遺言書は、被相続人の最後の意思表示と言えます。財産の分割方法や、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨を記すことで、自身の希望通りに財産を次世代に承継できますが、例えば「次男だけには財産を渡したくない」という場合の意思表示はどのように行えばいいのでしょうか。今回は、このような場合に活用できる「相続人の廃除」についてお伝えします。

相続人の「廃除」とは?

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(画像=perfectlab/Shutterstock.com)

特定の相続人に財産を渡したくない場合は、遺言によって他の相続人への相続分の指定などを行うことによって、その相続人に財産を一切渡さないようにすることができます。ただし、その相続人に遺留分がある場合は、遺留分侵害額の請求によって遺留分相当額の金銭を受け取ることができます。

この遺留分侵害額を請求する権利を含めた相続権をはく奪し、相続人から除外する制度が相続人の廃除です。ただし、「気に入らない」「性格が合わない」といった理由で廃除できるわけではありません。廃除するための要件は、民法で以下のように定められています。

(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

つまり、遺留分を有する相続人が被相続人に対して虐待・重大な侮辱を行った場合や、その相続人本人に著しい非行があった場合は、被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の請求(審判の申立)をするか、遺言によって排除の意思表示をすることで、その相続人の相続権をはく奪することができます。

なお遺留分を有しない兄弟姉妹については廃除ではなく、遺言で他の相続人に財産を相続させる意思表示をすることによって、財産を渡さないようにすることができます。

どのような場合に該当するのか

廃除は家庭裁判所によって認められる必要がありますが、どのような場合が虐待・侮辱・非行に該当するかは裁判所の判断に委ねられます。

例えば、相続人が被相続人に対して日常的に暴言を吐く、ギャンブルによる多額の借金を肩代わりさせる、継続的に暴力をふるう、被相続人名義の不動産を無断で売却する、といった行為が挙げられます。

その内容や程度を考慮し、生前の廃除については、申立をした被相続人とともに申立をされた相続人に対してもヒアリングなどを行い慎重に判断されます。遺言による排除の場合は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求します。

相続人の廃除の審判が下った場合は、推定相続人廃除届書とともに審判書謄本・確定証明書を届出人(被相続人または遺言執行者)の住所地の市区町村役場に提出することになります。これによって、排除された相続人の戸籍には「推定相続人廃除」の記載が加わります。なお、一度行われた廃除を取り消すこともできます。また、生前に被相続人が家庭裁判所に改めて請求をするか、遺言によって取消すこともできます。

他の相続人などへの影響は

廃除された相続人がいる場合、法定相続人が1人減るため、他の相続人の法定相続分は増えることになります。

但し、廃除された相続人に子などがいる場合には、代襲相続人として財産を受け取ることができ、廃除したい相続人には財産は渡りませんが、その直系卑属には財産が渡ってしまうことになります。廃除はその相続人のみに効力が及び、代襲相続の権利までには及ばないのです。

このように、許しがたい虐待や侮辱を受けた場合や、相続人の非行が目に余る場合は、廃除という方法で相続人から除外することができます。こちらも遺言と同じく、被相続人の最後の意思表示と言えるでしょう。(提供:相続MEMO


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