財産を保有している人が遺言書を残して亡くなった場合、財産を引き継ぐ人たちから「遺言書の内容に納得がいかない」「自分たちの納得のいく相続がしたい」などの不満が出ることがよくあります。このようなとき、遺産分割はどのように行ったらいいのでしょうか。
遺言書とは何か
遺言書とは、被相続人が生前に自身が亡くなった後の財産分与の方法について、意思を記したものです。「相続については被相続人の意思を反映させる」という民法の趣旨から、遺言書には強力な法的効力が与えられています。遺言書の内容は法定相続より優先されますし、仮に遺産分割協議が終了した後遺言書が発見された場合、原則として手続きを最初からやり直さなくてはなりません。
遺言書は相続において、以下の2つの効果があるとされています。
- 相続開始後の相続人たちの遺産分割争いを防ぐ
- 法定相続人以外に対しても財産を遺贈できる
しかし現実には、遺言書があっても相続が常に円満解決するわけではありません。むしろ遺言書があることで、遺族たちが困るケースもあります。
遺言書の内容に相続人たちが不満を持つケースとは
被相続人が残した遺言書の内容について、相続人たちが不満を抱くのは主に以下のような場合です。
- 被相続人の事業用や不動産賃貸用の物件を「兄弟で仲良く共有にするように」と指示されたが、相続人たちは共有を避けたい
- 欲しくない居住用住宅や事業用住宅を遺言書で遺贈された
- 遺言の内容では自分の遺留分が確保されない
このような場合、遺言書のとおりに相続を実行することに、相続人たちは抵抗を覚えます。しかし、前述のとおり、遺言書の効力は相続人間の遺産分割協議より優先されます。本来は、相続人たちは遺言書に記載されたとおりに遺産分割を行わなくてはならないのです。
相続人たちは、自分たちの不満を押し殺してまで遺言書の内容に従わなくてはならないのでしょうか。
遺言書があっても自由に遺産分割ができるケース
実際には、遺言書があっても、相続人同士(包括遺贈による受贈者も含む)で遺産分割協議を行い、遺言書の内容に反した遺産分割が行われることがよくあります。民法では「相続人全員の合意があれば、被相続人が遺言書で指定した遺産の分割方法に反した遺産分割協議は有効に成立する」と定められているからです。
そのため、相続人同士(遺贈による受贈者も含む)がきちんと遺産分割協議を行い、分割方法について全員の合意が得られれば、遺言書の内容に従わなくても構わないのです。
遺言書が相続人の意思に優先されるケース
ただし、いかなるときでも「相続人全員の合意がありさえすれば、遺産分割協議が遺言書に優先する」というわけではありません。以下のような場合は、相続人間の合意があっても、遺言書が遺産分割協議に優先されます。
被相続人が遺言と異なる遺産分割を禁じている
遺言は被相続人の最後の意思表示であるため、相続人は遺言書を最大限尊重しなくてはなりません。そのため、遺言書で遺言と異なる遺産分割を禁じている場合、相続人は遺言書に従わなくてはなりません。
遺言執行者が選任されている
遺言によっては、遺言執行者が選任されている場合があります。遺言執行者とは、相続開始後、被相続人に代わって遺言の内容を責任持って実行する人のことです。遺言執行者は遺言を執行するために必要な対策を講じることができ、相続人は遺言の執行を妨げることはできません。遺言執行者が選任されている場合、相続人全員の合意があっても原則として遺言が優先されます。
ただし、遺産分割協議の結果について遺言執行者の同意が得られた場合は、協議の結果を優先させることができます。このとき、遺言執行者は遺言書の一言一句ではなく、遺言書全体の趣旨と遺産分割協議の内容が矛盾していないかどうかを確認します。
法定相続人でない第三者に遺贈が行われる
遺言書によって法定相続人でない第三者(受遺者)に対し遺贈が行われている場合も、遺言書が優先されます。遺産分割協議は、あくまでも相続人たちの話し合いの場に過ぎません。(遺贈による受遺者も遺産分割協議に参加する権利を有します。)ただしこの場合も、受遺者の同意があれば、遺産分割協議による遺産分割を行うことができます。
注意点
注意したいのが包括遺贈です。遺言書での財産分与の指示が具体的な財産ではなく財産の割合になっている場合、包括受遺者は相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に包括遺贈の放棄を申述する必要があります。この手続きがなければ、受遺者の同意が得られたことにはならず、遺言書に従わざるを得なくなります。
この他、分割協議や遺言の内容によっては、登記の手間やさらなる税金がかかることがあります。そのような場合は、専門家の手を借りるようにしましょう。(提供:相続MEMO)
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