(本記事は、西田 健氏の著書『コイツらのゼニ儲け アコギで、エグくて、ときどき怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

コンビニエンスストア,セブンイレブン
(画像=PIXTA)

鈴木敏文【セブン・イレブン創業者】

究極の効率化の果てに人間味すらなくなった巨大チェーン

【一言コメント】
この原稿を書いた直後の2019年7月、例の「7pay」騒動が巻き起こりました。あれも酷かったですよねえ。究極のザル仕様のくせに、「7payが天下を取る」とか豪語しちゃって。セブンイレブンの本部は、相当、腐っていると思いますね。何もかもやり過ぎなうえに、やるべきことをやらない。「お値打ち価格で新登場」しては失敗を繰り返すのもそのためでしょう。

セブン-イレブン・ジャパン
【沿革】
1974年、イトーヨーカドーの取締役に就任した鈴木敏文がアメリカ「サウスランド社」と提携、第1号店をオープン。翌年から24時間営業となり、すぐさま100店舗達成。91年にはアメリカ本社を買い取り、18年には国内2万店舗というコンビニ界のトップとなった。「コンビニの父」鈴木敏文は、2005年にイトーヨーカドーと合併したセブン&ホールディングスの初代社長(CEO)に就任している。

【特徴】
コンビニは「社会インフラ」という方針を打ち出し、コピー機を皮切りにセブン銀行のATMやチケット発券機、12年にはWi-Fi、各種公共料金の支払いもできるようになった。日本式コンビニの雄として、17年時点で16カ国4万店規模に達している。

【金儲け】
少子高齢化をビジネスチャンスにすべく、商品の発送サービスだけでなく、一人暮らしの老人をターゲットにした商品を多数、開発してきた。07年に導入した電子マネー「nanaco」も12年にはシニア向けのサービスを開始している。電子カードから得た「ビッグデータ」をベースにして生活習慣を把握、個別サービスの展開を狙っている。イトーヨーカドー、吸収合併した「そごう」を含めた総売上は5兆8000億円(17年度)。18年の世界小売りランキングはイオン(12位)に次ぐ20位だった。

なぜ今「24時間営業」なのか

朝ナマ風にいえば「是か非か!?コンビニの24時間営業」といったところでしょうか。

2019年2月下旬、大阪のセブンイレブンで人手不足から24時間営業を取りやめていた店舗が本部と対立、契約解除と1700万円の支払いを要求された件がニュースになりました。

昨年(2018)2月にも豪雪に遭った福井で24時間営業の停止を求めたオーナーに対し、逆に50時間の不眠不休労働を強いるというムチャをやらかしていますからね。災害のたびに、当のオーナーも被害者だというのに強引に店舗を開けさせてきた数々の実績は、「ブラック企業大賞」(2015年度)として評価されているわけでして、世間がセブンイレブンへの批判を強めるのも残念ながら当然でしょう。

結果、セブン-イレブン・ジャパンでは、3月から直営店10店舗で短縮営業の実証実験をはじめましたが、もちろん、24時間営業をやめる気などサラサラないのはいうまでもありません。

とはいえ、今になって、どうして「24時間営業」の是非が問われるようになったのでしょうか。これまでセブンイレブンの問題といえば、「廃棄ロスした商品にも売り上げ計上させてロイヤリティを要求する」とか「見切り商品として安売りをした店舗を損害賠償請求する」といった強欲さであって、意外なことに24時間営業で揉めたことはありませんでした。むしろ、メリットが多いとオーナー側も評価してきたぐらいです。それが突如として一斉にオーナーサイドが文句を言い出したところに今回の騒動のポイントがあるのですよ。

確かにセブンイレブンは、その名の通り、朝7時から夜11時までの営業を意味しますが、もともとは戦前の1927年、深夜営業を始めたアメリカの氷屋さん(サウスランド・アイス)がルーツです。夏場、氷を買い忘れると食材が傷みます。それで長時間営業はありがたく、氷を買うついでに雑貨も買うようになってコンビニが生まれるわけですね。

アメリカの場合、買い物はデッカい車で週末、ウォルマートでまとめ買いするのが基本です。コンビニは、大規模店舗に行くほどじゃないときとか、車を持っていない貧困層が対象でして、映画などで強盗シーンの定番場所なのは、そのためです。

そんな貧困層向けのコンビニが「日本でいけるぞ!」と目を付けたのが、イトーヨーカドーで取締役になった、当時40歳の若き鈴木敏文でした。提携契約を結んで1974年に日本に持ち込み、翌年には24時間営業を開始します。これはアメリカが始めてからまだ3年のこと。鈴木敏文が、最初から「24時間営業」をしたくてコンビニを導入したことがわかります。いったい、何を狙っていたのでしょうか。

客の利便性よりコスト

24時間営業の最大のメリットは、実は、そう難しい話ではありません。

物流コストが激安になる。これだけなんですよ。

コンビニが登場した1970年代半ばといえば、戦後の発展でモータリゼーションが普及した、いわゆる「交通戦争」が始まった時期に一致します。物流が鉄道から道路に切り替わった時代なんですね。トラックは大型になればなるほど、ストップ&ゴーでバカみたいに燃料を食います。渋滞ばかりの日中に走ると、とんでもない燃料費になっちゃうんですね。エンジンを傷めますし、排ガスだってバカスカ出ます。

なので渋滞のない夜間に走れば燃料費の節約だけでなく、輸送時間だって大幅に短縮します。昼間と夜間では、ぶっちゃけ、輸送コストは半額になるほどでして、ドライバーに深夜手当を弾んでも十分、利益が出るのです。こうして運送会社は夜間輸送を拡大するわけですが、そこに相乗りするのが、生まれたばかりのコンビニなのです。

実際、深夜輸送とコンビニは非常に相性がいいんです。たとえば日中営業のスーパーマーケットの場合、夜間の仕入れは難しいんですよ。莫大な商品の搬入と検品には複数の店員が必要で、コストに見合わなくなってしまうんですね。

ところがコンビニは小さい店舗でしょ。搬入と検品は一人でも出来ます。あとは清掃や棚卸しをして、ついでに店を開けておくというのが24時間営業なんです。運送会社にすれば、全国からの物流は夜に動かしていますから、店舗向けの発送も夜間に出来るのは願ったり叶ったり。

輸送費の大幅値下げにも応じてきます。昼間、弁当や生鮮食品を小まめに配送できるのもメインの配送が夜間に行えるからでして、トータルで見れば日中一括配送とさほど変わりません。結果、日に3度、作りたてのお弁当を並べることで既存の小売りと差別化していき、多大な成功を収めていくんですね。

その深夜帯営業ですが、それで「人手不足」になることはありません。考えてみてください。究極の人手不足、売り手市場と呼ばれたバブル時代にだってコンビニの店員が集まらないなんて話はなかったでしょ。

都心なら大学生がいくらでもバイトしてくれますし、地方の農村地帯でも日中は主婦が簡単に集まります。仕事がないから都会に出て行くのであって、セブンイレブンで就職できるなら戻ってくる人も多く、オーナーと雇った店長で切り盛りしている店が大半です。24時間営業を理由に人手不足になることはないんですよ。

つまり、今の人手不足というのは「24時間営業」それ自体ではなく、別のファクターが原因になっていることが理解できるでしょう。それが「行き過ぎた効率主義」なんですよ。

「効率化」の行き着く先に

コンビニのビジネスモデルは、先に述べた深夜帯の仕入れだけでなく、もう一つの柱が「POSシステム」による最適化でした。分かりやすく言えば、売れ筋商品を効率よく品揃えするというものです。小さい店舗ですからね。売れない商品がスペースを取ると瞬く間に売り上げが落ちていきます。そこでレジスターにPOSを導入し、本部で売れた商品を把握できるようにして、売れない商品を外すというシステムを作り上げます。

トヨタが提唱した「かんばん方式」を流通業に取り入れたわけですね。別名「ジャスト・イン・タイム」というように、「必要なとき、必要なだけ、必要な数」を用意する。小売りにとって在庫は「赤字」ですから、限りなくゼロにして儲けを叩き出すんですね。

ところが21世紀になって、世の中がIT化するや、この「ジャスト・イン・タイム」が暴走することになります。簡単に言えば、その気になれば、どこまでも「効率化」が可能になってしまったんですよ。

IT化とネットワーク化で、本部にはリアルタイムで各トラックの輸送状態と各店舗内の商品構成といった情報が集まります。それを駆使すれば、たとえば学校の近くの店舗では放課後に学生が好む商品をずらりと並べ、夕方には住宅地の主婦を狙い撃ち、夜にかけては一人暮らしをターゲットにするといった案配で、店舗特性に合わせた商品構成を行なえます。

まさにジャスト・イン・タイムの究極です。1990年代に比べて、ハンドルでいえば「遊び」が、まったくなくなっていくのです。しかも客の動向に合わせてピッタリと人員(バイト)を配置して商品を並べろ、できなければ「機会ロス」として店舗側にペナルティにするぞという方針を本部が打ち出してきます。

これに応じるには、当然、バイトを徹底管理しなければなりません。結果、何が起こったかといいますと、店側の都合でバイトシフトを組まないと店を回せない状況まで効率化が進んでしまい、急用や病気でもバイトを休めなくなっていくんですね。そりゃあ、バイトも逃げ出しますって。

昨今、都心部ではコンビニ従業員の多くが外国人になっているのは、24時間体制で働いてくれるのが外国人だけになったからです。すると、今までになかった苦労がオーナーに重くのし掛かってきます。日本語が不自由なことでバイトが客とトラブルを起こせば、すぐさまオーナーが出て行って謝り、外国人留学生が生活面で苦労していれば、あれこれと面倒を見てやり、国籍違いからバイト同士でケンカをすれば、 行って仲裁する。まさに「雨ニモマケズ」の世界ですよ。

もうね、でくの坊と呼ばれていいから、とにかく休ませてくれ。深夜枠だけでもいいので安心して眠りたいというオーナーの魂の叫びが、「24時間反対」という声なのです。

ですが、店舗内で流れてくるのはセブンイレブンのテーマソング「デイドリーム・ビリーバー」でございます。モンキースの1968年のヒット曲ですが、誰もが知っているサビの部分って「さあ、寝ぼけていないでシャキッとしろ、お客様が来ているぞ」っていう内容ですからね。それを繰り返し洗脳するがごとく流し続けているのが、セブン本部からのアンサーソング。

これで殺意が浮かばないオーナーがいるとすればガンジーなみの聖人でしょう……。

と、ここまで原稿を書いたところで筆者の郵便ポストに、なぜかセブンイレブンからお手紙が届いていました(ホント)。中身を見ますと、ガン検診のお薦め。このたびスイスのチューリッヒと組んだので「セブン保険」に入りませんかというお知らせです。この数年、セブンでの買い物は専用電子カードの「nanaco」を使っているので「あ、こいつ、酒タバコをよく買っているな、絶対、ガンになりそう」とでも思ったんでしょうねえ。

究極のジャスト・イン・タイムは、ここまで来ているのです。さすがにコンビニエンス(利便性)と思うよりも、余計なお世話と嫌な気分になっていきます。 24時間営業を拒絶しているオーナーも、きっと同じ気持ちなのでしょう。

なんかやり過ぎなんですよ、セブンイレブンは。(2019年5・6月合併号)

イツらのゼニ儲け
西田 健(にしだ けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

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