(本記事は、西田 健氏の著書『コイツらのゼニ儲け アコギで、エグくて、ときどき怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

(画像=PIXTA)

ポケモンGO【ナイアンティック】

お金で買えない価値がある。個人情報取得ビジネス

【一言コメント】
ブームは去っても安定した人気を誇っているようで、今でも公園やお店の前でポケモンをゲットしようとしている人をよく見かけます。とくに高齢者が多いんですよね。彼らは日本の資産家階層ですから、彼らの行動パターンを得ることは、文字通り「宝の山」となります。「損して得取れ」というビジネスの基本をよく押さえているんですよ。

ナイアンティック(ポケモンGO)
【沿革】
ポケットモンスターは1996年、任天堂から発売されたゲームソフト。全世界で大ヒット、アニメや関連グッズなど世界で四兆円を売り上げた。「ポケモンGO」は7月6日、豪州とアメリカで先行リリース。アメリカでは瞬く間に6000万人がユーザーになるなど、世界的な大ブームを巻き起こした。8月中旬時点でユーザーは1億3000万人。

【特徴】
ゲームを運営するナイアンティックは、グーグルの社内ベンチャーとしてスタート、ARゲームである「イングレス」を運営。その成功で2015年8月、グーグル・任天堂・版権管理会社のポケモンが3社共同で3000万ドルの出資を受け、グーグルから独立した。ポケモンGOは、このイングレスを母胎に設計したことで短期間で質のいいゲームに仕上がった。

【金儲け】
課金による収益は1億3000万人のユーザーによって2億ドル(200億円)。しかし、時間制限もなく全世界1億人がプレイするサーバーコストは、「数百億円」以上といわれており、サーバーコスト、メンテナンスなどはグーグル本体が格安で請け負っているという。その見返りにグーグルは、ゲーム内に蓄積された各ユーザーの行動データを活用、ダイレクトマーケティングに利用するのでは、といわれている。ロシア・中国では「アメリカのスパイソフト」として導入を禁じている。

ポケモンGOは「儲けた」のか?

まったくどれだけ稼いだんだ? そんなゲスな勘ぐりをしたくなるのが、もちろん、世界的な大ブームを巻き起こしている「ポケモンGO」のことです。

1996年に発売以来、全世界で4兆円を荒稼ぎした大人気ソフトが満を持してのスマホ用アプリになったのです。2016年7月6日、アメリカと豪州で先行リリースされるや、社会現象といえる人気を獲得、7月22日には、ついに本家日本でもリリース。夏休みも重なって大騒ぎになったのも記憶に新しいでしょう。

これほどヒットした背景には「AR」(拡張現実)と呼ばれる最新技術の導入があります。もともとポケモンは「昆虫採集」をコンセプトにしたゲームソフトです。それがAR技術によって自分の住んでいる街でポケモンに出会ったり、ゲットできたりするんですから、そりゃあ、大人も子供も夢中になるのも当然です。

どれほどヒットしたのかといいますと「最初の1カ月」という条件で「最も売り上げた」「最もダウンロードされた」「ダウンロードチャートで1位になった国別総数」「売上高チャートで1位になった国別総数」「売上高1億ドルに最も早く到達した」という五つのギネスを更新したほど。8月半ば時点で売上高は約2億ドル、ダウンロード数は日本の人口に匹敵する1億3000万件。すでに70カ国でチャート1位を記録、実に55カ国で売上高ナンバーワン! こう書いていくと、どんだけ大成功しているんだ、と思えますけど、読者の皆さん、騙されてはいけませんよ。実はゼニ儲けの面では完全な「大失敗」。このままでは赤字になるんじゃないか、そう危惧する声が出てくるほどなのです。

噓じゃないですよ。その証拠に、リリース以来、世界的な大ブームを起こしながら、二番煎じ、二匹目のドジョウを狙ってライバル企業が参入する様子がまったくないでしょ。先に紹介したARは2012年に完成した技術で、類似ゲームは結構、存在しています。キャラでいえば世界的人気を誇っているのは何もポケモンだけではありません。「ドラゴンクエスト」や、日本国内なら「妖怪ウォッチ」だってあります。ディズニーのキャラなら十分、世界展開できるでしょう。

じゃあ、どうしてやらないのか……。

そうなのです。ポケモンGOがあまりにもゼニ儲けに失敗したために参入したくてもできなくなっているのです。

「GO」に溢れる違和感

どのくらい稼ぎが「しょぼかった」のか。売上2億ドル、日本円で200億円といってもですね、この手のスマホ用ソーシャルゲームで最も成功した「パズドラ」(パズル&ドラゴンズ)なんて日本国内だけで月200億円を軽く叩き出してきたんですよ(ダウンロード数4000万件)。パズドラはピーク時には年間2000億円の売り上げがあったわけで、そのくらい、当たればデカいんです。

どうして全世界1億人のポケモンGOの売上がパズドラよりしょぼいのかといいますと、課金システムが実に良心的でして、普通にプレイする分には課金アイテムを買う必要がありません。調査によりますと9割のユーザーはお金を一切、使っていないそうです。元が無料アプリ。「ソフトの購入代金」のつもりで課金する人がそれなりにいまして、それでリリース直後はドカンと売り上げが伸びただけ。実際ですね、〝ゲーム廃人〟と呼ばれるマニアが毎日10時間プレイして、金に糸目を付けずに使って「月30万円いかなかった」という報告もあるぐらいです。課金したくても課金させないようになっているんですよ。

先のパズドラなど日本のソーシャルゲームの場合、月に100万円から500万円という「廃課金」、廃人になるほど金を使うユーザーが1000人単位でいます(だから儲かるわけです)。ポケモンGOの熱狂的ファンにはホリエモンや、今回(2016年)のリオ五輪でサッカーのナイジェリア代表にポンと4000万円を寄付した高須克弥(高須クリニック)がいますし、世界レベルでいえばIT長者やアラブの石油王もやっているんですから、日本式のえげつない課金制度を採用していれば、間違いなく世界のセレブたちが月に億単位で突っ込んで、とてつもない売り上げを記録したことでしょう。

任天堂にすれば、子供向けソフトで、そんな稼ぎ方をしたくなかったのかもしれません。それでも解せないのは、キャラクタービジネスも仕掛けてないこと。

この手のゲームソフトは、直接の売り上げだけでなく、キャラクター関連商品も重要な稼ぎ頭になります。ところがポケモンGOは、初代ソフト(1996年)のポケモンだけで「GO」オリジナルのポケモンが存在していません。だからポケモンGOではキャラクター関連ビジネスができないんですね。これもおかしな話でして、これまでポケモンは新作ソフトを出すたびに、ちゃんと新しいキャラを入れてきました。それがポケモンGOだけやっていないんです。

今後、リリースしていくのは中進国ばかりですし、既存ユーザーの課金もこれ以上は期待できず、関連ビジネスも展開できないとなれば、年間レベルで、せいぜい4億ドルとか5億ドルというのも頷けます。ソーシャルゲームで年間400億円レベルの売り上げですと間違いなく赤字ですよ。事実、パズドラでも年間2000億の売り上げで純利益は100億円程度なのです。

ソーシャルゲームは、今までのゲームソフトと違って売りっぱなしではありません。たくさんのユーザーが利用できるサーバーを用意して、定期的にメンテナンスも必要となります。このコストが、案外、バカにならないのです。サーバー代でいいますと「2ちゃんねる」の年間サーバー使用料は5000万円(西村博之氏の発言)。2ちゃんねるはデータの少ないテキストだけですが、ゲームの場合、高品質の画像データをやりとりするので一般的なソーシャルゲームだと数十億円、1000万人レベルのユーザーが利用するゲームだと年100億円かかるといわれています。

その視点でポケモンGOを見れば、とんでもないことがわかるでしょう。ポケモンGOはARを使ってGPSの位置情報とグーグルの地図情報をリンクさせています。サーバーの負担は従来のゲームの比じゃないほど大きいのです。それが世界規模で1億人のユーザーが利用しているんですから、サーバーコストが数百億円かかっていても不思議ではありません。実際、ポケモンGOはテレビCMなど宣伝をまったくしないでしょ。あれはユーザーが下手に増えると赤字になるからでして、ビジネスとして見ていくと、ポケモンGOは何から何までまったく変、常識外なのです。

となれば当然、別の目的があるはず。ここをきちんと押さえなければポケモンGOのゼニ儲けには迫れないのです。

儲けるのは「ゼニ」とは限らない

さて、ポケモンGOをゲームビジネスとして成立させるのは、さほど難しくありません。1000円程度の「月額契約」にして課金アイテムと専用キャラクターを充実させればいいのです。元が人気ソフトですから全世界で軽く2000万人は集まるはず、これで年間売上3000億円。ね、ちゃんと商売になるんです。

どうして、このスタイルにしなかったのか? ここが実に怪しいんですよ。

現状、ポケモンGOは、世界的人気キャラを使った非常に良くできた最新型ARゲームでありながら「無料」で好きなだけ遊べるようにしています。これはライバル潰しだけが目的ではないでしょう。

ポケモンGOが独占しているのは、「お出かけアプリ」市場なのです。

外に出てポケモンをゲットする内容なので、当たり前ですが、遊ぶのは家ではなく、外となります。最初こそポケモンを探してアッチコッチに出かけた人も、自然と通勤通学など日常生活で「出かける」ときにアプリを起動させて楽しむようになります。

ポケモンGOは地図情報と位置情報をリンクさせた、一種のナビゲーション(道案内ソフト)です。毎日の通勤通学、そして休日の外出時に使っていますと、数カ月もすれば、そのユーザーの活動範囲、行動がゲーム内に完璧に残ることになります。

ちなみにポケモンGOにログインするにはグーグルのアカウントを取るのが手っ取り早いです。アカウントを取る際には、基本的な個人情報を提示することになります。

もうおわかりでしょう。氏名・年齢・職業・家族構成・住んでいる場所、そこからの行動範囲と活動場所が、ポケモンGOを通じて「自動的にデータ化」されている、というか、自動的にデータとして管理するのが「ポケモンGO」の本質なんですよ。

ネット社会となった現在、企業の宣伝活動はマスメディアから個人を対象とした「ダイレクトマーケティング」へと移行しています。これまでのライフログ(生活情報)はネットの利用歴から集めていましたが(有名なのはAmazonですね)、ポケモンGOは、その個人の活動状況をデータにできるようにしたのです。しかもわざわざ集めなくとも勝手にゲームをダウンロードして、自分自身で、いつ、どこに行ったのか、毎日、どんな行動をしているのか、せっせとサーバーにデータを送ってくれるのです。それが全世界で一億人分。そりゃあゲーム自体が少々、赤字になろうと元は十分、取れるでしょうよ。

ポケモンGOの運営会社である「ナイアンティック」は、グーグルの子会社です。グーグルの世界戦略のために「ポケモンGO」を運営しているんですから、ゲーム自体で儲ける必要はないわけです。

それだけではありません。ポケモンGOの契約書には「ゲームのデータはアメリカ政府機関が閲覧、利用できる」とはっきりと明記してあります。つまり全世界1億人のユーザーの活動記録を米政府はいくらでも利用できるわけで、ロシア・中国・イスラム諸国がポケモンGOの利用を禁じているのは、そのためというのがもっぱらです。

ポケモンGOはプライスレス。代金は「個人情報」なんですから、お金で買えない価値がある……とグーグルは思っているのでしょうな(2016年10月号)

西田 健(にしだ けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

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