なぜ、あのブランドは世界で愛されるようになったのか?

ウォンツだけでなく、その裏側にあるニーズを探り当て、そこからさらにマジックを見出すと、ブランドは、世界で愛される一流ブランドになります。

「ウォンツ、ニーズ、マジック!」は仕事でもプライベートでも役立つ思考グセですが、ここでは、わかりやすい例として、いくつかのブランドを挙げておきたいと思います。マジックを起こすとはどういうことなのか、より理解を深めていただければ幸いです。

まず挙げたいのは、ある高級車ブランドです。そのブランドは、なぜ世界で愛される一流ブランドになったのでしょうか。

最先端のエンジニアリングと伝統的な匠の技の融合によって、プレミアムな車を創造する。そのために、このブランドが追い求めているものは、他に類を見ないほどの妥協を許さない姿勢です。

具体例を挙げれば、それは「圧倒的な馬力を実現したい、けれども、そうすると燃費が悪くなる」など、一見両立させることが難しい要素を「圧倒的な馬力にもかかわらず、燃費もいい」と、同時に叶えるために妥協せず、解決方法を探求する姿勢です。

では、こうした姿勢の原点となっているものは何でしょうか。

それこそが、あり方です。

このブランドのあり方とは、「買っていただいてからのお付き合いが、自分たちの商品」というもの。つまり車を売っておしまいではない、その後も続くお客様とのお付き合いが自分たちの商品だからこそ、買っていただいた後もずっとずっと満足していただけるように、妥協を許さない姿勢で車作りに向き合っているというわけです。

このあり方は、店舗での接客法にも表れています。日本の伝統作法を取り入れた独自の接客マナーで、頭の下げ方ひとつをとっても丁寧なだけではなく、お客様を緊張させないように配慮して行っていると聞きます。実際に店舗を訪れた人は、「車の修理で来ただけなのに高級ホテル並みの扱いを受けられた」と口をそろえるほどだそうです。

また、車を修理に出すと、後日、営業所の営業マンが納車に来てくれるのが一般的です。ただ、そこで営業マンが伝えるのは修理工場からの伝達であり、「できることなら……本当は、私の車を修理してくれたメカニックのその人から、直に聞きたい」と思う顧客も少なくないはずです。

まさに顧客のなかに隠れていたマジック。それを、このブランドはとらえました。

車を修理に出すと、納車時に、修理を担当したメカニックが直接、必要な説明をしてくれるそうなのです。それも、高度なコミュニケーションスキルも併せ持つメカニックですから、顧客は「かゆいところに手が届く」「極上のアフターサービスを受けている」という特別感、感動を覚えるといいます。

こうしたアフターケアを提供することで、まさに「買っていただいてからのお付き合いが、自分たちの商品」という「あり方」を貫いているわけです。

自動車メーカーのなかには、売れるまでは顧客を手厚くもてなすのに、売ったあとは疎遠になってしまう……というところも少なくありません。

一方、そのブランドは、「買っていただいてからのお付き合いが、自分たちの商品」という「あり方」を定めました。

修理のご依頼を受けたときに、本当にお客様が望んでいることは何なんだろう、私たちは何をお客様に提供すべきなんだろう――そう真摯に考え抜いたからこそ、「本当に詳しい人から大切な車の状態の説明を受けたい」というマジックを探り当て、それを圧倒的な質で実現することができたのです。

もうひとつ挙げると、アップル社なども、マジックを起こし続けている好例です。これには思い当たる人も多いのではないでしょうか。

パソコン、スマートフォン、タブレットなどを作っているメーカーは、アップル社のほかにもたくさんあります。でも、同業他社が「機能性」で競っているなか、アップル社のCMでは、日本に進出したときからずっと、ほとんど機能性について語られません。

その代わり私たちの目に飛び込んでくるのは、「アップル製品を持つと、こんなにおしゃれで素敵な毎日が待っている」というイメージです。

つまり、アップル社が扱っているのは、そんな「ときめきに満ちた生活」であり、さまざまな機能を兼ね備えた製品自体は、そのための手段といっていいでしょう。

消費者がアップル製品にウォンツを感じるとき、そこには、大きな期待があります。

それは、機能性というニーズだけでは想像もできないような、素敵なマジックが起こる、というワクワク感です。アップル社が、世界中で熱烈なファンを獲得しているのは、アップル社が絶えず起こしているマジックゆえのことなのです。

これらの例からも、きっと感じ取っていただいていることでしょう。つまるところ、マジックとは「ほかにはない価値」「お客様自身でさえも気づいていない価値」を提供するということなのです。

ただ、価値を提供するといっても、相手が求めていない価値では意味がありません。「ウォンツ、ニーズ、マジック!」とは、ピント外れな価値ではなく、確実に相手を感動させる価値となるように、相手と真摯に向き合い、唯一無二な自分の行動を磨き上げる思考プロセスであるといってもいいでしょう。

一瞬の選択力
今井 千尋(いまい・ちひろ)
1975年神奈川県生まれ。立教大学卒。株式会社オリエンタルランドに入社。ゲストサービス、人財育成トレーニング業務に従事。ゲストサービス関連の受賞も多数。株式会社ユー・エス・ジェイに入社。トレーニングSVとして、各部署人財育成・開発を歴任。その後、コミュニケーションエナジー(株)を経て、(株)ワンダーイマジニア設立。現場V字回復人財育成コンサルタントとして、中小~上場企業、各種団体、上海を中心に研修、講演、コンサルティングに従事。ディズニーランドの創始者であるウォルト・ディズニーの哲学「夢は願うものではなく、叶えるものなんだ」を自らの体験としてわかりやすく、感動と驚き、情熱をもって伝える、その独特の人財育成トレーニングメソッドは、熱烈なファンも日本全国・海外にも多い。著書に『ディズニー・USJで学んだ 現場を強くするリーダーの原理原則』(内外出版社)がある。
現 株式会社ワンダーイマジニア 代表取締役。

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