「悪臭ゼロ」のトイレ

羽田空港国際線ターミナルのトイレに行ったことはありますか。

今度、使う機会があったら、ぜひ、どんなトイレかと意識してください。見た目の清潔さはもちろん、トイレ特有の悪臭すら漂っていないことに気づかされるはずです。

現に、ここのトイレは、2015年には内閣官房「日本トイレ大賞」の国道交通大臣賞、2017年には日本トイレ研究所「トイレひと大賞」(トイレ環境や排泄に関する社会問題に取り組む人物を表彰する賞)の準グランプリを受賞しています。

私は国内・海外出張も多く、羽田空港発の国内線・国際線もよく利用しますが、たしかに、羽田空港のトイレは、びっくりするくらいきれいです。いったいどんなおそうじをしているんだろうと観察していたら、これまたびっくりしました。

トイレそうじの方々は、便器のミゾにまで指を突っ込んで、念入りに拭いているのです。それも「奥まで届いているかどうか、指先の感覚でわかるように」と、あえて分厚い手袋ではなく、薄い手袋を使っています。

トイレのミゾなんて、もっとも汚れが溜まりやすく、できれば触りたくない部分です。でも、それゆえに悪臭の一番の発信源になっており、だからこそ、ミゾまで念入りにそうじすることで、悪臭すら漂わないトイレを作り上げているのです。

このトイレそうじの方々を支えているのは、いったい何でしょう。

それは、「お客様に清潔と快適を提供している」という「あり方」です。その「あり方」を貫くには、何をするべき? それをどれくらいするべき? という「やり方の基準」に対するひとつの答えが、ミゾにも指を突っ込んで念入りに拭くこと、というわけです。

おそうじの方々としては、ただ、自分たちの「あり方」に沿って行動しているに過ぎません。トップダウンで「そこまで拭け」と言われたからではなく、共有している「あり方」からすれば、「そうするのが当たり前」だから、一番汚いところにだって、薄い手袋だけをつけて指を突っ込むのです。

トイレ大賞やトイレひと大賞の受賞は、まさに、トイレそうじの方々の「あり方」と「やり方の基準」が評価された結果といえるでしょう。

一瞬の選択力
今井 千尋(いまい・ちひろ)
1975年神奈川県生まれ。立教大学卒。株式会社オリエンタルランドに入社。ゲストサービス、人財育成トレーニング業務に従事。ゲストサービス関連の受賞も多数。株式会社ユー・エス・ジェイに入社。トレーニングSVとして、各部署人財育成・開発を歴任。その後、コミュニケーションエナジー(株)を経て、(株)ワンダーイマジニア設立。現場V字回復人財育成コンサルタントとして、中小~上場企業、各種団体、上海を中心に研修、講演、コンサルティングに従事。ディズニーランドの創始者であるウォルト・ディズニーの哲学「夢は願うものではなく、叶えるものなんだ」を自らの体験としてわかりやすく、感動と驚き、情熱をもって伝える、その独特の人財育成トレーニングメソッドは、熱烈なファンも日本全国・海外にも多い。著書に『ディズニー・USJで学んだ 現場を強くするリーダーの原理原則』(内外出版社)がある。
現 株式会社ワンダーイマジニア 代表取締役。

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