シンカー:2019年度の政府の一般会計予算は99.4兆円と歳出は過去最大で、そのうち31.9兆円が国債の発行でまかなわれている。歳出のどれだけを借金でまかなっているかを示す国債依存率は32.1%である。米国の2019年の22.0%と比べると、日本の財政は国債発行にかなり依存し、とても悪いように見える。しかし、日本の独特の国債の「60年償還ルール」がなく、社会保障の扱いをを調整すると、国債依存率は11.1%に下がる。日本の予算を米国の予算に準ずる形にし、りんごとりんご(基準が同じもの)をしっかり比較すると、米国より財政は健全であるように見える。予算の計上の仕方や項目の違いを無視して、りんごとみかん(基準が違うもの)を単純に比較してしまい、日本の財政状況が米国より極端に悪いという誤解を与えてしまうこは適切ではない。60年を超える国債の発行の議論を困難にしてしまうことを含め、「60年償還ルール」は財政議論を歪め、財政政策が硬直化する問題となっており、廃止すべきではなかろうか。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2019年度の政府の一般会計予算は99.4兆円と歳出は過去最大となり、その内31.9兆円が国債の発行でまかなわれている。

歳出のどれだけを借金でまかなっているかを示す国債依存率は日本は32.1%である。

米国の2019年の連邦予算の22.0%と比べると、日本の財政は国債発行にかなり依存し、とても悪いように見える。

しかし、各国の予算の計上の仕方や項目が違うため、この国債依存率を単純に比べることは、りんごとりんご(基準が同じもの)の比較になっていない。

りんごとみかん(基準が違うもの)を比較しているようなものであり、財政の議論としてはほとんど意味をなさない。

日本の予算を米国の予算に順ずる形してみると、日本の国債依存率は、実はそれほど高くないことがわかる。

日本は「60年償還ルール」により国債を完全に償還する必要があり、毎年の予算に、国債の利払費だけではなく、償還費も計上している。

しかし、他国では、償還の期限を定めるルールがないため、国債は継続的に借換されるため、予算に償還費は含まれず、利払費だけ含まれる。

国債償還費(14.7兆円)を差し引くと、歳出総額及び国債の発行額は84.8兆円と17.2兆円となり、国債依存率は32.1%から20.3%に下がり、米国より低くなる。

更に、日本は一般会計とは別に社会保障の特別会計があり、社会保障の保険料などは一般会計の歳入に含まれず特別会計で別に処理されている。

しかし他国では、社会保険料及び保険給付金は政府の一般会計に直接計上されている。

日本の特別会計に計上されている社会保険料などの70.2兆円(2018年度予算ベース)を一般会計に含むと、会計総額は155.0兆円となる。

保険料などの納付されたものが給付費(年金や健康保険費用など)としてそのまま支払われているとする。

その結果、分母(予算総額)が大きくなることにより、日本の国債依存率は11.1%まで下がり、米国を大幅に下回る。

りんごとりんご(基準が同じもの)をしっかり比較すると、米国より財政は健全であるように見える。

予算の計上の仕方や項目の違いを無視して、りんごとみかんを単純に比較してしまい、日本の財政状況が米国より極端に悪いという誤解を与えてしまうこは適切ではない。

60年を超える期間の国債の発行の議論を困難にしてしまうことを含め、「60年償還ルール」は財政議論を歪め、財政政策が硬直化する問題となっており、廃止すべきではなかろうか。

図)日本の国債依存度

日本の国債依存度
(画像=財務省、SG)

図)日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整)

日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整)
(画像=財務省、SG)

図)米国の国債依存度

米国の国債依存度
(画像=OMB、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司