャンセルし、旅行先を変える人が増えている。

デモによって大型商業施設や街場の飲食店も深刻な影響を受けており、閉店を余儀なくされるケースもある。公共交通機関が使えなくなると来店客数は確実に減るため、マイナスの影響は計り知れない。このように、抗議デモは香港経済の土台を徐々に脆くしているのだ。

疲弊する市民、「対話」での解決を支持する人も

このような影響もあり、デモの長期化を支持しない香港市民もいる。香港の行政長官は市民との対話集会を開始すること発表しているが、このような対話による解決を目指すべきだと考える市民も少なくない。

しかし、抗議デモで掲げられている警察暴力への調査や民主的選挙の実施などの要求に対し、政府が妥協点を見つけることができなければ、デモの常態化や激化も考えられる。

日本にとっても、対岸の火事と静観できる状況ではない。日系企業が香港で展開している拠点は2016年時点で1,376拠点に上り、同年はアメリカを抜いて最も多かった。デモの長期化は、現地での営業活動に少なからず影響を与えているようだ。

香港株の乱調が世界の株式市場に与える影響も見過ごせない。香港証券取引所の株価は今年8月に入ってから3,000円程度値下がりし、低迷している。9月に入ってIPOも再開しつつあるが、デモが長期化している以上、香港経済が予断を許さない状況にあることは間違いない。

香港政府と市民との対話、その行方は

逃亡犯条例の改正案提出に始まった香港市民による抗議デモは、政府がそれを発表しても収まらなかった。これまでの香港政府の舵取りに対する不満が今回のデモで一気に噴出したかたちになっており、デモ長期化の懸念が高まっている。

国際社会が注目しているのは、香港政府と市民との対話だ。その行方によって、香港経済が正常に戻るかどうかが決まるかもしれない。香港から目が離せない状況が続く。

文・MONEY TIMES編集部/MONEY TIMES

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