(本記事は、西田 健氏の著書『コイツらのゼニ儲け アコギで、エグくて、ときどき怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

キャッシュレス決済
(画像=PIXTA)

孫 正義【ソフトバンク会長兼社長】

平成の巨星、令和でついに堕ちるか

【一言コメント】
2019年10月にもソフトバンクの投資の失敗が浮き彫りになりました。それが「ウィーワーク」でして、5兆円の価値があると評価して1.1兆円も突っ込んだあげく、内情はボロボロ。大損するのが確定したって話ですね。このウィーワークはオフィスをシェアする会社ですが、重要な会議や資料を管理するオフィスを他社と共有するはずはなく、どうして、ここに金を突っ込んだのか、投資詐欺かマネロンでもしていたのか、と噂になっております。

ソフトバンクグループ
【沿革】
1981年、日本ソフトバンクを設立。PCソフト卸業のベンチャー企業からIT企業へと躍進。1994年に上場、その上場益を使い、アメリカのITベンチャーを買いあさることで莫大な収益をあげた。2003年ブロードバンド事業、06年には英系携帯電話会社だったボーダフォン日本法人を1兆7500億円で買収。04年、福岡ダイエーホークスも手に入れた。

【特徴】
会社を買うプロと自称するよう企業投資では「日本一」の目利きを発揮してきた。ダボハゼのごとく買収するために有利子負債は膨らむ一方、18年度には18 兆円に達しており、今回の再上場は「借金圧縮」が目的だった。市場から調達した2兆5000億円も焼け石に水の「日本一の借金王」でもある。

【金儲け】
日本より技術の先行したアメリカのITベンチャーを買収して日本でサービスを行う「タイムマシン商法」と、株価の時価総額で投資マネーを生み出す手法で売り上げ9兆円規模の巨大企業グループを築いた。1996年にはアメリカのヤフーを買収、2000年には破綻した日本債券信用銀行(あおぞら銀行)を買収、豊富な資金力でIT企業を次々と傘下に収めてきた。また中国最大手の通販サイトとなったアリババにも出資、5兆円の収益をあげた。2019年11月、9月までの中間決算で155億円の赤字を公表した。

地獄のカウントダウン

孫子の兵法破れたり、といったところでしょうか。

冗談抜きで「倒産するのでは」と危ぶまれているソフトバンクのことでございます。

ソフトバンクは作年(2018年)12月19日、東証一部に再上場したわけですが、周知の通り、公開価格の1500円を15%も下回るほどの大失敗に終わりました。

当然でしょう。なにせ、上場に向けて次々と悪条件が出揃い、「地獄のカウントダウン」と揶揄されたほどでしたからねえ。

まずは12月5日、中国・ファーウェイのCEOがカナダで逮捕されましたが、ソフトバンクはこのファーウェイと組んで新型の格安スマホやモバイルルーターを売る予定だったのです。しかも次世代の通信システム「5G」の基地局もすべてファーウェイで揃えると公表までしていました。それが、この逮捕劇によって、すべておじゃん。トランプ米大統領は「アメリカの公的施設からファーウェイは締め出す」と発表しており、これに「アメポチ」安倍政権も即座に追従、ファーウェイにのめり込んでいたソフトバンクは経営戦略の見直しと莫大な切り替え費用がかかることになっちゃったわけです。

で、泣きっ面にハチのごとく、この逮捕の翌日となる12月6日には大規模通信障害。ソフトバンクだけが通話できない状態に利用者はぶち切れ、とくに法人契約をしていた各企業は、いっせいに他社へと乗り換え、わずか数日で1万件の解約を出す始末です。

ソフトバンクは投資家たちが上場株に飛びつくような好材料として、子会社の電子決済サービス「PayPay」をアピールしてきました。PayPayは昨年6月に設立したソフトバンクとヤフージャパンの子会社。QRコードやバーコードでモバイル決済できるサービスを10月から開始して、ソフトバンク株をアピールしようとしたわけですね。そのために総額100億円のキャッシュバックキャンペーンまで展開していたほどです。

ところが、このPayPay、クレジットカードの番号を適当に入力し続ければ、他人のクレカ番号に該当した場合、そのまま悪用できるという究極のザル仕様。重大な個人情報の一つであるクレカ番号がダダ漏れという信じられないお粗末さを発揮します。実際、キャンペーンでは5万円分で20%還元、つまり1万円分をキャッシュバックしていたんですが、不正利用したクレカで決済、即座にキャンセルすることで不正利用を隠蔽したうえでキャッシュバック分を入手する手口が横行、準備した100億円をわずか十日で横取りされちゃうという……。

孫正義は何をしでかしたのか

まだまだ終わりませんよ、もっと酷い話が山盛りなんです。

ソフトバンクは、サウジアラビアと組んで「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」という10兆円規模のファンドを2017年5月に設立、次世代の5Gインフラで世界トップランナーになろうと画策してきました。先のファーウェイと組んだのもそのためです。

なんと言ってもオイルマネー10兆円の「打ち出の小槌」を手に入れたわけですから、「さすがは孫正義」と当時は大絶賛されたものでした。

はい、こちらもきっちりオチがつきます。

昨年(2018年)10月、サウジアラビアの反政府系ジャーナリストだったジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジアラビア領事館で行方不明になる事件がありましたが、ソフトバンク上場を目前とした12月3日、それが「暗殺」であり、しかもサウジアラビアの皇太子が関与していたことをCNNが特大スクープします。で、このサウジ皇太子が先の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の金主でございまして、当然のごとく、ファンドは事実上凍結と相成ります。

ついでに申し上げれば、昨年5月にも悪条件が出ていたんですよ。ソフトバンクはユーザー確保のキラーコンテンツとして「スポナビライブ」を2016年からスタートさせました。月額500円(後に税込み1000円)で、プロ野球なら巨人と広島のホームゲーム以外、全10球団の試合が見放題というサービスを開始したんですね。

実はソフトバンク、当初はJリーグの放映権も買う予定で、スマホ視聴型スポーツ観戦のトップランナーを狙っていたんですよ。ところがJリーグの放映権は、NTTと組んだイギリスのDAZN(ダ ・ゾーン)に倍プッシュでかっさらわれます。結果、スポナビと契約していたプロ野球球団も各個撃破されていき、最終的には18年5月、スポナビライブ自体をDAZNに売却します。

Jリーグ全試合と巨人を除くプロ野球の大半の試合を、ドコモユーザーなら月980円で見放題になったんですから、当然、スポーツファンはドコモ一択となって二度とソフバンには戻ることはないでしょう。しかも、その数は100万人ですよ。

いやあ、凄いでしょ。これでもソフバン株を買った人がいたんですから逆に驚くぐらいです。

ともあれ、アメリカ・カナダ・中国・サウジアラビア・イギリスが連動した「ソフトバンク潰し」。国際的な謀略の匂いさえ漂ってくるほどでして、いったい、孫正義は何をしでかしたのか、問いただしたくなってきます。

「平成」のIT経営者

なぜ、ソフトバンク潰しが行われたのか?

その答えの一つとして、孫正義とソフトバンクが「平成」を象徴する経営者であり、企業だったから、と思うのですよ。

ソフトバンクの創業は1981年ですが、「昭和時代」の孫とソフトバンクは、PC関連の卸業を細々と営むベンチャーの一つ。当時のコンピュータ業界でいえば、マイクロソフトと組んでいたアスキーの西和彦のほうがはるかに有名人でしたし、影響力を持っていました。西和彦に比べれば、象とアリンコみたいなもんだったのです。

それが「平成」の世になって、孫正義は「象」へと成長します。バブル崩壊のなか、孫正義率いるソフトバンクは、いち早くIT化の波に乗っただけでなく、グローバル化にも見事に対応していきます。簡単に言えば積極的な投資と多角化ですね。

考えてみれば昭和時代の日本企業最大の特徴は「自主開発」でしょう。終身雇用した社員にコツコツと研究開発をさせて高い技術力で売り上げを伸ばす。これがメイド・イン・ジャパンですね。

ところが孫正義は、技術は開発するものではなく「買い取るモノ」と割り切ります。技術を売ってくれないなら会社ごと買い取ればいいという方針と言い換えてもいいでしょう。IT産業は世界同時多発的に新技術が登場しますから、この経営戦略は別段、間違いではありません。事実、IT企業の経営者に求められるのは、経営方針よりも「投資のセンス」。金になりそうな会社を買い、赤字部門はとっとと売り払うことですから。

この点で孫正義は飛び抜けて優秀でした。だからこそグローバル化が加速した平成時代に大躍進できたのです。一方、三洋電機、シャープのみならずNECや東芝もすでに破綻寸前ですが、昭和時代、高い技術力で世界を席巻してきた企業の多くが没落していきました。いわば「昭和時代」の日本企業を食い物にして急成長したのが、孫正義率いるソフトバンクであったのです。

平成的グローバリズムの限界

1989年に始まった平成の時代は、まさにグローバル化が極限まで進んだ時代だったといえるでしょう。

その平成の終焉とともに、行き過ぎたグローバル化に対する揺り戻しの時代が到来してきました。

その代表が「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ大統領でしょう。先のファーウェイ排除に代表される「中国製品」の締め出しにせよ、トランプにすれば中国で作る米企業アップルの「iPhone」だって排除の対象なんですよ。逆にファーウェイがアメリカで現地生産すれば、即座に制裁を解除して採用するはずです。

トランプ大統領は、アメリカで売る商品はアメリカで作れという「地産地消」を求めているだけなんですよ。あらゆる国から最も安い材料や部品をかき集め、人件費やコストが最も安い国で作って、最も高く売れる国で販売する。そんな平成的なグローバリズムは「もう限界だ」と言ってるんですね。

この行き過ぎたグローバリズムへの反発、揺り戻しは、トランプに限らずとも世界的な傾向となっていくはずです。その証拠に、2018年末から始まったTPPにせよ、域内で売るモノは域内で作りましょうという貿易協定ですしね。

結局、グローバリズムが極限まで進んでいけば、巨大資本の巨大企業が巨大市場を独占するだけのこと。金さえあれば、技術だろうが、会社だろうが、何でも買えて、会社を商品のように売り買いして金儲けするのは果たして「正しい」のか……。少し見直して見ようというのが、今の時代のトレンドになりつつあるんですね。

その意味で平成に始まった「グローバリズム」の権化であった孫正義のソフトバンクが経営危機に陥っているのは、決して偶然ではありません。

平成が終わり、新しい元号を迎える日本では、孫正義的な経営方針やソフトバンク的な巨大投資グループは、もはや「時代遅れ」、そういえるかもしれません。

孫正義といえば、トレードマークの頭髪を「額が後退しているのではない、私が前進しているのだ」という名言によって、薄毛に悩む人たちから絶賛されたものでした。その言葉を借りれば「孫正義が後退したのではなく、時代がそれ以上に前進した」のです。

置いてけぼりになったのは「髪の毛」ではなく「経営センス」だったようですね。(2019年4月号)

イツらのゼニ儲け
西田 健(にしだ けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

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